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全然知らない人に挨拶してた

オフィスのパントリースペースは小ぶりながら、コーヒーマシンや給水器、電子レンジが設置されていて、軽い社交場になっている。

朝は、取り立てて美味しくはないが、飲めなくもないアメリカン。
お腹が空いたら昼前にカフェラテ。
眠気が襲ってきたらエスプレッソ。
硬水だが飲まないよりはマシ、スティルウォーター。
私のルーティンである。

パントリースペースで居合わせる他の社員には、軽く挨拶はすれど、気が向かない限り、話し込むことはない。しかし同じチームのメンバーが出社しているときは別だ。

ルーティンを外れて何度も水汲みに付き合い、デスクを離れて他愛もない会話を交わす。着任したばかりの頃は、あまりにも頻繁に誘われたり、パントリーへ行った同僚が帰って来ないので怪訝に思っていた。

しかし徐々に学んだのは、日本でも井戸端会議があるように、英国でもパントリー(キッチン)会議があって、それが結構大事だったりするのだ。

ふだんあまり話すことのないシニアとのネットワーク構築。
会議やメールをするほどではない要件の確認やリマインド。
ちょっとプライベートに踏み込んだ会話。

お作法を観察し、会話の流れやタイミングをつかんでいくことで段々楽しめるようになってきた、ある日のこと。

チームメンバー2人とコーヒーを取りに行くと、パントリーには他チームの同僚がいた。彼女はとてもフレンドリーだが、使う言語が違うので(業務で使うターミノロジーや視点が異なると言ったほうがよいかもしれない)、あまり話したことがなかった。

しかし、私は知っている。彼女は私の家の近所に住んでいて、私が在宅勤務の朝、コーヒーを買いつつ散歩する帰り道に、よく挨拶を交わしていることを。

他の2人が彼女に「どこに住んでいるの?」と聞いたとき、私は答えを待たずして「たまに朝に近所で会うよね!」と自信満々に重ねた。するとどうだろう、彼女は「何言ってるの、わたしはここには住んでいないし、挨拶を交わしたこともないはず!」と言うではないか。

よくよく聞くと、確かに彼女がその時間帯に近所を歩いている理由が見当たらない。つまり、私が彼女だと思って挨拶していた女性が、まったくの別人だったということである。いやぁびっくり、我が耳と目を疑った。
この1年くらい、道端で会うたびに「おはよう、◯◯◯(彼女の名前)!」などと声をかけていたのだが、人違いだったわけだ。

なんと恥ずかしい!が、同時に、可笑しさがこみ上げて来て、チームメンバー2人と爆笑した。想像するだけで滑稽すぎる。道端ですれ違う度に、自信満々かつ陽気に挨拶してくる、名前も知らないアジア人。もう10回くらいは会ってるのに、人違いをしていると訂正してくれないなんて、相手はもはや楽しんでるんじゃないか?

自分の失敗談を一緒に大笑いできることは、楽しいことだと痛感した。それにしても、次にその人違いをしていた女性に出くわしたとき、なんて声をかけようか?

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