ロンドンでブルース・リウのピアノを聴く
2021年に開催された「第18回ショパン国際ピアノ・コンクール」(以下、ショパコン)で優勝したピアニスト、ブルース・リウ(Bruce Xiaoyu Liu)がワールドツアー中で、ロンドンでも演奏するというので聴きに行ってきた。
コロナ禍で2度延期されたショパコン、一次予選には18ヵ国から87名、二次予選は45名、三次予選は23名、そして本選は12名のピアニストが挑んだ。
ブルース・リウは一次から三次まで、審査員からのぶっちぎりの評価を得て、本選でも見事なコンチェルトを演奏し、優勝した。
ショパコンはYouTubeでLIVE中継されていたので、私も日本で在宅勤務の傍ら、ほぼ寝落ちしながら(時差の関係で深夜2〜5時だった)、断片的に視聴していた。このときもいまも演奏の聴き分けは大してできないのだが、すごい人がいるものだ、と思った記憶がある。
さて、ロンドン公演の場所はウィグモア・ホール (Wigmore Hall)。収容人数は552人、コンパクトでピアノ演奏にはちょうどよいサイズ感である。
ブルース・リウはフランス生まれの中国系カナダ人ということもあってか、聴衆の4割くらいは中華系だったように思う。日本人は1割弱くらいだろうか?
客席に傾斜のついていない平土間のホールは、前の人々の頭が遮って演奏の様子がほぼ見えないので、自分の耳を頼りにするしかない。
定刻でブルース・リウがステージ上に登場し、恭しくお辞儀を済ませたあとすぐに始まった演奏を、私は全身を耳にして楽しんだ。
良い意味でとても軽やかで、踊るような演奏。一曲一曲ものすごく集中して味わった。とても良い!
ショパン以外の曲は初めて聴くものだったが、作曲家の特徴らしきものがピアノの音に現れていて聴き応えがあった。この曲好きだなぁ、という発見があったので嬉しい。
ピアノ・ソナタ第2番 「葬送」第3楽章は、ショパンの中でも特に好きな曲。悲しみに打ちひしがれる暗さの中に、明るさが出てくる曲の展開は涙なくして聴けない。じっくり溜めるような弾き方で緩急ついていたように思う。
プログラムの演奏がすべて終わったあとは拍手喝采。「好(ハオ)!」などの歓声も飛び、何度も何度もステージへ出てきて聴衆の興奮に応えるブルース・リウ。
アンコールが3度も起こり、3曲も追加で弾いてくれた(おそらく、すべてショパン。黒鍵のエチュード以外の曲名がわからない…)。
私には一生かけても弾けなそうな曲たちの素晴らしい演奏をじかで聴くことができて、ホクホクと豊かな気持ちで帰宅したのでした。