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詩・魚と深海

東京はめまぐるしい……

水槽のようなビルや電車の中を
たくさんの魚たちが行ったりきたり

なんと忙しい街なんだろう




魚たちは働き、食べ、言葉を話し
誰にも見えないようなことをぐるぐる考えている


お互いにぶつからないよう譲り合ったり
ぶつかってしまって「あっ」と思ったり
ぶつかることを恐れて永遠に譲り合ったりする


泳ぐことが楽しくて
あんまり考えごとをしない魚もいるが、
ほとんどの魚は自分だけの深海を隠し持っている




夜は魚たちが各々の深海に潜れる時間

自由で、創造的で、ちょっと危うい時間

自分や、自分の周りの大切な人のための時間




朝や昼が浅瀬で「見えるもの」を作る時間ならば
夜は深い場所で「見えない世界」を育てる時間


浅瀬では許されそうにない世界観も、
懐の深い深海では深海魚たちが興味深そうな顔で
「ふむふむ、面白いね」なんて言ってくれる


深海魚は一見ぶっきらぼうだが、
話してみれば実は面白く情の深い魚なのだ



深海の中ではさまざまな感情が顔を出す

朝や昼間には出せなかった
感情や涙、本音、どす黒い何か……
それらを表に出すとき
魚はふしぎな生命力で包まれる

なぜなら表に出せないままだと
エラに貼りついて息がしづらいからだ

ふしぎな生命力を帯びた魚は
本来のあたたかさを取り戻し、陽気に跳ね回る



深海魚たちは
生命力を取り戻した魚の姿を見ると
皺だらけの顔を綻ばせ、「いいぞ!」と笑う


小さな魚たちが集まると
スイミーのような大きな偉業を成し遂げられる
そしてスイミーの中にいれば、ひとまず安全だ

しかし魚自身はスイミーではなく
それぞれの魚たちの、個のいのちを生きている


わたしはスイミーではない

わたしは小魚だ

わたしはスイミーではない……




そんなことを思った魚は
こっそりスイミー集団から抜け出し、
1匹の小魚として世の中の海に挑んでみる

それは大きく自由で、勇気のいる挑戦なのだ



わたしはまだ小さな魚

スイミーのような大きな魚や
深海魚のような味のある存在にはまだなれない

でもいつかもっと素敵な魚になりたいから
今はもうちょっとだけ修行してみようかな




夜が少しずつ明けはじめ、
深海を抜けて昨日と同じ水槽に戻る魚たち


でも、各々の深海にどっぷり浸かり
深海魚との対話を楽しんだ魚や

スイミーとして泳ぐ場所から離れ
少しだけ勇気のいる冒険をしてみた魚は、

昨日よりもちょっぴり晴れやかな顔で
悠々と水槽の中を泳ぐのである……


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