同調率99%の少女(14) :基本訓練(水上移動)
--- 3 基本訓練(水上移動)
翌日木曜日、那珂と五十鈴は前日と同じ時間に来た。前日と全く同じルートで本館の窓を開けて換気していき、工廠に行って明石や技師の人に挨拶をしたのち執務室に戻ってきた。なお、提督はまだ出勤前だった。
前日皆の前での取り乱し思わぬ弱点を晒してしまった那珂は駅で五十鈴と出会って本館に来る最中は妙によそよそしく振舞っていたが、五十鈴が一向にその弱点をついてこないのを見ると、すぐに普段の調子に戻って明るい態度に戻った。
朝の一回りを終えて執務室で五十鈴と打ち合わせする頃には完全に普段の、やるときはしっかりやる真面目モードの那珂に切り替わっていた。
「今日の訓練は水上移動をやらせる予定。昨日の様子を見る限りだと、他に余計なことはしないほうがいいかなって思うの。どうかな?」
「えぇ。それがいいでしょうね。あとはあの二人に今日でそれだけ差が出てしまうかだけど、それによって今後の進め方も変えるのよね?」
「そーそー。それが一番気になるところ。あとは水上移動の練習での影響だけど。」
「影響?」
「今日は多分、というかほぼ確実にびしょ濡れになると思うから、昨日二人には着替えを多めに持ってくるよう伝えてあるの。」
「あ、そういうことね。なるほど。」那珂の不安点に五十鈴は納得した。
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那珂たちが打ち合わせをしている時間はすでに9時を回ってもうすぐ30分になる頃だった。
「そういえば提督、今日は何時に来るか知ってる?」
「いいえ。連絡してみたら?」
普通ならば遅刻の時間である。しかしここは国の艦娘制度の管理署・鎮守府なのでそう言った勤務の枠組みには当てはまらない。とはいえ那珂たち二人は、自分らの上司たる西脇提督が来ないことに不安を感じていた。
那珂は五十鈴の提案通り、すぐに携帯電話を手に取り提督にメールを送ってみた。
しばらくしてピロリと次に携帯電話が鳴ったのは、五十鈴の携帯電話だった。
「私の携帯? 誰かな……はっ!!?」
疑問を口にしながら画面を点灯させて通知を確認した五十鈴は瞬時に顔を赤らめた。そこには"西脇栄馬さん(艦娘仕事関連)"という、連絡先に登録した名前が宛先になった形でメールの通知が来ていたからだ。
五十鈴がすぐに顔を上げ、側にいる小癪な真似をしでかした張本人を見ると、その人物はわざとらしく顔をそむけて吹けない口笛を吹いていた。
「あーんたねぇ……昨日の仕返しってわけね。ふーーん?」
「え?え?なんのことぉ?提督が宛先間違ったんじゃないのー?」
「……私一言も提督からメール来たって今言わなかったんだけど?」
那珂はペロっと舌を出す仕草をして言葉なく五十鈴に返すのみにした。
「まぁいいわ。ともかく、提督は午後からこっちに来るそうよ。それまでは本館の管理は私たちに任せるそうよ。」
「そ、りょーかい。」
一通り必要な確認を済ませた二人は、前日と同じように川内と神通が来るのを執務室で待つことにした。
二人が来た時間は、前日とほぼ同じくらいだった。
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着替えて来た川内と神通が執務室に入ってきた時は、10時45分だった。午前中にこなせる時間も少なくなってきたため那珂は二人が落ち着く前に声をかけた。
「それじゃあ今日は、二人に水上移動をしてもらいます。これをマスターすれば艦娘の艦娘らしい動きはできるようになります。とっても大事なことだから、たっぷり時間をかけて身体に覚え込ませてね?」
「「はい!」」
各々タオルなど必要なものを持って4人揃って工廠へと向かった。
工廠前に着くと那珂は大声で中にいる人物に声をかけた。
「明石さーん!」
しかし当の本人は工廠内の事務室にいて何か作業をしているようで聞こえていない様子だった。那珂は五十鈴たちに自分が言いに行くと合図し、断って工廠の中を進み事務室の扉をあけて中に入った。
