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鬼束ちひろを聴きたくなった日
夜中に何度も目を覚ました。入ったばかりのメンバーが、会社を去らなければならなくなったという出来事が、自覚している以上に私の心に重しを乗せていたみたいだ。かなしみというより、無力感という方が近しい気がする。
突き詰めれば個人単位での過誤が発端となり、不運が重なってしまった末、組織として即刻判断・実行しなければならない事態になったと推測している。自分にも同様に起こり得るかもしれない。
突風にさらわれるような感覚を覚え、鬼束ちひろの音楽を聴きたくなった。美しいピアノの旋律、伸びやかで特徴的な歌声、闇をまとう感受性。私の心にかかった仄暗さと同期する名曲ばかりだ。一部を記しておこう。
月光
ドラマ「TRICK」の主題歌に起用された、鬼束ちひろの代表曲の一つ。歌詞、歌声、世界観、それはもう思春期の私には衝撃的な体験だった。
眩暈(めまい)
2000年から2003年が彼女の初期黄金期だと思っていて、どの曲も高校時代の思い出とともに大切。「眩暈」はとくに好きで、よく歌っていた。
ラストメロディー
活動休止のような状態から舞い戻ってきて、私が惹かれた「鬼束ちひろらしさ」を再び感じさせてくれた曲。振り絞るようなライブバージョンも良い。
琥珀の雪
物悲しい冬の、冷たくて静かな空気をまとう曲。抽象的で情景的な歌詞は、想像の行き先を遠い場所にいざなってくれる。
遣る瀬なさを抱えながらも仕事に向かうと、暗くて長い冬の終わりを感じさせるような、柔らかな日差しに恵まれていた。春に向かっている。