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【随想(シロクマ文芸部)】寒い日に
寒い日にウォークマンを聴きながら帰っていた。
真っ暗な雪の中。
音楽のことなんてよくわからない。
わからないけど心を揺さぶられる。
渋谷系と70年代のテクノが好きだった。
どちらも変にセンセーショナルで、マニアックで、この小さな街では全く場違いな感じで、何となくこっそり聴いていた。
音楽好きの友だちとだけはその話をする。
だが話した瞬間に、カイロウドウケツのガラス繊維で囲まれた空間のようになってしまうので、お互い隠れキリシタンみたいに振る舞っていた。
別の友だちが、流行りの曲やロックバンドのアルバムを貸してくれたこともあった。
特に好きではなくても、全部聴いてみることは好きだった。
ネットがない時代。
情報に飢えていて、とにかく懸命にそこにある「何か」を取り込もうとしていた。
飢えていたから、どれも美味しかった。
*
あの頃の気持ちはもう「上書き保存」されて、再生できない。
「当時好きだった曲」は今でも聴いてしまうから、「新しい思い出」で上書きされたのだ。
テレビから「懐かしの曲」として、あの時友だちが貸してくれたロックバンドの曲が流れてきた。
あの時の気持ちが蘇ってくる。
「好きではない」ことが幸いし、
当時のまま開封されずに残っていた気持ちが、
ワーッとそこら中に散らばる。
脳の快感物質がジワーッと溢れて、
胸がいっぱいになる。
どうでもいい記憶。
でも、思い出したかった記憶。
あの時に戻りたい。
だからと言って、
失敗したことをやり直したい訳ではない。
同じことを同じ風にやって、
当時考えていたことを思い出したい。
知りたい。
小さい街だったけど、
俺には充分で、
少し栄えていて、
適度に乱雑で、
箱庭のような場所だった。
今、「夢中な」人たちも、
いつかはこんな日が来るのだろう。
こちら側からひとつ言えるとすれば、
「「昔を懐かしむ」のは、そんなに悪いものではない」ということだ。
(終わり)
↓こちらの企画に参加させて頂きました🐻❄️