【ショートショート】アイドル発掘オーディション
日本最大手の芸能プロダクションが動画配信サービスを新たに立ち上げ、そこでアイドル発掘オーディションを配信する。
合格者は1名。
条件は「男性」。
年齢不問。
絶世の美男から金と名誉欲にまみれた有象無象まで様々な人間を観察できると話題になった。
名だたる企業の人事エキスパート100名余りがスカウトを受け、ふるいにかける。
見事に怪しげな人物は一掃された。
その模様も逐一配信され、人事の裏側と恐るべき人間観察力がバズり、閲覧者が爆増した。
じわじわとふるいの目が細かくなるに従い、
早くも候補者に「推し」が付き始めた。
トップクラスの「推し」を抱える候補者はオーディションの合否に関係なく優に活動可能な水準に達した。
だが、ここはさすがに人事エキスパートが選抜した面々である。
「問題を起こす者」と「すぐに辞める者」はいなかった。
最終審査には30名が残った。
とはいうものの、誰の目にも2名の候補者のどちらかで決まりに見えた。
「コウセイ」と「ユート」だ。
「コウセイ」は運動神経抜群。
生き物としての本能的な魅力に溢れていた。
「ユート」は目の輝き。
誰もがそのスケールの大きな人間性の虜になった。
1月1日。
一年に亘るオーディションの結果発表の日だ。
どちらが選ばれるのか。
視聴者は生配信に釘付けだ。
選ばれたのは「コータ」。
あまり目立たないが、強いて言えば堅実な印象の22歳の青年だった。
人事のエキスパートが総評を述べる。
実は、このくだりが一番アツい。
遠慮なしの辛辣な言葉を浴びせられるのだ。
「コウセイ」は問題を起こす。
「ユート」はすぐに辞める。
そして、選ばれた「コータ」はそのどちらでもない。
潮が引くようにこのコンテンツは白け、
やがて誰も話題にしなくなった。
だが、人事エキスパートの予言通り、
「コウセイ」は自身の配信チャンネル内での乱暴な行動が炎上し、人気を失った。
そして、「ユート」は放浪の旅に出てしまった。
一方の「コータ」は細々と活動を継続している。
人事エキスパートの目に狂いはなかった。
彼は最も「企業がほしがる人材」だった。
(終わり)