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【ショートストーリー】ひとりキャッチボール部

高校では全員部活に入らなければならない。そんな私立高校に入学した俺のリサーチ不足である。
そういえば時々、少年野球を思い出して無性にキャッチボールがしたくなる。
だから、野球部に入ろうと思った。
「野球部」と部活希望に書いて担任の先生に提出した。
先生にすぐ呼び出された。
「君、ウチの野球部は全国から推薦入学で来ている子たちがほとんどだけど、大丈夫?」
俺のリサーチ不足だった。
「先生、俺、キャッチボールがしたいだけなんで、エンジョイ勢ということでお願いできませんか?」
「一応、顧問に聞いてみるけど期待しないでくれよ。」
「ダメなら美術部がいいです。」
「…了解」

「君、顧問が野球部の入部を許可してくれたけど本当に入部する気かい?」
「はい!お願いします!」
「…了解」

「今年の新入部員は30名。お互い切磋琢磨して頑張ってほしいと思う。
それと、キャッチボールがしたいという君は別メニューで好きにやって良いから。
以上。」
仕方がないので、フェンスに向かって一人ボールを投げていたら、
新入部員は俺を抜かしたら奇数になることもあってキャッチボールのときだけ一緒にやることになった。
思ったとおりに事が進み過ぎて怖いくらいだ。
そんなガチ野球部の中でふんわりキャッチボールをする日々を送った。

半年も経ったころには練習が厳し過ぎたり、レベルの差に絶望したりで新入部員が半分くらいになっていた。
俺は相変わらず別メニューだ。
キャッチボールだけ参加させてもらっている。
休日の試合は、私服でフラッと行って手伝ったり客席から応援したり。
遠征の日は行けないのでグラウンドでベースランニングやマシン打撃など充実した設備を勝手に独り占めしていた。
ROUND1で遊んでいる気分だった。
実は平日も別メニューなのをいいことに暗くなる前にサッサと帰宅していた。

そんな感じでノーマークのまま2年が経ち、同級生たちは最後の夏に向けて必死である。
俺はと言えば、キャッチボールの相手から変化球を教えてもらったり、動画で投球フォームを研究したり「キャッチボール部」の活動を真面目にやっていた。
冬場、モテたくて筋トレを重視していたら球速が上がった。
楽しくなってメチャクチャ筋トレをした。
左で145キロ、右で140キロまで投げられるようになった。元々は左利きだ。
ダルビッシュが左右で投げた方がバランスが良くなると言っていたので遊び、というかそれしかやる事がないのでひたすらやっていた。
左右でどんな距離、どんな腕の角度からでも正確に投げられるようになっていた。
相手の捕りやすいところに投げるのがキャッチボールの基本である。
教えてもらった変化球はマスターしてしまったし、
あまりやることもなくなったので、遠投ばかりしていた。

監督が俺に「背番号11」を付けろと言い出した。
さすがに空気の読めない俺でもそれだけはヤバいということくらいは分かるので断った。

春の大会は決勝戦で敗れ、惜しくも甲子園には行けなかった。
チームメイトまで俺に「ピッチャーをやってくれ。」と言い始めた。
「俺は本当にエンジョイ勢でキャッチボール部がないから入れてもらっている部外者」ということを改めて説明した。

そして、夏の大会、野球部は甲子園大会にコマを進め、ベスト8という成績を残した。
俺は一般の生徒と一緒にアルプススタンドで応援した。
熱い夏だった。
ありがとう、野球部。

それから俺は大学受験に集中することにした。といっても一年の時から暗くなる前に家に帰ってコツコツ勉強していたのでかなり余裕があった。
せっかくなのでレベルをあげることにした。
難関大学に受かって六大学野球とかでまた、キャッチボール部ができたら最高だな、などと都合の良い妄想していた。

10月下旬頃、テレビを観ていたら俺が北海道の球団からドラフト指名されていた。
監督にプロ志望届は記念に出しておけと言われたが、まさかこんなことになるとは夢にも思わなかった。
俺の家に記者が取材に来た。
「俺は本当にエンジョイ勢でキャッチボール部がないから入れてもらっていた部外者」ということを説明した。

ここまで説明したのにも関わらず、
金と赤を基調にしたド派手コーディネート男が真っ白いスポーツカーに乗って挨拶にやって来た。

俺のリサーチ不足である。

(おわり)

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