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同調率99%の少女(19) :神通の初戦
--- 6 神通の初戦
「砲撃開始ぃーー!」
天龍の大声が周囲に響き渡る。それは、艤装で耐久度が増した声帯のおかげでもあった。
深海棲艦に向けて、東から、西からすさまじい音とともに砲撃が始まった。
ドゥ!ドドゥ!ドドゥ!ドゥ!
ドゥ!ズドドオゥ!ドドゥ!ズドッ!
ズガガガガッ!ドガァアアアアーーーン!!!
「やったか!?」
深海棲艦への着弾の際に発した煙で見えなくなった前方を見ながら天龍がそう口にする。
一方の那珂はその後を想像して早々に目と探照灯の光を別の方向に向けていた。那珂が頼りにするのは、以前から見知っていた深海棲艦の発光する目だ。
一番近くにいた五月雨に向かって那珂は指示を出した。
「五月雨ちゃん、海中を監視して。やつが目を発光させていたら、そこにいることがわかるはずだから。」
「はい!」
那珂と五月雨は互いに別方向を向いて海中を確認し始めた。今まで海上に顔を出していた個体ならば、また顔を出すために海上に近い浅いところを泳いでいるはずと考えて那珂は360度必死に見渡す。
しかし先ほどの砲撃と着弾からほとんど時間が経っていないのに光っているはずの目が確認できない。
光らない個体なのか?
いやそんなことはない。追い越すときに光っていたのを目撃している。
那珂が五月雨がいる方向の先を見、五月雨が那珂の先、つまり神通のいるあたりを見渡したその時、五月雨が視線の先の海中に光る点を見つけた。それは神通の下だった。
「神通さん!!下です!そこから逃げてーー!」
「「!!?」」
五月雨の叫び声を聞いて那珂は瞬時にその方向に上半身と首と頭を向ける。当人の神通は真下に目を向けると、その光る点が2つ、急激に大きくなっているのに気づいた。
しかし、気づいた時にはもはや行動を起こせるタイミングではなかった。
ズザバアアアアアァァ!!
ガズッ!!
「きゃああああぁ!!!」
深海棲艦の強烈な突き上げは神通の少し右に逸れたため神通がそれをモロに食らうことはなかったが、右足の艤装に激しい衝撃を受けその衝撃と深海棲艦のジャンプ力のために思い切り横転しながら那珂側へと弾き飛ばされる。
「神通ちゃん!?」
「「神通さん!」」
その衝撃は凄まじく、神通は那珂を越え、五月雨を越え、ゆうに20~30m飛ばされて思い切り水面に叩きつけられた。そこは不知火の目と鼻の先だ。
飛んできた存在など暗闇のため見えなかった不知火は飛来してきた神通の着水の際の水しぶきに驚いて後ずさりよろけて海面に片膝をつくも、すぐに体勢を立て直して目の前の存在に警戒する。
「だ、誰……?」
不知火は一本のロボットアームを掴んで手動で右手元に持ってきて睨みつける。しかしそこで立ち上がろうとしていたのは深海棲艦ではなく、自身が慕う神通その人だった。
すぐに沈みかけたので神通は慌てて立ち上がる。しかし何かがおかしい。
右足が海面に浮かばないことにすぐに気がついた。普段であれば海面がまるで足場にひっかけたかのごとく足が浮かび、立ち上がることができるのだが、今この時は右足は何の抵抗もなく海中に沈む。左足だけでどうにかバランスを取ろうとするも片足がすぐに海中に沈んでしまうため思うように浮かぶことができない。
全身を海面に落としてずぶ濡れになりながら本気で焦り始める。神通の心にもたげてきたのは、海のど真ん中で何にも捕まれずにその身が沈む恐怖だった。
その焦りは泣きそうな声になって周りに響き渡る。
「た、助けて……! 誰かぁ!右足が……浮かばない!」
「じ、神通……さん!!」
不知火は構えていたロボットアームを乱暴に背後へと押して下げ、目の前にいると思われる神通を掴んで支え始める。
「不知火ちゃん?そこに神通ちゃんいるの?」那珂が叫ぶ。
「神通さん、右足浮かべない。主機の片方が壊されたみたい、です。」
不知火から簡素な言葉で状況を聞いた那珂は目の前に浮かんだ深海棲艦から視線を一切離さずに残りの3人に指示を出す。
「不知火ちゃんはそのまま神通ちゃんを支えてあたしたちの後ろに、五月雨ちゃんはあたしと一緒に前列として引き続き攻撃!」
「「はい!」」
五月雨と不知火は返事をしてそれぞれの役割を果たすべく体勢を整える。五月雨は那珂と並ぶために前進して深海棲艦と対峙し、不知火は神通を半身で支えながら那珂と五月雨の完全に後ろに位置するために3時の方向へとわずかに移動した。
そして那珂と五月雨は同列に揃うやいなやすぐさま主砲で撃ち始めた。
ドゥ!
