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【ショートショート】書き写し里帰り

確かに、里帰りしたくなかった。
親とはもう何年も何の連絡もとっていない。
だから、書き写す。
写真を書き写すだけで里帰り出来る。
そう自分に言い聞かせる。
リアルに風景を思い浮かべる。
田舎の父母、親戚、友達
出来るだけリアルに。
そうすると、没入できる。
正月のようだ。
おせちをつまんでいる。
みかんとつきたての餅で作った鏡餅もある。
テレビでは漫才が流れている。
それを見るともなく見ている。
親戚が新年の挨拶にやってくる。
よそよそしく会釈する。
仕方がない。
思春期に会って以来なんだから。
やはり聞かれる「今何やってるの?」
苦笑い。

やっぱり無理だ。
まだ俺は何者でもない。
一人前になるまでは里帰りしたくない。
頑張るしかない。
そう心に決め机に向かう。

その机上にはいつのまにか
みかんとつきたての餅で作った鏡餅が乗っていた。

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