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コーディネーターはスワンボートに乗ってⅤ④§ Lakta Vojo : Milky Way §

「なにしてんだ、うちの若けえのを囲みやがって!」
 
 思わず耳をふさぎたくなるほどの大声。
 
「いやいやいやいや違います違います!」
 
フリーコックは高速で首を横に振る。
 
「あのですね、この方のお声が、すこーし小さかったもんでね、それでつい、こう、聞こう聞こうとして、そばにそばに……ということでして。勘違いを呼ぶような動きをしてしまい、申し訳ございません!!」
 
 フリーコックがへへへと笑って許しを請うと、オヤジカエルは憤怒の形相を緩め、隅で小さくなっている依頼主に視線を移した。
 
「おい、ラーノ! いい加減デカイ声を出せるようにならないと、いつまでたっても嫁さんもらえんぞ!!」
「はい……すみません」
 
 ったくよお、と声を張りながら、オヤジカエルは店の奥へ。依頼主はその背中に向かって、消え入りそうな声で、すみません、と。とんでもない音量格差。
 
 ショボンとした依頼主に、フリーコックが近づく。
 
「いやーぁ申し訳ないです。なんだか叱られてしまいましたねェ、お互いに」
「僕は、慣れてますから」
「話を聞こう聞こうと思ってつい……失礼いたしました」
「いいんです、僕のほうこそ、すみません……でも、嬉しいです。皆さんが、僕の話をちゃんと聞こうとしてくれて……ありがとうございます」
「いえいえ、普通のことですよ」
「よそのポルクでは、そうなんですね……ここは、声の大きいものが勝つような場所ですから、僕みたいに声の小さなものなんて、話も聞いてもらえなくて……でもそれが、ポルクを分裂に導いた原因だと、僕は思うんですけど……」
 
 声の小さな依頼主によると、ポルクはふたつに分かれて久しいとのこと。依頼主が生まれた時にはすでに分裂していて、向こう側に行ったことはないらしい。
 
 分裂のきっかけは、主張の強い民族性ではないか、との見解。過去に激しい議論によって争いが起こり、内紛が勃発。
 
 ポルクのまつりごとを行う者達は、強い思想を持つもの達と、そうでないもの達との居住区を分け、ポルクは川を挟んで分裂した。
 
「主張を持つというのは、良いことだと思うんです。でも少し、強すぎるというか、押しすぎるというか……とにかく、他者の言葉に耳を貸さないものが多いですね」
 
 依頼主の言葉に、ブランカが首を傾げる。
 
「私達をここに連れてきてくれた方は、とても穏やかでしたよ。ラーノさんを呼んだ時の声には驚きましたけど」
「そういうものも、いるんです。でも、主張が強いもの達に押されて、黙るものも多くて……昔に比べると、随分気性が穏やかになったと、祖父母は言っていますね。でも、ポルクの議会は声の大きいものばかりで、それが、今回依頼をした内容にも繋がるのですが……」
 
 このポルクの議会では、独立を宣言しようという話が持ち上がっている。こちら側だけで新しいポルクとなり、対岸との交流を断絶しようとしているらしい。
 
「もしそうなったら、僕はもう、彼女に会えないかもしれません」
「へ? 彼女?」
 
 思わず声が出た。まさか、依頼の理由は彼女と別れたくない、という個人的なものなのか。
 
「僕が彼女と離れ離れになりたくないというのは、正直な気持ちです。こちら側は好戦的なものも多いと言われていますから、向こうの街の住民は、争いを恐れて、どこか遠くに移住するかもしれないと、そういう噂が立っているようです……そもそも彼女の両親は、僕との交際を認めていません。向こう側には、対岸の住民というだけで毛嫌いするものもいるようで……同じ種族と言っても、随分見た目が異なりますからね」
 
 メンバーは皆、真剣な面持ちで聞いている。個人的な理由で依頼をしたのか、対岸にいる見た目の異なる同族とやらはどんな姿なのか……それを気にしているのは、俺だけのようだ。


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