ドドゥ!!
ズガッドゴォォ!!
エネルギー弾が着弾し、深海棲艦の表面で爆発する。熱風と光が瞬間的に周囲に撒き散らされた。
「よーし!そのまま海上に引き止めといてくれ!!」
距離を詰めてきた天龍たちが続いて攻撃し始める。
ドドゥ!
ドゥ!
ドドゥ!!
ズガッ!
ドシュ
バァーーン!
移動しながらの天龍たちの砲撃は3人が先頭の天龍から流れるように発射されて深海棲艦に直撃し、背びれから背身を始めとして身体を完全に真っ二つにするほど肉を砕ききっていた。
ゆっくりと天龍が深海棲艦だった物体に近寄る。
「ん?おいちょっと待て。こいつはCL1、軽巡級のほうだ!あたしたちがさっき砲撃したのとは違うやつだ!」
判定のために天龍が探照灯を当てて確認するとその形状が判明した。それはセキトリイワシが巨大化し、肥大化した歯がむき出しになっている個体だった。すでに死亡していてプカプカ浮いているセキトリイワシ型の軽巡級を天龍がさやに収まった剣でカツンと叩いて再確認したのち、眼帯型のスマートウェアで撮影していた。
「おい!攻撃食らったのは誰だ!?そっちの被害状況を教えてくれ!」
天龍が那珂たちの方を向いて問いかける。
「うちの神通ちゃんがやられた!右足の艤装が壊れて移動が困難になっちゃってるの。」
「マジか!?かなり硬そうなヤツだったし、無理ないかもしれねぇな。」
「いや……それ以外にも原因あるといえばあるんだよねぇ……。」
神通の負傷について、この状況とは別の要因が頭の中にあった那珂は言い淀む。
「なんだよ~らしくねぇ歯切れ悪さだな。はっきり言ってくれよ?」
「うちの神通ちゃんね、実は今日が初めてなの。連れてきたのはまずかったかなぁ……。」
「なにぃ!?初戦なのか!?しかも今回は夜戦だろ? そりゃ無茶ってもんだよ……まぁいいや。そいつ下げておいてくれ。全員、残りのDD1に気をつけろー!海中に逃げてるぞ!」
那珂の言葉を気にかけるも、切り替えの速さは那珂以上なのか天龍はすぐに作戦行動の指示の言葉を続けた。離れようとする天龍に那珂は移動しながら申し訳なさそうに言う。
「支援しにきたつもりが、迷惑かけちゃってゴメンね?」
「いいっていいって!それよりもなんか作戦をくれ。」
「うん。そうだね……全員輪になるように配置について、ひとりずつ輪の中か外を交互に向くのはどうかな? そうすればどの位置でも誰かしら敵に気づけるようになると思うの。全員一気にやられないためにも、輪はなるべく広く中を開けて作るの。どうかなぁ?」
「よしそれ採用。おーいみんな!」
「えっ?」
那珂がとっさに考えて提案した陣形と警戒態勢を、天龍はすぐに承諾して自分の艦隊の仲間に早速伝える。那珂はそれを目の当たりにしてやや焦った。緊急の戦闘状態とはいえいくらなんでも判断早すぎだろうと。しかし天龍の人柄は前の合同任務の際に垣間見ていたので、その判断を認めてくれた思い切りの良さに那珂は喜びを感じつつも苦笑せざるをえない。
天龍の承諾した自身の案を五月雨たちに伝え、自身らも実行に移し出した。