「明石さん。」
「あ!はーい。なんでしょうか?」
明石はテーブルに置いた図面のようなものから目を離して身体ごと那珂の方を向いた。かけていたメガネを外して図面の上に置いて聞く体勢になる。
「川内ちゃんたちも来たので、これから演習用プールに行って水上での訓練をさせたいと思います。」
「はい。わかりました。みんなの艤装は外にいる技師の○○さんに言って出してもらって下さい。何かあったら知らせに来てくださいね。当分は事務室にいますので。」
「はーい。それじゃあ。」
那珂はお辞儀をして事務室から出て行った。
工廠の外に出て川内たちの側に戻ってきた那珂は改めて号令をかけた。
「明石さんには連絡してきたから、これから演習用プールに向かいます。艤装は持って行ってね。あたしは全部身に付けていくけど、二人はムリしないで、辛そうだったら工廠に置いてきてもいいよ。プールで使うのは脚部のパーツだけだから。」
那珂は皆の前に戻ってくる前に技師に艤装を使うことを伝えていたので、ほどなくして技師の人たちが台車を使って4人分の艤装を運んできた。各々それらを確認し、手に取る。
「それじゃあ私も全部装備して行こうかしら。」
那珂と五十鈴はそう言って艤装を全部装備し始め、同調したのち演習用プールへと続く水路に向かって歩き始めた。
二人に先に行かれて残っていた川内と神通はどうしようかまごついたのち、二人で話して決めた。
「えーっと、えーとどうしよっか神通?」
「落ち着いて……ください。まだ私達慣れてないですし、那珂さんのおっしゃったとおりに、足のパーツだけ持って行きましょう。」
「うん、わかった。そうしよ。」
川内と神通は脚部のパーツを装備して同調し、工廠の演習用水路のある区画から離れて工廠を出て、演習用プールへと向かうことにした。艤装の扱いにすでに慣れている那珂と五十鈴は演習用水路へさっそうと降り、そのまま浮かんで進んでいった。川内たちはその様子を羨ましそうに数秒間眺め見ていたが、はっと我に返ってやや駆け足で(周りに気をつけながら)歩みを再開した。
演習用プールについた川内と神通は先に到着していた那珂と五十鈴をプールのど真ん中に視認した。川内たちが演習用プールの敷地内に入ってきたのを見た那珂たちはスイーッとプールの水面を横切って進んでプールサイドに近寄った後上がった。
「はぁ。はぁ。昨日歩きは慣れたはずなのに……これだけの距離だと同調しながらだとまだ結構しんどいですね……。なんていうんだろ、疲れは疲れなんだろうけど。」
川内が息を切らしながら言おうとしたこと、それを神通が補完した。しかし彼女も相当息を切らしており、かつ汗が玉のように流れ出ている。汗を拭って呼吸を整えた後言った。
「……同調してるということは、精神的にも……疲れるという……ことかと。(ゴクリ)思います。」
「神通ちゃん正解。艤装はね、最初に同調した時にフィットしたな!って感じるのと、それを自分の体の一部かのよーに身体に馴染んだと感じるのはまた別なの。まだ二人とも装備してるって感じがするでしょ?」
「は、はい。」
「……はい。」
体力があり運動神経も良い川内でさえ、工廠脇から演習用プールまでの数十メートルでバテている。とはいえ彼女は身体的というよりも精神的な疲れのほうが上回っていた。神通はもともと体力がないため、精神面とダブルで疲れが溢れ出ていた。歩行に慣れたとはいえ、同調したことで超絶パワーアップした感覚と力の加減に、体力がついていけてなかった。
「あたしも五十鈴ちゃんも、もう一体化してるかのように艤装が身体に馴染んでるから、これだけ動けるんだよ。ここまで当たり前のように出来て、初めて艦娘らしくなるってところかな。ね、五十鈴ちゃん?」
「あなたは慣れすぎだけどね。さすが同調率98%を叩きだしただけあるわ。まぁ那珂ほどじゃないにせよ、私も物を身に付けてるという感覚はかなり薄れてるわ。さすがにこのライフルパーツは手に持つ感覚普通にあるけれど。」
