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超少子高齢化の最中、財政健全化をするにはどうしたらいいか
財政健全化は、少子高齢化が進む日本社会において避けては通れない課題です。高齢者が増え続けるなか、社会保障費は膨張し、労働人口の減少によって税収増は望み薄になっているのに、国民民主党が騒いでいる「現役世代への減税」や、れいわ新選組が声高に主張する「財源の裏付けもないバラマキ的な給付拡大」などは、現実的な解決策どころか、ひたすら混迷を深めているようにしか見えません。まあ、小手先の甘い言葉にコロッと騙される国民をバカにするのも気が引けますが、あのように「維持不可能な財政構造を放置しつつ、耳障りの良い政策で支持をつなぎ止めよう」としているようにしか思えない以上、厳しい評価になって当然でしょう。
財政再建を考える際には、まず基本的な環境要因を確認すべきです。日本は少子高齢化によって人口構造が根底から変容しており、若年層は減少し、高齢者は増加しています。結果として、年金、医療、介護といった高齢者向けの社会保障給付は拡大し続け、若年層が希少化して税収は増えにくくなっています。総務省や内閣府の資料(※1)によれば、2025年には団塊の世代が75歳以上に達する「2025年問題」が本格化し、医療・介護費用がさらに膨らむ見込みです。こうした構造的要因は、国債残高がGDPの2倍を超える(※2)異常な財政状態に拍車をかけています。
インフラを削ればいいという意見がありますが、インフラ整備は簡単に削れないのが実情です。なぜかって?日本は急速な高齢化に加え、地震、台風、水害など多様な自然災害リスクに備えていかなければならないからです。特に大規模な地震は高確率で起こると試算されており、国家経済や国民生活への影響を最低限にするためにも、地震対策は急務でしょう。老朽化した橋梁やトンネル、水道管、堤防などの更新、新たな防災インフラ整備など、やるべきことは山積みです。インフラ更新を先送りすれば、将来的にさらに膨大なコストが発生しますし、国土強靱化は長期的な命題であって、むしろインフラ支出を増やさざるを得ない局面なのです。
こうした状況で財政健全化を考えると、残念ながら大きく削減可能な分野は社会保障費以外にあまり見当たりません。誤解のないように言っておきますが、社会保障の本質は国民生活の安定と、持続可能な社会基盤の維持にあります。しかし、今の制度では医療費、介護費、年金がひたすら膨張するばかりで、すでに限界が見え隠れしています。生産年齢人口が激減し、財源の確保が困難ななか、高齢者向けの社会保障を「聖域」として死守するなんて、もはや夢物語です。延命治療に広く保険を適用し、医療費を積み増す現行制度も、根本的な見直しが避けられません。国民皆保険制度を堅持するとしても、延命措置への保険適用には厳しい制限を設け、「死」や「老い」と正面から向き合う社会の再設計が必要なのです。そんな苦い現実から逃げ続ける人々を見ていると、甘い言葉を並べ立てるだけの政策論がいかに空疎か、呆れるばかりです。
また、社会保障の削減・再構築と並行して「社会復帰への支援強化」に力を入れるべきです。誤解がないように言いますが、これまでのように給付を受けて生活していくのではなく、再び働いて納税できるような仕組みに切り替えることを意味します。若者や働ける高齢者が再教育や職業訓練を受けて労働市場に戻れるよう支援し、育児・介護の負担軽減で若年労働力を確保する。こうした地道な取り組みは即効性はなく、政治的アピールにはイマイチですが、長期的な社会再生産には不可欠です。耳障りの良いキャッチフレーズを好む方々には退屈でしょうが、ここをおろそかにして持続的な経済・社会基盤など築けるわけがありません。
もちろん、不要な事業の洗い出しも必要です。既得権益に守られた補助金や、必要性が疑問な大型公共投資が山ほど転がっているのは周知の事実でしょう。こうした利権や無駄遣いをバッサリ切り捨てる覚悟がないのなら、国民負担の軽減など夢のまた夢です。情報公開が進んだ今、無駄な事業は市民やメディア、NPOが次々と指摘してくれますから、政治はそれに応えることで信頼回復の一歩を踏み出せるでしょう。まぁ、本気で取り組む気がないなら、いつまでも「やってる感」だけ出してお茶を濁すのでしょうけれど。
それでも、歳出削減努力だけではどうしても限界があり、結局は税制改革が避けられません。しかし、これ以上の増税となると、悪影響も多いですし、経済活動への悪影響を考えると困難です。これ以上の所得税や法人税の増税は、すでに海外へ資産を逃がし始めている富裕層や企業をさらなる「国外逃避」へと駆り立ててしまいます。財務省や日銀のレポート(※3)によれば、富裕層はすでに複数国籍取得や海外不動産投資を活用して資産流出を進めているとされます。無分別な増税で、この傾向が加速するのは火を見るより明らかでしょう。増税するにしても国外逃亡ができない貧困~中間層が影響を受けるような増税にすべきです。
財政健全化には長期的な視点と大胆な制度改革が不可欠です。インフラ整備は中長期的な投資として強化しつつ、社会保障は縮小と再配分の見直しを迫られています。同時に、無駄な事業を廃止し、富裕層や企業がわざわざ海外に逃げ出さないような税制度やビジネス環境整備も必要です。こうした難題を「現役世代への減税」や「財源なき給付拡大」といった、その場しのぎの甘言で解決できると本気で信じているなら、相当おめでたい思考回路でしょう。
いくつか確認点を挙げておきます。
(※1)内閣府や総務省など公的資料から、高齢化率の上昇や社会保障費の増加は自明ですし、2025年問題は厚生労働省資料でも繰り返し指摘されています。
(※2)財務省が公表する国債残高やGDP対比の国債発行残高を見れば、日本が先進国中でも異常な水準であることは一目瞭然です。
(※3)富裕層の海外移転や資産流出は国税庁や財務省の資料、一部報道、OECDやIMFの指摘でも示唆されており、グローバル化した資本市場で富裕層が簡単に資産移転できることも公然の秘密です。
こうした事実を踏まえれば、少子高齢化の時代に財政健全化を実現するには、国内制度の根幹にメスを入れる根本的改革が不可避です。甘い言葉をまき散らしたところで、苦い現実からは逃げられないのです。真の持続可能な財政運営を目指すなら、耳障りの良いだけの偽物政策にうつつを抜かすのは、もう終わりにすべきではありませんか。