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ピアッサーを差し出した意味について


その子は、19歳男子。
背も高く、ガッチリとしていて、髪の毛は半分ずつグレイッシュな緑とピンク。
声も大きく、その年齢の子が言うようなジョークを飛ばしながら、
足を組んで椅子に斜めに座っていた。

「よう。先生、はじめてだね。なんの先生?」

そう話しかけてくれたのは、目の端でかなりの時間、私を観察した後だった。
私の一挙手一投足、他の生徒への接し方を「見ているな。」と感じていた。

「美術よ。はじめまして。もう、単位は取れたの?」

彼は、答えずに

「先生、これでピアスの穴開けてくれよ。」

と初対面の私にピアッサーを差し出した。

「こういうのはね、皮膚科に行って開けてもらった方がいいわ。」

彼は、ふふん!と笑ってピアッサーをしまった。
その後、ちょっとした作業を楽しく一緒にやって、単位を取るのに必要な
作品を一つ提出した。

「先生、どこに住んでんの?危ない目に遭ったら助けに行ってやるよ。」

「日本のどこかよ。」

「ずいぶんザックリだな。」

「それに、危ない目に遭うことは多分そんなにないはず・・・。」

と言いかけて気がついた。
この子は、そういう世界で生きてきたのだ。

働きながら、高校卒業資格を得るためにフリースクールに来ている子たちがいた。
この子は、中学の時に両親が揃って蒸発してしまったのだという。
色々なところで働きながら、家賃と授業料を稼いでいるのだという。
昨年は卒業出来なかったらしい。

「だけどさ、これからの世の中、中卒は色々と難しいだろ。
なんとか高卒の資格を取ろうと思ってさ。」

小さい時からの環境で、「何かあれば戦う!」という刷り込みができている。
敵か味方か?真ん中はない。
その彼が、ピアスの穴を開けてくれ、というのは、
近づいてもいい大人だと思ってくれたからだった。

来るはずの生徒が来なくて、少し寂しい顔をしている私に、
遠くから、用もないのに手を振ってくれる優しさがある。
知性を感じさせる目と、話の上手なまとめ方。
ふざけすぎる他の男子の制し方もうまい。

私は思った。
この子が、もし普通に高校生として過ごせたなら、
学費を稼がずに済んで、スポーツをやっていたら・・・。
強いリーダーシップでチームを率いることができた子だ。

「今は、無理かも知れないけれど、ここを卒業しても本を読んで勉強を続けてほしい。すぐには大学に行けないかも知れないけれど、社会人になってから大学に行けたらいいわね。
あなたは頭がいい。話も上手だし、何より人の表情をよく見ることができる。もっと言えば、本質を見ることができていると思うの。
経営の勉強をしたらどうかな。例えばだけど・・・。」

私の言葉に、目を丸くしてびっくりしている。

「俺、そんなこと言われたの初めてだ・・・。
そういうことが俺にもできるのか?」

大きく頷いて見せると、「本当に?」と聞いた。
自分の力を信じてみて、と伝えた。


卒業式も仕事で来られなかった彼は、今、どうしているだろうか。
バイタリティもあるし、将来の希望も見据えている19歳だった。
同じ歳の男子の大半が送るような高校生活・・・、例えば部活動の経験も
彼には未知のことだった。
それでも、彼にしか説明できないような人生の前半で得た経験を、
生かしてくれているといいな、と思う。

少なくとも、見かけで人を判断することなく、
その本質を見続けて欲しい。

この子だけではない。
10代から、様々な仕事をしながら夢を追いかけている子がいる。
親に支払ってもらった習い事で何かができても、それはあたりまえの話だ。
自分で身銭を削って学ぶということを、この子たちは10代で経験している。
一般の子がしてもらえて、自分にはしてもらえなかったことを知っている。

今回のコロナのことで、学業に支障をきたしてしまった子も多いはずだ。
方法は色々ある。
いつからでも勉強できる。
そして、身に付けた学びは剥ぐことはできない、というのは本当だと思う。
夢を失わずに頑張って欲しいと思う。



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#全国18万人の不登校さんへ告ぐコンテスト  に参加させていただきます。

お友達との関係によるメンタルだけでなく、学習障害やその他の発達の問題や、親との色々で不登校になった子に、フリースクールで出会いました。
あるところまで脱して、これではいけないと気づいたところからの底力を、私は彼らに教わりました。
いつからでも遅くないので、元気が少し出てきたら好きなことを始められる環境に出会えるといいですね。


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LUNA.N.
書くこと、描くことを続けていきたいと思います。