那珂も五十鈴も手足を動かしたりクルッと回ったり、ライフルを掲げたりしている。
「じゃー、みんな一旦同調切ろっか。……二人は、ちょっと休まないとダメかな?」
「さ、さすがにヘトヘト。休みたいです。」
「わ……私も、です。」
那珂は側頭部をポリポリと掻いて眉をひそめ、二人の状態を見た後、しばらく休ませることにした。
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10分ほどして川内と神通の呼吸が落ち着いてきたのを見計らって那珂は説明を再開した。
「それじゃーいくよ。これから水面に浮いてもらいます。と言ってもそんな難しいことじゃないよ。同調してれば、足のパーツから浮力が発生するから、ボーとしてても思いっきり力入れて踏ん張って沈もうとしても勝手に浮くの。浮かぶんだって考えというかイメージを頭に思い浮かべること。考えたことを艤装が検知して、自動的に浮力とかを調整するんだって。あとはバランス感覚。まーこっちのほうが大事かもね。これは慣れないと時間かかるかも。」
それじゃあと言うが早いか那珂は再び同調し始め、プールサイドからプールの水面へと普通に歩くような勢いで足を乗せ始めた。それを見て五十鈴も再び同調し、プールの水面へと足を乗せる。那珂と五十鈴では浮かぶ高さが変わるため、若干の身長差が発生した。
「よし、じゃあやろっか、神通。」
「は、はい。」
先輩二人の様を見ていた川内と神通も同調を済ませ、数歩歩いてプールの水面に後1歩というところまで来た。そこからの一歩が二人は中々踏み出せないでいる。
先陣を切ったのは川内だった。
「うーー、よし。てりゃ!」
川内は右足を少し上げて前へゆっくり突き出して水面に下ろした。その足はまるでトランポリンか何かに足をつけたように跳ね返される感覚を覚えた。それですぐにピンときたのか、川内は続いて体重を前方にかけて左足も水面におろし、全身が水面の上にある体勢になった。
川内は、ついに水面に浮かぶことに成功した。
「は、はは……、アハハ! うわぁ!うわぁ~! すごい!おもしろーーい!あたし、水に浮かんでるー!忍者みたーーい!」
川内はすぐに慣れたのかその場(水上)で足を上げ下げして水の上に浮く感覚を堪能しまくっている。その最中後ろを振り返り、左手を突き出す。
「ほら神通!あなたも来てごらん!おっもしろいよ!!」
「は……はい。」
興奮がとまらない川内の様子に若干引きつつも次は自分だと再認識し、意を決して神通は次の一歩、右足を水面に下ろした。両手は伸ばされた川内の左手をなんとしてでもつかもうと足よりも少し前に出す。川内はその手を掴み、神通のバランスを補助する。
「いい?離すよ?」
「ま、待って……離しちゃ嫌です。もう一歩。もう一歩出てから。」
神通は数秒後にようやく残りの足を水面に下ろした。川内の手を掴んでやや安心してるためか、おしりがまだプールサイド側に残っておりへっぴり腰になってしまっているが、誰もそのことを気にしないでおいた。体重をゆっくりとプール側にかけてへっぴり腰を解消していくと、彼女もようやくバランス感覚を理解したのか、川内の手を掴む強さが弱まる。川内はそれがわかって、神通の両手からそうっと左手を手前にひいて完全に手と手を離した。
神通も、ついに水面に浮かぶことに成功した。
「わ、私……やりました。私も!浮かんでます!!」
神通の感情も溢れだした。その目にはうっすら涙が浮かんでいる。側で見守っていた川内、そして少し離れたところで五十鈴と一緒にその様子をじっと見守っていた那珂もウンウンと頷き合い、その成功を自分のことかのように喜んだ。
「やったね神通!あたしたち、これで本当に艦娘なんだよね!?」
「は、はい……!実感が……うぅー。」
「やだぁ!泣かないでよ神通。あたしまで……泣けてきちゃうじゃん~。」
感極まって揃って泣き出す川内と神通。だが、気が緩んだためか、体勢を大きく崩してしまった。
「「きゃっ!!」」
ドボン!!
