山で遭難は、する
遭難などしない
そう考えている事で遭難しないのならば
誰も遭難しないだろう
判断を誤る
それだけで遭難してしまうものなのだ
あれは、中学生に上がった頃だった
缶けりが得意なのでKとしておこう
Kとわたしは行ったことのない場所に行くのが好きだ
自転車で遠くまで行く事もあるし
知らない道に入って行く事もある
川づたいに上流を目指したりもする
川の中ならばもはや鮭だ
この日は、自転車で坂道をひたすら
登っていたら山への入口みたいな所に
辿りついた
そこだけ木が無い
まるで、入って来いと
言ってるようだった
わたしとKは同じように感じていた
未知への入口の発見
ワクワクしていたのだ
時間はお昼を過ぎた頃
入口に自転車を置いて置こうか迷ったが
ここに戻ってくるかも分からない
持っていく事になった
自転車を押しながら
山へ入っていく
Kは頼りになる、虫も爬虫類もへっちゃらだ
身体能力も高い
Kと一緒なら大丈夫だ
わたしはどこか安心していた
入ってまだそんなにたってないけれど
道のようなものはなくなった
木と木の間隔は空いていて
自転車を押すぶんには問題はない
平坦な道を来たと思っていたが
少し下り気味だったのか
来た方向を見るとやや見上げる形になった
木の間から漏れる光が眩しい
Kと話す
先に進むか、それとももう戻るのか
時間はまだあった、それにワクワクした割には
まだ満足していない、遊び足りていなかった
もう少し行ってみよう
それに下っていけば見たことのある場所へは
出るはずだ
高くは登ったが遠くへ来たわけではない
この地域はわたしたちの遊び場
道路さえ見えれば、すぐにどこか分かる
それは、甘い判断だった
ズルズル
ズルズル
自転車を押しての下山は
元の道へ戻るという選択肢を奪っていく
来た方向を見上げると、もう自転車と一緒には
到底登れない
枯れた落ち葉のせいで滑る
わたしたちは、降りるしかなくなった
あんなに間隔が空いていた木も少し狭くなり
しかも山の中腹なのか、まわりを見ても木しかない
方角も場所も分からなくなっていく
山の中にいる、ということしか分からなかった
高い木に覆われているし、日も沈み始めた
わたしたちには焦りが出てきていた
山を降りきれば、知っている所には出るはず
だが今の状況は、誰がどう見ても
遭難している
下を見ても木しか見えない
ゾッとした
知っている所に出たとしても
それは、明るかったら分かるだろう
というだけで、真っ暗だと分かりようもない
日が暮れたら、確実に遭難する
わたしたちは急いだ
日が暮れる前に下山して
知っている道に出なければ
焦りは恐怖に変わり
2人共必死で自転車と降りていく
自転車が邪魔だ、本当に遭難するくらいなら
いっその事捨ててしまいたい
その事をKに話す
Kは嫌がった、それもそうだ
そもそもKが新しいマウンテンバイクを
買ってもらったから、坂道をひたすら登り、
入口に置いていくのも嫌で
ここまで連れ添ってきたのだ
Kの気持ちは、自転車と共にあれば悔い無し
絶対に置いていかない、という強い決意だった
男だ、君は漢と書いて漢だよ
2人共半ベソだったが
それがあったから踏ん張れたんだと思う
もうかなりの時間、山を降りてきた
腕も足も痛い、ズボンの裾もボロボロだ
山の中で木しか見えないと、恐さに呑まれる
Kが、今何かいた!なんて言いだすから
余計恐い
ホーッ!とかハーッ!ハーッ!とか遠くなのか近くなのか、反響して聴こえてくるし
ザッザッ、ザッザッと地面の音も聴こえる
獣なんて出たらわたし達は良い餌だ
山の中は思ってる以上に恐い
まるで防犯カメラのないスラム街だ
たぶん、もともとスラム街にカメラはない
もう日が暮れるか暮れないかの時だった
少し先に行ってたKが声を上げる
どうやら知ってる場所が見えたらしい
Kの方に降りてみる、見た事のある景色だ!
ホッとした
このまま山に喰われるのかと思った
山は、どうにか降りれた
けれども、目の前はちょっとした崖だ
2メートル程はある
降りる事は出来る
が
問題は自転車だ
Kは、ふっ切れた顔をして
自転車を放り投げた
わたしも、続けて投げた
2人共笑っていた
何時間も手から離せなかったのだ
今思うとストレスを目に見える形で
手に握っていたのだ、それはそれはスッキリした
幸い、自転車はそんなに壊れはしなかった
音はすごかったが
帰り際Kに、よく投げようと思えたなと聞いた
Kは言った、壊れても物(本体)があれば直せるからと
たしかに
置いてこなくて良かった
降りた後、山を見上げる
知ってる(見たことのある)山だ
外から見るのと実際に入るのとでは
こうも違うものなのか
あの山の中に人がいるとしても
全くわからない
今なら、スマホで分かるかもしれないが
あの頃はガラケーも無かった
ポケットに入ってたのはせいぜい
ヤッターめんか花火用のマッチ箱くらいか
遭難は、気づくまで分からない
気づいた時には、遭難している
判断を誤れば、どんどん希望的観測に頼る
事になりかねない
教訓とはこうして得ていくのだろう
わたしとKは誓った
二度と自転車と一緒に山に入らない
と
最後まで読んで頂いてありがとうございます
すごく近いイメージです
鮮明に思い出しました
まい様ありがとうございます