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2019dobutu
【ショートショート】話を聞いてくれる友だち
「俺、頭悪いから」
「いやいや、そんなことないよ。」
沢上はいつも俺の話を黙って聞いて、
最後にこう言って励ましてくれる。
そして、照れ臭そうに鼻を触りながら、頷いている。
俺はガソリンスタンドでバイトをしている。
この前も車を誘導しているときに危うくお客さんの車をぶつけそうになった。
メチャクチャ怒鳴られた。
店長にも「君は誘導しなくていいから」って言われて落ち込んだ。
次の日、
学校でそのことを沢上に言ったら黙って聞いてくれた。
そして最後に、
「いやいや、そんなことないよ。」
と言って鼻を触りながら、頷いている。
沢上の「そんなことないよ。」は、
頑張ろうという気持ちにさせてくれる。
沢上と同じ授業で試験があった。
大事な試験だ。
これを落とすと半年間の努力が水の泡だ。
試験結果が発表される。
沢上は合格。
俺は不合格。
また、沢上に愚痴を言う。
「俺、頭悪いから」
「いやいや、そんなことないよ。」
いつも通り励ましてくれる沢上。
でも、俺は沢上が合格だった僻みと甘えの気持ちから、イラついた口調で
「じゃあ、なんで俺は不合格だったんだよ?
頭悪いからじゃねーの。」
と言った。
沢上はいつもの口調で
「いやいや、そんなことないよ。
お前の努力が足りないだけだよ。」
と言った。
そのとき手は鼻を触っておらず、
代わりに口角が上がっていた。
(終わり)