「ちょ!?ダイジョーブふたりとも!?」
初めて出せた艦娘らしい雰囲気が一瞬にして台無しになってしまった。
水上ですっ転んでほぼ全身水に浸かってしまった二人の近くに那珂と五十鈴はスーッと近づいて二人立ち上がりをサポートする。
「気を緩めたらダメよ。慣れてないうちは特にね。ほら、一旦プールサイドに上がって。また最初からやってみなさい。」
「「……はい。」」
一度目は水面に立つことができた川内と神通だが、午前中には水上移動までは叶わず、とにかくプールに足をつけたその場にひたすら立つ、バランスよく立つことを練習した。
何度か練習を経た川内がふと質問をした。
「ねぇ那珂さん。なんとなしに足を少し動かしてますけど、このまま水面を歩いたらいけないんですか?そのほうが楽そーな気がするけど。」
「おー。よくそこに気がついたねぇ。やってもいいけど艦娘の移動としては非効率だからオススメはしないかな。」
「……なるほど。なんとなくわかりました。」
那珂の説明にいち早く納得の様子を見せたのは神通だった。
「ん?何がわかったの?」
いまいち理解が追いついていない川内は神通の方に振り向いて尋ねた。神通はコクリと頷いた後答え始める。
「地上で、歩くのと走る速度は違いますよね?」
「うん。」
「水上で艦娘が足の艤装を使って歩くのと進むのでは、地上のそれよりも速度が段違い……だと思います。これから私達はその速度を体験することだと思いますけれど。深海凄艦はどこに現れるかわかりません。戦ったり調べるために長距離の移動をするかもしれないです。そこで、地上よりも広く自由に動ける分、移動時間に差が出来てしまうんです。」
「あー、なるほど。やっとわかってきた。ステージクリアするのに普通にダッシュ移動すればいいものを、すり足忍び足スキル使ってクリアしようとするようなもんか。あたしは他のスポーツやゲームで例えたほうがわかるわ。」
「同じ疲れるでも効率の良し悪しがあるし。あくまで近い距離向きなのが、水上歩行ってことだよ。」と那珂。
川内はゲームのプレイで例えてようやく水上歩行のメリット・デメリットを理解した。
出来ることだがあえてしない水上歩行。その意味を川内と神通はそれぞれ理解したのだった。
那珂はスイーッと二人から離れて方向転換して二人に説明を続けた。
「さて、午前はここらで終わりにする?それとも続ける?」
「うーー、ちょっと休みたいです。いいよね神通?」
「……はい。私も休みたいです。」
「よっし。それじゃ着替えたらお昼食べにいこっか?」
「「はーい!」」
那珂の提案に気を緩めて返事をした二人はまた転んで全身を濡らしてしまった。その日何度目かの全身びしょ濡れ状態である。
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びしょ濡れになってしまった川内と神通は艤装を工廠の一角に預けたのち、演習終了後に艦娘が使うケア設備の一つ、瞬間乾燥機を浴びて艦娘の制服と自前の下着を簡単に乾かした。強力な乾燥機とはいえ、すぐに乾くものではなく、生乾きの状態になってしまっていた。完全に乾かすにはやはり脱いできちんと当てないといけないと判断した川内と神通は全部着替えるべく、一旦その状態のまま更衣室に戻ることにした。
「うえぇ……生乾き気持ち悪い。」
「……(コクリ)」
気持ち悪がる二人を見ていた那珂と五十鈴はケラケラ笑いながら二人に声をかけた。
「それも艦娘の経験の一つだよ~。ね、五十鈴ちゃん?」
「そうね。私達みたいに制服が配られる人はまだましだけど、時雨や夕立たちみたいに学校の制服や私服だと毎回大変でしょうねぇ。」
「アハハ!それは言えてる~!」
五十鈴の発言にアハハ、クスクス笑い出す那珂たち。
その後全員着替え終わり、財布を取りに執務室へと向かった。川内と神通は鎮守府を出る前に工廠に立ち寄って乾燥機のところで制服をきちんと乾かすことにした。
執務室に入るとやはり誰もいない。まだ提督は来ていない様子がひと目でわかった。
