チームにとってTOXICなメンバーが去ると知ったとき、どう反応するか
年内最後の出張を終え、しばらくは心穏やかに仕事を進められそうだな、と安堵していたのも束の間。
来年の案件が動き出し、キックオフのための調査や準備に着手することになった。そのプロジェクトで、およそ半年振りに、協働に苦労する社内関係者とチームを組むことになった。
彼女は、とてつもなくクセも当たりも強いタイプの人で、昨年の私は何度も悔しく悲しい思いを経験し、彼女から受けた言葉や態度について上司に報告する際、涙を流したことも少なくない。
オンライン会議で久々に彼女と顔を合わせ、早々にお互いの近況報告を済ませる。同意を得たかったいくつかの論点を持ち出していくと、ある項目でみるみると彼女の表情が険しくなり、意に沿わない点を強い口調で責め立て始めた。
そのとき私は、「これは、彼女の強い感情に流されてはいけないやつだ」とすぐさま自分の心に蓋をかぶせ、彼女の言葉を受け止めないと決め込んだ。
画面の向こう側ですれ違う人々に対して、私に向けるのとは正反対の態度と声色を取る彼女を見ても、もはや何も感じなかった。
私はこの半年で様々な社内関係者から刺激を受け、学んできた。経験を積んだ上での自信である。
オンライン会議が終わったあとも、双方の上司までをも巻き込んでメールが行き交い、合意に至るまでやり取りが生じた。
「あぁ、生産的とは程遠い、この不要不毛な応酬がまた待っているのか」とげんなりしていた先日のこと。
「いますぐ話したい。オンライン会議に入れるか?」と、私と同じチームの同僚から呼び出しが入った。
オフィス内の会議スペースへ移動する間もなく、私は慌ててヘッドセットをつけて会議に入ると、同僚と上司が待っていた。
「ポーカーフェイスを保てるか?」と変なことを訊かれる。
「努力する」と答える。
「彼女が会社を去ることになった」
そう告げられて、私は一瞬、固まった。どう反応したらよいのか、戸惑ったからだ。
聞くに、彼女自身が人員整理の対象になったと、本人から直接、同僚に知らされたという。組織編成がゆえ、という事情説明に加え、彼女自身の健康問題に向き合う時間にしたい、という理由も述べていたそうなのだが、「ついに十分な証言が集まり、彼女の上司が動いたのだな」とピンときた。
対応に苦慮し、ズタボロな思いをしていたのは私だけではなかったのだ。チームのパフォーマンスや心理にネガティブな影響を及ぼす行為は、会社が掲げるバリューにも沿っておらず、組織として許容されるはずがない。
振り返れば随分と時間がかかったな、などと思いつつ、どうにも私は諸手を挙げて歓喜できなかった。飛び上がって喜ぶだろう、と予測(期待)していたらしい上司は、私が「複雑な感情が入り混じっている」と答えたことが意外だと、少々落胆した様子を見せた。
上司には「Don't be kind. You do not need to feel any empathy to her at all.」などと言われたが、どうにも形容しがたい居心地の悪さのようなものが残ったまま、オンライン会議を終えた。家へ帰り、「はて、あの複雑な感情の正体はなんだろう?」とぼんやり考えた。
TOXICなメンバーとはいえ、彼女にうっすら期待していた変化を見ることができないのが残念でならないこと。
身から出た錆だが、リダンダンシーを受けるという事実の重さに同情を禁じ得ないこと。
喜びを隠しきれていない上司が、私も躊躇なく喜ぶだろうと思っていたこと。
こんなところだろうか。
「いいこぶるな」という上司の声が聞こえる気がするが、白黒つけがたい反応を私は選んでしまうのである。