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隣の鎮守府の4人と鎮守府Aの4人が円陣を組んで海上に立つ。那珂と天龍は手に持っていた探照灯を辺りに照らして仲間の視界を助ける。しかし残りの深海棲艦は姿を現さない。
ふと那珂は探照灯のメリットではなく、本来持つデメリットを思い出した。そのデメリットを活用すべく、那珂は天龍に言った。
「天龍ちゃん!ライト消して!あたしのだけついてる状態にするから!」
「え?お、おう!?」
天龍は那珂の叫びを聞いて自身が持っていた探照灯の照射を一旦消す。その瞬間、8人の中では那珂の探照灯だけが唯一の光となった。そして自身が唯一目立つであろう存在になるがために、以前行った動きをし始めた。
それはその場にいない五十鈴だけが見たことのある行為だった。
バシャバシャ!バシャバシャ!
その場で何度も足踏みをして海面を波立たせる。膝回りまで濡れることを気にせずひたすら足踏みをし続けた。
その様子を6~7m隣にいた五月雨、逆の隣にいた不知火&神通、そして天龍と龍田も怪訝な顔をしてチラチラと見ている。しかしそれを問い正したりアホらしく思ったりは一切しない。それは、あの那珂のやることだからなにかしら秘策があるのだろうという信頼によるものだった。
那珂が行うことの全てを把握できているわけではないが、那珂以外の3人、そして天龍ら4人は各々の主砲を構えてジッと見守り続ける。
那珂は円陣の内側を向いていたためそれにすぐには気付かなかったが、那珂の2つ右隣に外向きに構えていた天龍が気づいて叫ぶ。
「おい那珂さん!後ろ!」
天龍が見たのは海中に浮かぶ、小さく光る2つの光だ。しかし那珂は天龍の気付きを一言で押し留めた。
「まだ!」
那珂はそこで初めてバシャバシャと跳ね続けるのをやめた。探照灯の光は自身の背面20度の海上に向けて照射し続けたままにする。そして海中からするあらゆる音を逃さぬよう耳を後ろ向きに澄ませ、やがてゴポゴポという音を聞き取った。それはゆっくりと大きくなってくる。
那珂はタイミングを見計らっていた。確実に狙いすまして倒すには、目立つ存在が囮になるのが手っ取り早い。その囮が焦って仕損じては、とっさに考えたとはいえ大事な作戦が台無しになってしまう。敵が自身を襲うその時、それが那珂が想定しうるベストタイミングだった。
自身の意を察してもらえないかもしれない隣の鎮守府の面々がいるため作戦を打ち明ける。
「みんな、まだ動かないで。あたしがDD1を引きつけるから。あたしが合図するまでは一切動かないで。波紋も立てちゃダメだよ。」
「了解。」
天龍が返事をすると龍田ら他の3人も返事をして頷いた。
那珂は上半身だけで思いっきり振り向いて後ろを見、海中にいる2つの光を測る。まだ遠く深い。目測で50m先と判断した。しかし速い。というよりも速くなってきた。2つの光はどんどん大きくなってくる。海上に顔を出すかもしれないと思い、姿勢を低くし足幅を広げて限界まで屈みこむ。
しかしながら那珂の唯一の誤算は、DD1つまり駆逐艦級が、跳んで避けるのには難しい角度とスピードで海面から飛び出してきたことだった。
そしてその時が訪れる。
ズザバアアァァァ!!!
