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【読了】 川瀬七緒 「よろずのことに気をつけよ」

川瀬七緒「よろずのことに気をつけよ」
TLで見た特集で紹介されていた本。


呪術を専門に研究している主人公の元に、自宅に埋まっていたという呪符が持ち込まれた。聞けば、彼女の祖父が殺されたのだという。


TLに流れてきた「民俗学とホラーの親和性、あるいは民俗学者はなぜすぐに死んでしまうのか」という記事が面白そうすぎて早速「現代思想(2024年5月号)」を読んだところ、そこで紹介されていたなかで唯一未知だったのがこちらの作品。

今まで読んできた民俗学者はフィールドワーク中に巻き込まれるタイプが多かったけれど、今作はヒントを求めて出掛けはするものの、あくまでも調査の域を外れません。
その辺のアプローチの違いはホラーではなくミステリだからというのもあるのかな。

主人公の元に持ち込まれた呪符は、明らかに呪法に通じる者に作られているが、作り方がいちいち作法に反しているらしい。
文言も近いものはあるが、それを使う宗派は呪術とは無縁で、ただ怨念の凄まじさだけが伝わってくる。
一方で被害者は温厚でひとに恨まれることなどありそうにない。

ほとんど唯一の手掛かりとなった呪符の出所を、あるときは図書館で資料を当たり、知識のありそうな人を訪ね、仮説と推論を検証していく。
学問とはそういった地道な作業の積み重ねではあるけれど、その行程は決して地味なだけではなく、未知の発見という期待が見え隠れするものなのかもしれません。
本分を超えない民俗学的アプローチの面白さを堪能できました。

(20240512投稿文の再掲)
・第57回 江戸川乱歩賞


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