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【読了】辻村深月「かがみの孤城」
辻村深月「かがみの孤城」
映画化の話を聞いて、むかし読んだような読んでいないような曖昧な記憶で読んでみた本。
何作か読んだ覚えはあったのだけど、これは初見だったっぽい。
アットホームな小学校から大きな中学校に通い始めた主人公は、クラスの中心にいる女生徒に目をつけられたことで学校に通えなくなってしまう。息を詰めて日々を過ごしていたある日、自室の鏡を通じて『願いの叶う部屋』があるという城へと招かれる。
最初に辻村作品を読んだ時、私は恐らく読者の対象年齢にバッチリ嵌っていた頃で、その時は作品を面白く感じても何がすごいのか全くわからなかったのを覚えています。
今改めて読んでみて、その年頃の子どもたちが本当にそこに存在していると思えるリアルさ、作り物感がなく、素直にそのキャラクターの個性だと思える表現…例えば口調や物の見方、考え方、それに受け取り方などが抜群にうまいのだなと気がつきました。
普通のことを普通に描くことのすごさ、というのかな、そんなことを思いながら読みました。
物語自体も、テーマ的に気持ちが沈むところはありつつとても面白かったです。
途中で、これはきっとこういうことだなと推測したことが当たっていたのも嬉しいけれど、それはほんの通過点でしかなくて、その先にちゃんと繋がっていくのもすごく良かった。
全体的に温かい巣のなかに柔らかく抱きしめているような雰囲気があって、優しさが少しずつしみ込んでくるようでした。
映画化の際によく耳にする「映像化不可能」という文字はこの作品については少々センセーショナルに響きすぎて、それはそうなんだけどちょっと違うんだよな〜と思ってしまった。
でも、原作を読んだからこそ、どのように表現しているのか興味が出ました。
私はもうこの作品を必要とするような状態ではないけれど、映画でも小説でも、この作品に心を温められるひとに届くといいなと思います。
素直に読んで良かったなと思える本でした。
(Twitter20230318投稿文の再掲)
・2018年 本屋大賞