舞台『千と千尋の神隠し』ロンドン公演を観てきた、ちなみに2回目
舞台『千と千尋の神隠し』が、ロンドンでも公演を行っているというので観てきた。期待以上に素晴らしい公演だったので、千穐楽前にもう一度観たい!と思い立ち、前々日にチケットを入手し、2回目を観てきた。
キャストの違いによる表現の差は多少あれど、2回とも素晴らしかった。余韻が残っているうちに、特に印象に刻まれた点を記しておこうと思う。ネタバレありです!
再現度の高さ、舞台装置と演出
最後にアニメ版を観たのはいつだったか忘れてしまったが、最初から最後までストーリーが忠実に再現されていたのはお見事。千尋が迷い込む「油屋(湯屋)」の世界の再現度も素晴らしく、からくり屋敷のような舞台装置の転換と細やかな表現方法によって、アニメ版を立体で観ているような没入感だった。
特に「なるほどなぁ」と感嘆したシーンを挙げる。
両親が豚に
小さい子にはトラウマになるであろう出来事。油屋が回転し、両親が醜い姿になって振り返る場面は、観客の興奮を一気に惹きつけていた。千尋の動き、ハクの所作
全体的に、キャラクターの年齢・性格がそのまま体現されていた。1回目に観た公演は特に、千尋・ハクとも声・容姿・動きがアニメ版そのままで耳目を疑った。千尋がハクに釣り上げられるように立ち上がる、梯子の段を踏み外す、ハクのしなやかで流れるような仕草、そうとう稽古したに違いない。一瞬で登場する縄
オクサレに刺さった何かを引っこ抜くときに、一列に並んだ人々の手に一瞬にして登場する一本の縄。隣の人も、「 How did they do that!?」と思わずつぶやいていた。エレベーター
おしらさまと千尋がエレベーターに乗っている場面や、ハクと千尋が逃げる場面で、複数の板をダイナミックに回転させたり反転させたり、よく考えられてるなぁと見応えがあった。湯婆婆・カオナシの顔デカ変体
観客のウケが良かった表現の一つ。複数人で一つのキャラクターのパーツを操るのはすごい。チームの連帯感よ。チビキャラはパペットで登場
ススワタリ、青蛙、坊ネズミ、ハエドリ、呪いの虫(正式名称不明)が巧みなパペットで表現されていて悶絶した。操る人の顔が見えて、黒子のように隠されていない点も良かったと思う。ハク飛翔時の遠近表現
竜ハクが空を飛び、油屋の裏手へ回った瞬間に小さなパペットに入れ替わり飛び去っていく表現も、なるほどなぁと言わずにはいられない。オクサレが飛び去る際のサプライズ
舞台ならでは!鳥肌ゾワゾワ、一瞬で変わるご飯・金塊
千尋の全身が総毛立つような鳥肌、クサレガミの臭いで腐るご飯、呪いが溶けて泥に変わる金塊、芸が細かいこと!
