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【ショートショート】最後の決断

大統領なんてならなければ良かった。

大統領は孤独だ。
勿論、相談のできるブレーンはいる。
しかし彼らは、どこまで行っても「伴走者」でしかない。
彼らの仕事は「提案」だ。
最終決定は大統領である私がする。

今日も難しい判断がたくさん上がってきている。
いつも通り優秀なブレーンたちは
あらゆる分析の結果から導き出した
案を作成してくれる。
俺はその中から選択するだけだ。

どの案もメリットとデメリットがあるのは当然だ。
つまり、急激か緩やかかの違いはあるものの、国民のうち誰かを切り捨てるという選択を常にしているといって良いだろう。

どのカードも悪くない。
ポーカーと同じだ。
下手なプレイヤーはワンペアしか作れない。
運の要素もある。
時には我が国だってワンペアのときがある。
そんなときのために、普段から種を撒いておくのだ。
いつもどおりの「フルハウスみたいな顔」が出来るかどうかが肝心だ。
「ポーカーフェイス」ではダメだ。

ついにこの決断をしなくてはいけない日が来た。
いつか来るとは思っていた。

いつも通り優秀なブレーンたちは
あらゆる分析の結果から導き出した
案を作成してくれた。

俺の指は震えている。

…「フォールド」だ。

俺は、初めてブレーンたちの案以外の決断を下した。
流石にブレーンたちの分析にも「フォールド」案はなかった。
「勝つ」という前提で分析しているから当然だ。

実をいうと、俺は大分前から判断していない。
君たちも必ず不幸になる人が出る決断を毎日毎日やってみろ。と言いたい。
決断するたび、心が引き裂かれる。
とっくに判断力は擦り減ってしまった。

ただ、俺を大統領にするため沢山の協力者が動いてくれた。
彼らを裏切ることは出来なかった。

そこでAIに従う決断をした。
もう何があってもAIのせいだ。

AIと言っても、歴代大統領のうち「戦争の決定をした大統領」の判断履歴を基礎にしたAIだ。
俺の残り少ない判断力で下した最後の決断は正しかったようだ。
きっと彼らは「戦争したことを後悔しているに違いない」と思ったのだ。

あとは、俺の「フルハウスの顔」にかかっている。

(終わり)

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