「まだ提督は来てないようだねぇ~。」那珂は軽い足取りで提督の机に近寄り、机に置いたバッグから財布を出した。
「……そうね。午後からって書いてあったけどもうすぐ1時になるのに。」
五十鈴、川内、神通も秘書艦席やソファー側のテーブルに置いたバッグからそれぞれ財布を取り出して準備を整えた。
その後4人は執務室、そして鎮守府の本館を出てお昼ごはんを食べに町へ繰り出した。4人が食事をしたのは駅前にあるファミリーレストラン。鎮守府Aの面々がしょっちゅう使うため、レストランの従業員や店長にもすでに顔を覚えられている。すでに顔馴染みとなってその度合が高い五十鈴と那珂は常連さんよろしくな挨拶をして先に入っていき、その後に川内と神通がやや申し訳無さそうに入っていった。
4人は何の遠慮もせず艦娘の優待特典を使って格安で豪華な食事をした。(主に川内が)
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昼食が終わり4人が本館に戻ると、ちょうど提督が男性用トイレの区画から出てきたところに遭遇した。
「お、4人ともご苦労様。お昼かな?」
「「「「はい。」」」」
「そういや五十鈴はどうしたんだい?7月中は任務もないはずだけど?」
「実は那珂に頼まれて、川内さん達の訓練を一緒に監督することになりました。」
「そうだったのか。それじゃ二人でよろしく頼むよ。」
「はい。任せて!」
久々にガッツリ声をかけられた感のあった五十鈴は少しだけ上ずった声を出しかけたが、すぐにいつもの真面目調子の声に修正して提督にその意気込みを聞かせた。
「提督はいつ来たの?」那珂が質問した。
「ついさっきだよ。訓練はどうかな?こう暑いと嫌になるだろ?」
提督と那珂たちは合流して執務室に喋りながら向かう。
「大丈夫大丈夫。今日から水上移動の練習でプールにいるからなんとなく涼しく感じられるかなぁ~って。だっていつでもその場で水浴びできるし。」
川内は気楽な回答を口にした。彼女の頭の中には制服が濡れてその後のケアが大変ということがすっぽり抜け落ちているのが容易に他の3人には想像できた。提督は事情を知らないため、川内の口ぶりに軽く吹き出すように微笑んで言葉を返した。
「ハハ。そうか。水上移動の訓練ならまぁそうなるな。もし今後どうしても暑かったら水着持ってきて適当に遊んじゃってもいいぞ。もちろん訓練終わったらだけど。」
「おやおや提督ぅ~?そんなこといってあたしたちの水着姿見たいのかなぁ~~?」
那珂は屈んで上半身を低くし提督を見上げるような体勢になって茶化し始めた。その表情は提督もすでに知っているように、可愛いが小憎たらしいそれだった。
那珂の茶化しに提督は少し慌てて言い返す。
「コラコラ。俺はただ君たちの健康を心配してだな……」
「はいはい。そーいうことにしておきましょ!だいじょーぶだよ。その時はちゃーんと提督も一緒にプールに誘ってあげるから。その時はあたしたちのしなやかで美しいJK肢体をご堪能あれ~」
「はぁ……まったく那珂は。」
那珂の相変わらずの茶化しに提督は那珂の期待通りの反応をし、那珂を満足させるのだった。そんな二人を見た五十鈴や川内は、昨日の一連の出来事のように、下手なことを口走らないか肝を冷やしていた。
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執務室にバッグ等を置いていた那珂たちは、提督が出勤してきたということでそれらを待機室に持って行こうとしたが、提督がそのままソファーか秘書艦席にまとめて置いておいてもよいと許可したため、4人は好意に甘える事にした。
バッグからタオルや簡単な着替えを取り出し、率先して行こうと言い出す川内。
「さーて、ご飯も食べたし、午後も行きましょうよ!」
「ちょっと待ってね。午後は今日も夕方からだよ。」
「えぇ~~!?いいじゃないですかー!」
那珂は不満を垂れる川内に警めた。
「夏だし、熱中症にならないためにもこれだけは守ってね。一応提督とのお約束だから。責任者としては不必要に病人を出したくないそうなの。ね、提督?」
