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【ショートショート】100m

100mなんてやっても意味ない。

小学生のときから続けてきた短距離走。
俺はずっと無敵だった。

ひたすら練習した。
ずっと夢中だった。

そして、大学まで進学した。

でも9秒台に乗ったとき、
俺の世界がひっくり返った。

どこまでやっても「0秒」にはならない。

せいぜいこれからは9秒台を維持して、
ピークを過ぎたら少しずつ遅くなるだけ。
と思ってしまったのだ。

スーッと夢から醒めてしまった。

昔、「ドラゴンボール」で見た「精神と時の部屋」に投げ出されたみたいだった。

もういいやと思って、
ポテチとコーラを食べた。

陸上を始めてから一切食べていなかった。
夢中だったから、食べたいとも思わなかった。

すごく、美味しかった。

でも、美味しかっただけ。

陸上のお陰で大学に入れたわけだし、
辞める気にはならなかった。

あとは、「何となく」続けようと思った。

コーチが来る。

「お前、どうしたんだ?」って言ってるみたいだ。

耳に水が入っているような感じでよく聞こえない。

幅跳び?

久しぶりだけど跳べってことみたいだから跳ぶ。

1500m?

新鮮だ。

砲丸投げ?

見よう見まねで投げる。

棒高跳びはすぐ出来ないけどって言っている。

俺は十種競技に転向した。

まだまだ伸びしろだらけで、
毎日夢中だ。

100mも十種では点数に変換されて、
速ければ速いほど点数が「増える」

きっと俺は100mの「背中」ばかり追っかけていたんだ。

今は100mと向かい合えていると思う。

(終わり)

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