コーディネーターはスワンボートに乗ってⅤ⑤§ Lakta Vojo : Milky Way §
すっかりうな垂れた依頼主。話していて、自分の現状を改めて実感したのだろうか。すでに諦めているような表情。
重苦しい空気を持ち上げるように、ブランカはスッと立ち上がった。
「場所を変えて話しましょう。川沿いを散歩しながら、なんてどうでしょう」
ブランカの提案に乗り、川沿いに移動。
「皆さんのボート、カッコいいなぁ。本物のハウスボートを見たのは初めてです」
依頼主の声が少し大きくなった。表情も明るくなり、まるで子どものようにハウスボートを眺めている。
「乗ってみます?」
「いいんですか?
「いいよね、フリーコック」
「ええ勿論、いいですとも」
「ですって。どうぞ!」
ハウスボートに乗り込み、デッキを一周した後、屋根に上る。緑化した屋根の上で、依頼主は大きくジャンプした。見事な跳躍力。さすがカエル系。
「高く跳ぶと、向こうの町が見えますね。でも、こうでもしないと見えないって、やっぱり悲しいですね……」
また声が小さくなった。表情も暗い。
ブランカは自分も跳び上がって町を覗こうとした。だけど依頼主ほどの高さは出ない。だめですね、と笑って言って、ブランカは依頼主に視線を。
「こんな状況なのに、彼女さんとは、どうやって知り合ったんですか?」
そう、そこ。そこは俺も気になっていた。いいぞブランカ。もっと聞け。
「きっかけは、この川岸なんです」
双方の居住区にも、僅かながら交流の場というものがあるそうだ。長い年月が流れる間に、互いの岸辺で、歌と踊りで交流をするようになったのだとか。
右の街のものは、歌が好き。
「僕らは元々、声が良く通る種族なんです。みんな歌うのもとても好きで、毎日どこかでライブが行われるほどなんです」
左の街のものは、踊りが好き。
「体がスリムで手足が細くて、動きがとても美しい。僕の彼女も、向こうではダンサーとしてステージに上がっているんです」
右の住民の歌に合わせて、左の住民が踊る。それは親愛のメッセージとされているそうだ。そうしたコミュニケーションの中で、恋が生まれた。
「僕は、歌う時にだけ大きな声が出せるんです。歌うのが好きだからかもしれません。でも町の中で歌うと、誰かに聞かれて恥ずかしいから……ほら、あそこ。橋の上で歌うんです。塀でふさがれていますけど、あの程度なら跳び越えられます」
塀の意味ないじゃないか。と思ったけれど、黙っていた。
「ある日、早朝に、同じように橋に侵入してダンスの練習をしていた彼女と出会って……」
依頼主は、照れくさそうに笑った。
「もともとあの橋は、対岸を行き来するためのものだったんです。ずっと使われていませんけど、そのおかげで真夜中や早朝なら誰にも見つからずに……」
「ほほう」
にやけ顔のフリーコック。
「あの場所で密会とは……随分と苦労されてますねぇ。あんなに高い塀をわざわざ乗り越えてまでねェ」
「いえ、そんな……朝飯前です」
「早朝に会うだけに」
「いらねえから、そういうの!」
「マサキ君、お客様の前ですよ」
「あ……すみません」
依頼主は首を横に振り、微笑んだ。