那珂はウィンクを提督に送る。すでに執務席に座っておにぎり片手にPCに向かって仕事をし始めていた提督は喋らずにウンウンと2回頷いてその意を示した。その返しを見た川内は少し不満を残しつつも納得の様子を見せる。しばらくは不満気を残したままだったが、神通と一緒に教科書を読み始めるうちにすぐにそんな気分を雲散させて、二人でじっと没頭していた。
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その後夕方になり、那珂たち4人はその日の午後の訓練をしに執務室を出て工廠に向かった。工廠にやってきた4人は入り口付近にまとめて置いてあった自身らの艤装を技師に断って再び外に運びだす。演習用プールへは午前中に行ったとおり那珂と五十鈴は水路を通って、川内と神通は今度は腰にコアユニットを、それ以外は脚部のパーツ一式を手に持って同調せずにプールまでの距離を歩いて行った。
先についたのはやはり那珂と五十鈴の二人だった。その後追って川内と神通は必要最低限にしたパーツを抱えてプールサイドに入ってきた。
「あれ?二人とも同調して来なかったの?」ひと目で気づいた那珂が言った。
「はい。だって大した距離なくてもすっごく疲れるんだもん。」
「……本来する訓練の前に……疲れたくないので。」
二人の言い分ももっともだと理解した那珂は優しく言葉を返した。
「アハハ……まぁもっともだねぇ。仕方ないや。」
那珂は二人に言葉をかけた後、早く装備をして同調するよう促した。そして説明を再開する。
「さて、ここからが重要だよ。前も言ったと思うけど、コアユニットと足のパーツには脳波制御装置っていって、考えたことを検知してそれを艤装の動作やバランス制御の補助に変換してくれる機械があるらしいの。だから、前に進みたいとか水面でジャンプしてちゃんと着水したいとか、今まで以上になるべく自分の動き・やりたいことをを意識すること。自分じゃ足りないバランス感覚を艤装の各パーツが補助してくれるんだって。ま、詳しいことは実際に身体で覚えていこー。」
「「はい!」」
川内と神通は揃って返事をした。
「よーし。それじゃあいってみよ。色々言ったけど、つまりはスケートみたいなイメージしてもらっていいと思う。機械的なこと言うとね、あたしたち川内型の艤装の足のパーツはね、普通の船みたいなスクリューがついているわけじゃなくて、衝撃波が出る装置が内蔵されてて、そこから出る衝撃波で進むんだって。それの強弱を決めるのが、考えること・思うこと。」
「思っただけで前に進むだなんて、なんだか魔法みたいだなぁ~。それこそゲームとか、昔の人が考えてた未来の光景だよね。」
川内が那珂の言ったことに対して感想を口にした。
「明石さんや提督みたいな機械やプログラム知ってる人なら当たり前のことなんでしょうけど、私達普通の学生からすれば本当、魔法かなにかよね。艦娘ってどれだけの高度な技術で成り立ってるのかしら?なんだか、提督の本業のIT関連の世界に興味湧いてくるわ。」
川内の感想を受けて五十鈴がそう口にすると、那珂がそれに目ざとく反応して茶化し始める。
「おぉ?五十鈴ちゃんは提督自身だけじゃなくて彼のお仕事にも興味アリアリですか~?常に一緒にいたいとかそう言ったことですかねぇ~~?」
「ちょっと……あんた……!?」
五十鈴は自身の思いを那珂が他人にわざと聞こえるように茶化して話そうとしたと感じ取り、とっさにキッと凄んで睨んだ。睨まれた那珂はハッとした表情になってわざとらしく口を塞いで弁解をした。
「おっと。なんでもないですなんでもないです。」
その様子に川内は?を顔に浮かべ、神通は前髪の奥の隠れた顔に苦笑いを浮かべながら見ていた。
「コホン!さーじゃあ二人とも。まずは復習から。もうサクッとプールの上に浮かんでみて。」
「「はい。」」
那珂の指示に従って川内と神通はパーツを装備して同調していた状態でプールサイドを歩き、やがてプールの水面に足をつけてそのまま一歩、また一歩と普通の人間ではありえない動きをした。二人が水面に出てきたのを見届けた那珂は再び口を開いた。
