mietteと祖母のchapeau
持っているだけで幸せになる本があるとしたら、
「ミエッテのお菓子」もその一冊だ。
疲れてしまったり、ちょっと心にチクッとするようなことがあった日に、開く。
すると、たちまち「ふんわり」とした気分になれる。大事な本。
サンフランシスコで一番チャーミングなペイストリーショップ
「ミエッテ」のパステルでかわいいお菓子のレシピ集
これ以上削り様がないくらい、シンプルなデザインのケーキ。
無駄のない、完璧な可愛らしさ。
ふと思い出すのは、祖母の帽子だ。
祖母は、お洒落な人だった。
フランス製の生地で洋服を誂えてくれるお店が銀座のビルの一室にあり、
子供の頃に一度だけ、連れて行ってもらったことがある。
今は、もうなくなってしまったお店だ。
そこで、服と帽子を合わせていた。
祖母はコティの白粉を使っていて、小さい私はオレンジ色が目印のノスタルジックな円筒の紙箱を悪戯に開けては、粉をこぼして笑われたものだった。
あの香りが好きだった。この箱は、大人の女の人の道具だと思っていた。
祖母は、短い髪にいつも帽子を被っていて、
帽子を「しゃぽー」と呼んでいた。
大人になってから、しゃぽーは仏語のchapeauだと知った。
大学の第二外国語は仏語しか選択肢がなく、最初の講義で
「英語ができない人は仏語もできませんからね。」
という講師の先生のお話で、既に諦め始めてしまった。
英語の発音も???なので、仏語の発音は、もちろんできなかった。
ミエッテのケーキは、chapeauを思い出させるのだ。
しっかり形を整えられていて、リボンが巻かれていたりして、
きちんとしていて、すましている。
例えば、母が若い頃に、シンプルなワンピースの胸にあしらっていたブローチ。
絶妙な位置におさまっていた。
私には、いつまでたってもかなわないセンスである。
それを思い出させるのが、お菓子であるという驚きが、この本にはある。
デザインの勉強をしていた時に、
「無駄な線を使うな。」
と言われたことがある。
必要な線のみで構成されるデザインのシンプルな美しさ。
それを思い出させてくれる、ケーキたち。
デザインであれ文章であれ、
無駄を削ぎ落としたところに美しさが宿ると信じている。
どんな方が作っているのだろう?
やはり、素敵な方だった!
メグ・レイ。
この方がオーナー・シェフ。
飾らない笑顔の写真を見て、嬉しくなった。
こんな素敵なケーキを、アンティークシルバーのフォークでいただいてみたい。
真ん中のお花は、もちろん私のもの。
なんて考えていると、先ほどまでのモヤモヤが何処かへ行ってしまうのだ。
今日も、mietteの世界に救われる。
そして、祖母の思い出にも浸りつつ、
「そうだ、私は大人だったんだ。」
なんて、コティの香りを思い出す。