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愛する画架
この部分がなんとも好きなのだ。
これは、イーゼルの頭だ。
私が、高校1年の時から使っているもの。
ホルベインのマークがもう薄くなってしまっていて、金属がいい具合に古びており、ざらっとした手触りになっている。
私は、こういう朽ち方を美しいと感じるタイプで、新しくてピカピカの金属が、日々使われることでいい味になるのを楽しみにしてしまう。
特に、この頭のネジ。
この凹んだネジが、可愛くて大好きだ。
![](https://assets.st-note.com/img/1682323781529-A7NRQNMI7w.jpg?width=1200)
美術予備校にも大学にも、がっしりとした大きなイーゼルがあるし、こちらは、ちょっと近くの美術研究所で描きたい時に使っていた。
自作のクッション性のある縦長の袋に詰めて、みなさんのイーゼル置き場に私用として置きっぱなしにしていた。
ぐるっと止めるベルトが、千切れてしまい半分なくなった。
美術展に出すような大きなサイズを描く方は、新聞紙に直にキャンバスを置いて描いていたけれど、私はこの子の前にいるのが好きだった。
![](https://assets.st-note.com/img/1682324516233-vUGlkdV9Cj.jpg)
畳んだ姿も、立ち上がった姿も綺麗なのだ。
これ以上ないくらいシンプルで、無駄がない。
細くて、美しい脚。
女性的なイメージ。
この前に、木の椅子を縦にしたり横にしたりして座って、描いていた。
テープを貼り付けた場所に、ローマ字表記で私の旧姓の名前が書いてある。
![](https://assets.st-note.com/img/1682324656136-Tq67HJgl2N.jpg)
しばらくは、クローゼットの隅っこに立て掛けられていた。
目に入るたびに、なんだか悪いなあ・・・と思いながら、忙しさでゆっくり絵を描く時間がなかった。
アクリルではなくて、油絵具でゆっくりと描ける時間は来るのかな。
乾く時間を計算に入れて、下地を塗ることから。
紙パレットではなく、木のパレットの上でナイフで混ぜる感触がいいのになぁ、と思いながら。
![](https://assets.st-note.com/img/1682324001909-fspid1EgKl.jpg?width=1200)
そのまま固まってしまったのは、何十年前の絵の具でしょうか・・・。
しばらくは薄っすらと油絵具の匂いがして、嗅ぐと気持ちが和らいで落ち着いていたが、さすがに消えてしまった。
アトリエのあの匂い。
いろいろな種類のオイルや、筆洗油。
絵の具があちこちついた白衣を着ていた。
自分のためだけに生きていて、自由だった。
もちろん、悩み事もあったけれど、前を向いてさえいれば、どこかに辿り着けるような光があったように思う。
若いってそういうことなのかも知れないと振り返りながらも、今、若い人の話を聞いていると、昔よりも色々なしがらみが多いような気がする。
家族関係が極端に濃かったり、薄かったり。
誰に対しても、本音を話すことには抵抗があったり。
大人と同様の、弾けにくい閉塞感も感じる。
世界の情勢からしても・・・。
感じた感情を混ぜて濁らせてしまう前に、単色で重ねていくように生きて行けたらいいな、と思う。
![](https://assets.st-note.com/img/1682326310565-C7cYdPkskO.jpg?width=1200)
もう少ししたら、また、描くかも知れない。
美しい脚と可愛らしい頭のネジを前に。
美しい脚といえば、マレーネ・ディーリッヒを思う。
美しい脚を愛でるような、マレーネのポスターを飾っていたっけ。
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