「それじゃ次の一歩進んでみましょっか。スケートを滑るような体勢で、頭のなかでは自分が進みたい速度をイメージするんだよぉ~~」
説明しながら那珂は自身で実演してみせる。その場から半径数mを移動しながらである。
那珂の実演の後、先陣を切ったのは川内だった。
「よーし。頭のなかでスピードをイメージしてぇーー、スケートを滑るように……。」
川内は歩幅はそれほど極端に変えずに調整しながら前傾姿勢になって前に進み始めた。頭の中では徐行運転ばりのスピードをイメージしていたのか、進むスピードは相当遅い。が、それでも進んでいることに変わりはない。
「お~~こういうことかぁー!なるほどなるほど。那珂さーん。あたしコツわかりましたよー!」
徐々にスピードを上げていき、さきほどから縦横無尽に移動している那珂のそばに近寄っていく川内。すでに那珂や五十鈴に近い速度で動けるようになっていた。
「あー、でもこれ結構疲れる。これも慣れればそうでもないんですかねぇ~?」
「うんー。そーだよぉー。」
川内は調子に乗ってスピードを上げて進んでみたが、すぐに疲れに気づいてスピードを落としてぼやく。那珂はその言葉に相槌を打って返事をした。
その様子を見ていた神通は浮かんだ時の感動もつかの間、途端に不安を表情に出していた。果たして自分にあのようにスムーズにできるのかと。
神通の側にいた五十鈴は彼女の肩に軽く触れ、囁くように声をかけて鼓舞した。
「ここまでできたんですもの。できるわ。さ、やってご覧なさい。」
「は、はい。」
神通は先程の那珂の説明どおりのイメージをしながら、足を前に出してみた。するとかかと辺りから衝撃波が発生したのがわかった。しかし自信がないなりに考えた彼女の進むイメージは、極端に強く早く進みたいというイメージだったため、艤装はその考えを忠実に検知してしまった。
ズザバァーーー!!!
「ひぐぅ!?」
神通は右足に引っ張られながらそれ以外の身体はやや後方に体重がかかり、前に突き出た右足と他全身合わせて人か入という文字を描きながら水上をものすごいスピードで進み出した。変な悲鳴付きのスタートダッシュ状態だ。
「きゃーーーー!!!!」
「うわぁ!神通!?」
「ちょ!!神通ちゃん!?スピード緩めて緩めて!止まるイメージしなさーい!!」
川内と那珂が水上移動を楽しんでいたポイントまで一直線に進んでいった神通は、那珂のとっさのアドバイスどおり、“急停車”するイメージをした。すると右足のパーツからの衝撃波は弱まるのではなく瞬間的に止まり、反動で神通は真正面に向かって吹っ飛んで激しく転んでしまった。
水面とはいえ、猛スピードから一気に止まったので反動は激しく、全身を水面に叩きつける力も強烈だ。
バッシャーーーーン!
「だ、大丈夫?神通?」
「おーーい、返事して~神通ちゃん?」
「ちょっと……今の止まり方はいくらなんでもダメよ! ホラ起きなさい。全身沈んじゃうわよ。」
遅れて近づいてきた五十鈴も神通に声をかけるが反応がものすごく鈍い。全身水面に倒れこんだ神通は足以外は徐々に沈み始めていた。意識が朦朧としていたために普通に水に浮かぶ体勢すら取れずにいるのだ。その様子に気づいた五十鈴と那珂は慌てて神通の腕を掴んでそれ以上沈むのを防ぐ。
「あ、ヤバ。神通ちゃん気失ってる?」
「ちょ!とりあえずプールサイドに運びましょう。」
那珂と五十鈴に抱えられてプールサイドに上げられた神通は同調が強制切断されるほど気を失っていた。
「あれだけ猛スピード出たってことは、神通ってばどんなふうに考えたんだろ?」
那珂と五十鈴に支えられてプールサイドまで行く神通をぼーっと見ながら川内はつぶやき、随伴しながらプールサイドへと向かう。
「あっぶなかったよねぇ~。あたし危うく激突してたよぉ。」
「彼女、脚を出す前に考え込んでた顔してたから、相当強く想像してたんでしょうね。きっと二人がスイスイ動いていたのを見て慌てたんでしょう。初めてなんだから慌てなくていいのに……。」