外国人でも笑ってしまうポイント
くすっと笑ってしまうような演出が所々に散りばめられているのも、この舞台がロンドンで人気な理由かもしれない。言葉に頼らずとも、見た目や動きで伝わる笑いを目の当たりにした。
千尋の仕草
がに股で地団駄を踏む場面、やっぱり笑っちゃうんだ、特に大人は。ほぼ裸のカシラ・おしらさま
表現の都合上、両キャラとも褌一丁のほぼ裸。それぞれが登場したとき、毎度どっと笑いが起きていた。コミカルな見た目って、日英共通なのかもしれない。カオナシの動き
カオナシの本来の存在理由や込められたメッセージも知ってほしいけれど、舞台では奇怪な動きをする正体不明のキャラクターとして際立っていたと思う。特に、前を向いたまま縁側に足をかけヒラリと翻って上がる仕草や、変な方向を向いたまま湯船に滑り込む動作、海をスイスイと泳ぐ様は、「どうやったらあんな動きができるのか」という驚きを含んだ笑いだったように感じた。サボり出すススワタリ
千尋が一人に手を貸した瞬間、持っていた燃料を一斉に投げ出し、ピーピーと弱音を吐くススワタリ。人間にも共通する心理は、皮肉めいてい苦笑いしちゃうよね。「ボーイフレンド」「LOVE」
釜爺がハクのことを「ボーイフレンド」と揶揄したり、千尋の原動力は「LOVEじゃよ」とリンに諭したり。釜爺の風体自体が突っ込みどころ満載なのだが、文脈で笑いが起きるのも観客の一体感があって良かった。
日本の文化・習慣を感じた仕草
より一層「日本の文化・習慣」を感じさせられた仕草も挙げておきたい。
お辞儀・土下座
みんな並んで一列に床を雑巾掛け
座敷に上がるときは靴を脱ぐ、外へ出るときは靴を履く
一本の紐を口にくわえ、器用にたすき掛け
一つの部屋に布団で雑魚寝
従業員は客用入口ではなく、正面横の小口から
ヤカンからそのまま水分補給、釜爺
「ソーレ!アソーレ!ヨイショー!」掛け声、踊り、扇
英訳の妙
ロンドン公演は、俳優の話す日本語に合わせて、左右上部に設置されたスクリーンに英訳が表示される仕様。舞台を見つつ、台詞の英訳を確認しながら鑑賞したので忙しかったが、なるほど、そう訳すのかと勉強になった。複数あるのだが、2つだけ記しておく。
「エンガチョ」"Un-Jinx"
エンガチョ、なんて言葉自体を久しぶりに聞いたのだが、「ジンクスを破る」という英語になっていて、へぇ!と言葉が漏れた。「きっと」"Promise"
物語の終盤、千尋とハクの別れの場面で、「また会える?」「きっと」という言葉が交わされる。ハクの正体が、いまは埋め立てられてしまった小川だったと知ってからの別れ。再会できる望みなんてわずかだろうに、それでも「きっと」が「Promise」と表されていて、じわりと涙が滲んだ。
ストーリー、そして久石譲の音楽
私が鑑賞した2回とも、日本人観客の割合は感覚的に1〜2割程度で、それ以外は多国籍だった。年齢層も幅広く、大人のグループも多く見かけたのも、「Spirited Away」の知名度と、大人にも響くストーリーやメッセージがゆえだと思う。
私自身、数年ぶりに「千と千尋の神隠し」を観て、特に響いた点を挙げるとこの2点だろうか。
千尋の成長
大人の事情で転校せざるを得ず、かつ両親の好奇心・欲によって放り込まれた不思議な世界で、怖い思いをしながらも困難を乗り越える千尋。
はじめは、「クズ」「ノロ」と罵られ、「はい、とか、お世話になります、とか言えないのかよ」といびられながらも、徐々にしっかり返事ができるようになって最後には「お世話になりました」と御礼を言えるまでに。久石譲の音楽
ジブリ作品の世界観と切っては切り離せない存在であることはいうまでもないが、久石譲によって紡がれた音楽を日本を遠く離れた地で聴くと、さらに一層涙腺に沁みるのはなぜだろうか…
生オケが入っていて、臨場感ある演奏が聴こえてくるのも素晴らしい。
実はあともう一つ、「外国人には解釈が難しそうな点」も記そうかなと思っていたが、長くなってしまったので割愛する。気が向いたらいつか書くかもしれない。
ロンドンでの公演にあたり、ディレクションや監修に様々なプロフェッショナルが関わっているが、日本公演も行っていた俳優や演者によって日本語で実現されたことが驚きとともにとても誇らしい。
日本のストーリーや文化がさらに発信され、日本で活躍している人がますます海外で躍進することを願いつつ、自分も日々の生活や仕事で頑張らねばな、と勇気づけられた舞台だった。