その姿は異形の個体だった。常に顔を出しているように見えた背と頭の部分は、その個体の背中の一部であり、ご丁寧にも体内で発光する組織を見せる穴が背中に空いていた。
本体たる身体はメガマウスと見間違うかもしれない5mほどもある巨体でどす黒く、月の光でところどころ反射して微細な光を称える金属製に見えてもおかしくない鱗を腹にビッシリ生やしている。
そして本当の顔は人のこぶし大ありそうな目をギロリと光らせ、極大に肥大化した歯が口からはみ出ている。並の海洋生物なら一飲、巨大な生物でもその肥大化した歯で噛み砕いたりすりつぶせそうな剛強さである。
とても現代の魚の分類に含めることができないその姿をまともに目にした7人は、各々が初めて深海棲艦を目にした時に感じた生理的嫌悪感と吐き気を催す。しかしそれも初めての時と同様、清らかな感覚が全身を駆け巡ったおかげで一瞬にして平常心を取り戻せた。
那珂は背を向けておりなおかつしゃがんでいたためその異形の巨体をまともに見ずに済んだが、その回避行動たるとっさのジャンプでかわさせてくれそうな体格差ではないことにすぐ気づきタイミングを完全に逃した。駆逐艦級の剛強そうな顎から滴り落ちる海水がシャワーのように迫るそのギリギリで瞬時に両足を海面から上げて頭から海中に没し、海中にその身を隠すことにした。
その際、7人への指示も忘れない。
「やっば……砲撃開始ぃ!!」
3~4秒経ってから海上の7人の主砲が火を吹いた。
ドゥ!ドドゥ!ドゥ!ドドゥ!
ドゥ!ズドドオゥ!ドドゥ!ズドッ!
ズガガガガッ!ドガァアアアアーーーン!!!
那珂は海中にて、7人による一斉砲撃の激しい爆音を聞いた。海中に逃れた自分がやるべきことは砲撃ではないことを悟り、身体を海上に向け不用意に浮かばないよう主機も海上に向ける。そして両腰につけた魚雷発射管の1番目のスロットを1つずつ押した。目指す敵は、もはや脳波制御によるインプットが必要ないくらい目の前、つまり海面にその腹をつけてそばにいるからだ。
ドシュ、ドシュ……
2本の魚雷は那珂の目の前わずか10m先めがけてまっすぐ泳いでいき、そして駆逐艦級の腹にモロに炸裂した。
ズガッ!ズドオオオォォーーーン!!
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海面に現れた駆逐艦級は那珂がとっさに身を海中に沈めてかわした後、弧を描くように7人の描いた輪の中に収まった。那珂の焦りの一言の後に続いた指示により、神通ら7人は構えていた主砲のトリガーをすぐに引く。
神通は不知火に支えてもらいながらの砲撃であった。右側を支えられているがため必然的に己が得意としている左腕での攻撃となる。
神通にとっては先ほどの大失態を帳消しにするための、冷静な反撃となる良い機会となった。可能な限りトリガースイッチを連打して目の前の駆逐艦級を撃つ神通に触発されたのか、支えている不知火も右手につけた手袋の人差し指の付け根にあるトリガースイッチを力強く押して連打する。
周囲に高熱のエネルギー弾の炸裂による肉が焼け焦げた匂いが立ち込めてきたその時、駆逐艦級の腹が盛り上がり、水でくぐもった爆発音とともに背びれに相当する部分から火柱が立ち上がった。
駆逐艦級は爆散し、一瞬にして動かぬ複数の肉塊と成り果てた。その場は5m近い火柱のために辺りが光々と照らされ、互いの全身がはっきりと確認できるほどだった。
那珂は雷撃した後、目の前の海面が急に開けて宙に立ち上る火柱を見た。改めて確認するまでもなく標的は死亡だろうと判断し、主機を海底に向けて一気に海上に浮かんでいった。
ザバァ!!
