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【ショートショート】ベホマ

私は「ベホマ」の呪文を覚えた。

テレテレッテッテッテー(レベルがあがった)

【ゲーム】
ベホマとは、ドラゴンクエストシリーズに登場する回復呪文である。
味方一人のHP(体力)を全回復させる。

ニコニコ大百科より抜粋

たしかに私はこの会社で経理をしているので、「戦闘職」というより「サポート職」と言えるかもしれない。

それにしてもとんでもない力を手にしてしまった。

疲れても怪我しても「全回復」なのだ。
「ベホマ」という呪文は。

虚弱体質の私が急に元気になったので、怪しまれるようになった。

いつも私をいじめてくる先輩が話しかけて来た。

「なんか良い栄養ドリンクでも飲んでるの?」

栄養ドリンクなんて「ホイミ」にすら及ばない。

「信じられないかもしれませんが私、
「ベホマ」が使えるようになったんです。」

それからというもの、私は彼女から「ベホマ」と呼ばれるようになってしまった!

♪デロデロデロデロデロデロデロデロ デンデロン(呪いの効果音)

完全に変人扱いである。

「ベホマ」が使えるのに!

「ベホマ使ったら残業出来るよね。」

「ベホマで何とか出来るでしょう。」

「ベホマ」を何だと思っているんだろう。

ストレスは限界だ。

「ベホマさん。これ、お願いしま〜す。」

私、彼女だけは許せない。

「ちょっと、いいですか。」

人気の無い部屋に呼び出して問いただした。

「私そういう訳わかんない事いう人、苦手なんだよね。ベホマ使えるなら私を回復させてみてよ!」

いじめてくるせんぱい があらわれた!

今、彼女に「ベホマ」をかけてもほぼ体力は満タン。回復効果は実感できないだろう。

仕方がない。

こうげき

近くにあったカッターナイフで彼女の腹を突き刺した。

ズババババ!(かいしんのいちげき)

「ぐっ!」

「ベホマ!」

ピロピロピロリ!(じゅもんをとなえた効果音)

「あれ?」

服に穴が空いて少し血が付いたけど、
私が受けて来た精神的ダメージを差し引いたら
プラスマイナス0。

水に流してやる。

いじめてくるせんぱい をやっつけた!
けいけんちをかくとくした!

社内ではすっかり私の「ベホマ」がウワサになっている。

例の先輩は恐らく「訴えてもしょうがない」と思っているだろう。

なんせ「ベホマ」みたいな非科学的な現象は、警察も裁判所も取り扱っていないのだから。

今日は電気工事の業者が来る日だ。

私は立ち会いをしていた。

突然、業者の人が感電し、瞬時に遮断機が下りたものの火傷を負ってしまった。

「ベホマ!」

ピロピロピロリ!

しかしじゅもんはきかなかった!
ベホマは「しゃないのひとパーティー内」にしかこうかがないようだ!

そこに例の彼女がやって来て、胸ポケットからそら豆のようなものを出し、業者の人に食べさせた。

火傷は一瞬で回復した。

彼女はマウントを取ったときの目つきで、
「『全回復』は人のために使わないとダメなんじゃない?」と言った。

その豆は「仙豆」だった。

(終わり)

仙豆(せんず)とは、鳥山明の漫画『ドラゴンボール』に登場する架空の豆である。
非常に高い回復作用を持つ。ただし病気は治すことはできない。

ウィキペディアより抜粋

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