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【ショートショート】雪が降る

雪が降る。
もう日が沈む。

午前中からの吹雪で道はホワイトアウトし、車は立ち往生した。
この田園地帯では遮るものも無い。
ガソリンがなくなる前に助けが来なければ、あとは時間の問題だ。
妻と子どもも不安そうだ。

北海道は町と町とが離れている。
ここから町まで5km以上はある。
このホワイトアウトで車が埋まっている状態の中5km「雪を漕ぐ」勇気はない。
もし辿り着いたとしても妻と子どもを迎えに行けるだろうか。どうやって?
どんどん雪が積もり、排気ガスが逆流しないように時折マフラー周辺を除雪する。
こんなこともあろうかとスコップを車に載せていた。
今更学んでもあとの祭りだが、スコップを載せる前に天気予報に従った行動を取るべきだった。
消防に連絡したが、まず除雪車が来ないことには助からない。

向こうの方から光が近づいてくる。
投雪機を押した人だ!

「大丈夫かい?
消防からウチに連絡があってね。」
一番近くに住む農家さんだった。

車は残置して、農家さんの家で避難させてもらうことになった。

真っ暗な道を進む。
地吹雪が雪の表面を洗い流し、すぐどこからが歩道なのか分からなくする。
頼りは除雪車用の矢印表示だ。

子どもは黙って耐えている。妻も。
「しっかりして来たな」と場違いなことが頭をよぎる。

完全に芯まで凍えたが、何とか到着した。
助かった。
あるいは…と少し覚悟していた。
「3人とも無事」という現実が次第に身体に入って来て胸がギュウッと熱くなった。

「お子さんお風呂に入って」

見ると子どもの顔は真っ白で歯をカチカチ言わせている。車内の毛布を全部掛けたが吹雪で凍てついていた。
ギリギリだったんだ…。

翌日の夕方。

車道が復旧したので農家さんに礼を言おうとしたら、
「車の所まで送るからね。バッテリー上がってるかもしれないし。」と温かい言葉。

幸い、車は無事だった。
立ち往生した場所は自宅から車で20分くらいの場所だった。

家の前もすっかり雪で埋まっている。
疲れた身体に鞭打って最低限の除雪をする。

家の中は底冷えしていた。

ストーブを点けて服を着替えたら安心してドッと疲れが出た。

テレビを付けたら、お笑い芸人がハワイでロケをしていた。

ふと、「何故わざわざこの土地を選んで住んでいるのだろう」と頭をよぎったが、
同時に不思議とこの土地に対する愛着も増した。

(終わり)

↓シロクマ文芸部さんの企画に書かさしていただきました🐻‍❄️

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