山下りかさんの手しごと
ライアー奏者、山下りかさんのと出会いは昨年の夏の終わり頃、画家の平澤まりこさん個展でのこと。
その時少し立ち話をしたのがきっかけとなり、昨年11月に岐阜県美濃市で開催されたマーマーフェスにて、私とTOkYO DRESSデザイナーの酒枝エミリーちゃんが出店したマーマーマルシェのブースに、りかさんが参加。当日は大雨の中、3人で物物交換やモノコト交換したり、雨の中りかさんの演奏を聴いたり…、忘れがたい1日になったのです。
8月に入り、
だいぶ経ちましたがマーマーフェスの打ち上げをしませんか?と、りかさんからお誘い頂いて、鎌倉の古いお家を改装したりかさんのご自宅に、エミリーちゃんと伺いました。
マーマーフェスの後、りかさんの演奏会にお邪魔したり、私の森に来て頂いたりと、ポイントではお会いしていたけれど、こうやってゆっくり3人で集まるのは久しぶり。
ほとんどご自身で改装したという、隅々までりかさんの手しごとが息づいた美しい空間で、お手製の梅と薔薇とハーブの酵素ジュースで喉を潤し、持参したロゼワインで乾杯。
昼前から仕込んで冷蔵庫で冷やしておいたという、夏野菜料理が次から次へとテーブルに並び、一口ごとに全身震える美味しさをエミリーちゃんと感動を伝え合って、食べて、飲んで、また話が弾み、夏の日が暮れてきいました。
日が暮れると、りかさんのお家にご近所さんが訪れます。一緒にテーブルを囲んだご近所さんの1人、チェルシー舞花ちゃんと私は10年以上ぶりの再会でした。私はメイクアップアーティスト、チェルシーはモデルとして。
撮影現場で出会った私たちが再会し、今は森や小屋について語り合う、人生の展開って不思議で面白くて楽しいなぁ…。
りかさんの手の掛かった、美しい小惑星のような場所では、美味しさも、笑いも、懐かしさも、未来のことも、全てがこの一瞬にあるかのようでした。
ライアー奏者として出会ったりかさん。
楽器を奏でるのも、彼女が伝える季節の手しごとの美しさも、人や自然への愛情の掛けかたも、同じ人生のあゆみの中に在り、その全てをウフフと楽しむりかさんの感受性を分けて頂いた、素敵な夜でした。
ライアーについて
りかさんが演奏するライアー(ライア)Leier(ドイツ語表記)Lyleとは、20世紀初頭にスイスで生まれた比較的新しい楽器です。
音楽家であったエドモンド・プラハトが、障がい者施設の療法楽器として考案し、それからシュタイナー学校でも、音楽の時間に取り扱われるようになり、一般の演奏者にも広まっていきました。
私は森と出会ってから、そこで奏でられるものが欲しいと考えていました。
子供の頃に9年間習ったピアノも考えたけれど、木々のざわめきと共鳴するには強い気がして、探すともなく「森で奏でる楽器」を心に留めていたところ、snsでライアーのことを知り、その後すぐに参加したイベントで”琴”というワードを受け取り、本格的にライアーの事を調べ始めたのです。
ライアー奏者の山下りかさんというお名前を私に教えてくれたのは、「カズテラモリ」という名前を授けてくれた服部福太郎さん(その事はまたちゃんと書きたい)でした。
それから少しして、冒頭に書いた平澤まりこさん個展で、私はりかさんとお目にかかることになるのですが、はじめまして…と挨拶しながら、内心喜びに溢れていたのでした。
りかさんの奏でるライアーと歌声の美しさと優しさ、そして何より、りかさんご本人の人柄に惚れてしまった私は、りかさんにライアーを学ぶと決め、りかさんに福岡県にあるザーレムライアーやシュタイナー教材などを取り扱うお店・ペロルさんを紹介して頂き、今年2月、ドイツの職人さんが手作りする、世界にひとつのライアーをオーダー。
ペロルさんでカエデで作られたライアーを抱かせてもらった時、亡くなったばかりの愛猫の”なこ”を抱いた時と全く同じ重さや感覚に、懐かしい驚きを覚えました。弦を弾くと、優しく響く音が静かにお腹の中に広がり、細胞のひとつひとつと共鳴しあうような、不思議な幸福感に包まれます。
その響きは耳をすましていないと聞こえないほど繊細なのに、音の振動が空間の端まで届いて場を作るのです。
10ヶ月以上かけて作られるライアーが私のもとに届くのは、今年の秋頃。マイライアーを背負って、りかさんのレッスンに通うの日が、楽しみでなりません。
以下、ペロルさんのHPより抜粋します。
プラハトがライアを考案したきっかけとなるエピソードをご紹介します。
彼は、スイスのドルナッハ近くにある
ゾンネンホフという障がい者施設で働いていました。
ピアニストでもあったプラハトはある日のこと、障がい者の人たちに、自分の素晴らしいピアノの演奏を聴かせました。
ところが、障がい者の人たちは
その演奏を喜ぶどころか、耳をふさいだのです。
彼はショックを受けるとともに、その原因を考えてみました。
そして、強大な張力によって張られた
ピアノの弦から生まれる音に、
敏感な障がい者の人たちは耐えられなかったのだろう、と思い至りました。
そして、弦の張られたフレームをピアノの中から取り出し、
それを指で直接弾くという楽器のイメージがわいてきたそうです。
ハープとライアの構造の大きな違いは、ハープの弦が直接共鳴箱(下側)から出ているのに対し、
ライアはギターのように共鳴箱の上にブリッジがあり、そこに弦が乗っています。
また、ハープはガット弦が使われているのに対し、ライアは金属弦が使われています。
療法楽器として生まれてきたライアは、
人の胸の領域に働きかけ、人をリラックスさせ、
歌を歌いやすくする働きがあるといわれています。
森とライアー
今年の5月、間伐によって丸裸になったように見えた森で、りかさんがライアーを奏でてくれました。
森に溶け込むようなライアーの振動が、木々に溶け込んでいくよう。
マイライアーが届く前に気が早いけれど、私の森で、りかさんとライアー共演するのが、私の目標です。
私が曲を弾けるようになるのはまだ先のことだけど、森での手しごとで私の空間を作りながら、ゆっくりと森と私とライアーとの仲を、深めて行こうと思います。
2023.8月
早坂香須子
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