那珂が顔を出すと、その音を聞いて反射的に構えた不知火と目が合う。その目は鋭いなぞのやわな表現ではなく、並の人間なら視線だけで倒せそうな迫力だった。暗闇にもかかわらずなぜか不知火の眼光がわかる気がした那珂はその目を見て慌てて両手を上げて声をあげた。
「わぁ~不知火ちゃん!?あたしだよあたし!!撃たないで~!!」
「……那珂さん? はぁ……。」
密着するように支えられている神通にしか聞こえぬ安堵の息を漏らして、不知火は主砲を取り付けたロボットアームを上空へ向けて逸らした。
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隣の鎮守府の天龍たちが確認のため撃破した深海棲艦の撮影をしている間、那珂たちは状況を確認しあっていた。
「神通ちゃん、どう?大丈夫?」
「神通さん!ゴメンなさ~い!私がもう少し早く気づいていたら、こんなことにならなかったのに~……!」
那珂の心配に続いて五月雨が己の反省を込めて心配を口にする。
泣きそう、ではなく本当に泣き出して謝る五月雨に対し、神通は頭を振ってその心配をやり過ごそうと言いかける。
「五月雨さん、気にしないでください。むしろ、五月雨さんが気づくのが遅れていたら、今ご、頃……わ、私は……うぅ……」
しかし戦闘が終わったことで緊張の糸がそこで途切れたのか、神通は五月雨以上に声を上げて泣き出してしまった。
「うえぇ~~~~えぐっ…えぐっ!こ、怖かった……死ぬかと……思ったよぅ……!!」
年下の二人がいるにもかかわらず、隣の鎮守府の面々が見ているにもかかわらず一切人の目など気にせず泣きじゃくる神通。那珂はその様子を見てサッと近寄り、神通を頭からそうっと抱きしめて声をかける。
「うんうんよしよし。初出撃よく頑張ったね。よく耐えたね。初めて化物と戦ったりこんな暗い夜遅く海のど真ん中に来るなんてホントは不安でいっぱいだったよね? だってあたしたち普通の女の子だもん怖いの当たり前だよ。もう終わったから、気持ちを我慢しなくていいから、思いっきり吐き出していいんだよ。ホラ。」
那珂から暖かい言葉をかけられ、もはや感情を隠すべき障壁がなくなったのかさらに声を荒げて泣きじゃくる神通。五月雨と不知火も感極まって神通に抱きつき、年上だが後輩である少女の気持ちの爆発につられてもらい泣きし始めた。すでに那珂も抱きついているため海上に浮かぶ押しくらまんじゅう状態になっているが、誰も見た目の瑣末な事なぞ気にしない。
ただ、隣の鎮守府の天龍たちはその様子を見て特別に感情を沸かせるわけでもなく、不思議な物を見るように遠巻きに眺めるだけだった。
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「よし。こっちの確認は終わった。さぁて、帰ろうぜ。」
ひとしきり現場の確認を終えた天龍が那珂たちの方に振り向き音頭を取る。一緒に確認作業をしていた龍田は駆逐艦2人を呼び寄せる。
那珂たちも天龍の側に集まった。
「天龍ちゃん!」
「おぅ。そっちの負傷者はその神通ってやつだけか?」
天龍の再確認に那珂は後ろにいる五月雨達3人を見渡してから伝えた。
「うん。心配かけてゴメンね。」
「だ~から。いいっての。でも初陣のやつを夜戦になんか連れて来るのはちょっと常識疑うぞ? そっちがどうか知らねぇけど、うちの鎮守府じゃそれが運用の規則にもあるし、提督はそれを絶対守ってくれてるし。」
「うん……うちはまだ教育らしい教育できてないし、今回は緊急の出撃だったからなんだかんだでみんな慌ててたよ。」
