額装
近所に、素敵なご夫婦が営まれている額縁屋さんがある。
いつも前を通りながら、入れずに通り過ぎてきた。
オーダーの額は高価に違いない、と思っていた。
そんなわけで、いつもは画材店の額装のコーナーで頼んでいたのだけれど、
この度は意を決して店のドアを開けてみた。
それというのも、友人のお父様が画家を廃業され、
何枚かをお譲りいただいたからだ。
アトリエに伺い、たくさんの絵を見せていただいた。
ヨーロッパの美しい景色。
私にとっては懐かしい、アトリエの油絵具の匂い。
この匂いが好きだ。
そして、壁際には絵画が梱包されて重なっている。
色々な国で、エネルギッシュに活躍されたお父様が入院されることになり、
大きな絵は故郷や病院、施設などに寄付されたり、私のようなものにお譲りいただいた。
長女である友人は、いくつかの絵をナイフで切り裂いたという。
額から外す作業もお手伝いできたのに・・・と言うと、
廃業するのだから、それでいいのだと。
大切にしたいと思って、額装する時には、あのお店に行こうと思っていた。
タイトルの絵は、お譲りいただいたもので、サムホール(SM)という小さいサイズのキャンバスである。
絵の周囲に金の細い縁を入れ、絵を丁度よく引き立てるくらいの彫りがある銀色の木枠にした。
お店のご主人と奥様と一緒に相談して額装をお願いした。
シャンパンカラーのシンプルなものも考えたけれど、合わせてみると銀色の木枠が絵を引き立てる。
「うちは、入りにくいんだよね。オーダーだと高いと思われちゃうしね。」
と笑って言ってくださるご主人と、実際に絵に金色の縁を合わせた外側に、木枠を置いて見せてくださる奥様。
贅沢で楽しい時間だった。
出来上がりの日にちを教えていただいて、楽しみに待つ。
景色を飾る場所の壁の色、光の加減、陰影はどんな感じに出るかしら?
そんなことをゆっくり想像しながら、額装をお願いする。
一筆一筆、画家が大事に置かれたであろう絵画を美しく見せる額装。
丁寧な職人作業。
画家の廃業の大変さも、今回のことで初めて知った。
絵は、画家が生涯をかけて成長させたもの。
画家そのものであるから。