「ん~でもまぁ来てくれて助かったよ。こっちは第1艦隊のやつらがしくじったせいで警戒線突破されて迷惑かけちゃったし、ホントに謝んなきゃいけないのはこっちだもん。」
那珂と天龍はアハハと苦笑いを浮かべ合う。
「そうそう。最後の駆逐艦級のやつが腹から火柱上げて爆散したのって、あんたの何か技?」
「え~~う~~~んと、べっつに技ってわけでもないんだけどなぁ。とっさの思いつきだよ。思いつき。」
照れ笑いを浮かべて天龍からの賞賛に応対する那珂。そんな那珂に天龍は詰め寄る。
「まったまた!てか今回も夜戦であんたの技ちゃんと見られなかったじゃんか!今度演習しよーぜ、演習。」
天龍は前回に続いて今回も那珂がした行動を見られなかったことに不満とさらなる期待を持ったのか、場を変えて見せてもらえるよう願い出てきた。那珂としては他の鎮守府の艦娘との演習はむしろ願ってもないことなので、天龍からの突発的な提案を二つ返事で飲むことにした。
「うんうん!それいいねぇ~!うちさ、昨日まであたしの姉妹艦の訓練をしてたんだぁ。こっちの五月雨ちゃんや不知火ちゃんも混ざって色々演習試合してたんだけど、人が少ないから思うようにいかないの。」
「あ~人少ないんだっけ。今何人?」
「うちはやっと10人超えたとこ。だから他の鎮守府の艦娘とやれたほうが良い経験になると思うの。あたしとしてはむしろばっちこーいって感じ。」
「よっし。久々に那珂さんに会えたし、あんたの本気を見たいし、帰ったら提督に相談しておくよ。」
「うん。お願いね。」
「ま、どのみち今回の非常事態を招いたミスで、ほうぼうにお詫びに回んないといけないだろーし、もしそっちにうちの提督が行くことになったら、あたしも連れてってもらうようにするわ。」
「うん、期待しないで待ってるね~。」
「へん。言っとけ~!」
「「アハハハ」」
まるで昔からの友人のように腹から出てくる気を許しあった笑いを交えて約束を交わし合う二人。最後に天龍は今回の事態を交えておどけて言葉を締めるのだった。
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DD1の深海棲艦を倒したその場でしばらく深夜の海上まっただ中のおしゃべりを楽しんだ後、両艦隊はそれぞれの鎮守府へ向けて別れることとなった。
その前に天龍そして那珂は今回の事態のもう一つの現場を気にかけた。天龍は完全に忘れていたようで、那珂と話し合って早速通信して連絡を取ることにした。
「あ~~。こちら第3艦隊の天龍。球磨の姉御~。生きてっか~?こっちはとりあえずカタつけたぜ。鎮守府Aの那珂さんがトドメさして終わったよ。」
天龍が暢気度ど真ん中の声で球磨に連絡を取ると、幾つかの砲撃音と小さな悲鳴のあと、球磨の怒号とともに通信がつながった。
「何なのあんた!!?……じゃなかった。なんだクマ!?こっちは今ちょうど倒せるいいところなんだから邪魔しないでy……すんなクマ!!」
「姉御……怒りでキャラが……」
「う、うっさい。とにかく、もうちょっとしたらかけろクマ。」
「あ~はいはい。あたしたちは先に帰るからね。じゃあね。」
那珂や神通らは天龍が会話する球磨たる艦娘のことをよくわからず、何やら天龍と仲が悪そうな娘という印象しか持てないでいた。別の鎮守府でもその場所なりの人付き合い・いろんな人がいるのだなとぼうっと眺めていた。
那珂たちが通信を終えた天龍から伝え聞いたのは、もう一つの海域でも無事に勝利したという報告だった。
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