そう言ってチラリと那珂と川内に視線を送る五十鈴。その視線に気づいた那珂は川内と顔を見合わせ、悄げた仕草をして気を失っている神通に謝った。
「うー、ゴメンね神通。あたしはすぐできちゃったからあなたのことまで気が回ってなかった。」
「あたしも二人に早く動けるようになってもらいたくて見せることばっか考えてた。ゴメンね、神通ちゃん。……幸いにも顔とか怪我してないみたいだからいいけど。」
神通が目を覚ますまで数分かかった。その間五十鈴は一旦工廠へ行き明石を呼んで介抱を手伝ってくれるよう願い入れる。明石は念のためと救急セットを持ち演習用プールの那珂たちがいるプールサイドへと駆けつけた。
「あらあら大変!那珂ちゃん川内ちゃん、彼女の艤装全部はずしてあげて。」
「「はい。」」
明石の指示通り二人は神通の身につけていた脚部のパーツを外し、続いてコアユニットを腰のベルトから外して側に置いた。神通を神通たらしめるものは艦娘の制服だけになっていた。ほぼ、素の神先幸状態である。
那珂は神通の意識が早く戻るよう頬を優しくペチペチと叩き続けた。川内はその後ろでやや慌てふためいた様子で先輩のすることをじっと見守っている。明石も神通を診てみたが、目立った外傷はなさそうだった。思い切り叩きつけられるように転んだとはいえ水面であったのが幸いした。明石は念のため救急セットから必要そうな薬を出して神通に処置し、しばらく様子を見ることにした。
その後神通が目を覚ましたのは約5~6分後だった。目を覚ました神通はまだ意識が朦朧とするなかで那珂たちの質問に「ふぁい」と答え、若干怪しい言動で那珂たちを不安にさせていた。
「神通ちゃん、今日はやめとこっか?」
「……すみません。……うぅ……。」
那珂が念のため意思確認をすると、神通はそれを受けて承諾した。川内は無言で後頭部をポリポリ掻いて神通を心配そうに見つめていた。
明石は五十鈴に呼びかけ神通の艤装を工廠に仕舞うのを手伝わせて先に戻っていった。演習用のプールサイドには那珂たち3人が残り、日陰で休ませてからその場を後にした。
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那珂たちは更衣室で着替えを済ませ、執務室に戻った。その頃には神通は見た目とその様子にはひと目ではわからないくらいには回復していたが、念のため那珂達は提督に神通が水上で転んで顔を(水面に)ぶつけたことを報告した。
「神通!大丈夫かい!?」
提督は少し身をかがめて神通の顔を覗き込むように僅かに近づけて言った。
「あ……は、はい。もう、大分……意識ははっきりと。」
自身の失態に猛烈に恥ずかしくなり、神通は提督の顔をまともに見られなくなってしまった。そんな顔を真っ赤にしてうつむく彼女の様を、那珂や五十鈴も提督と同じように心配げに見つめる。
「もう帰るかい?それとももう少し休むならソファーに横になっていいけど?」
提督は身内が怪我したかのごとく心配症な様子を見せて神通を気にかけまくる。
「神通、遠慮無く寝かせてもらえば?正直まだ少しボーッとするんでしょ?」
「……はい。それでは横にならせて……いただきます。」
神通は川内に寄り添わされてソファーに行き、身を横たえて寝始めた。彼女の介抱は川内が受け持つことになった。
その場所から少し離れたところで那珂は五十鈴と小声で話し始めた。
「今日はもう続けられないね。」
「そうね。まぁでも焦る必要はないでしょ。まだ夏休みたくさんあるんだし。」
「うーん、そうは言うけどねぇ。日当の事とは別にしても、なるべく早く全てこなさせてあげたいんだよね。水上移動までは艦娘の基本中の基本だから、2~3日中には終わらせたかったんだけどなぁ~。」
「あんた……ちょっとペースが早くない?私なんか水上移動までを5日くらいかけたわよ。」
「およ?五十鈴ちゃんそれは時間掛けすぎだよ?もしかして限界まで日当もらうつもりだったの?」
那珂の言い草にカチンときた五十鈴はすかさず反論した。
「んなわけないでしょ!?私そんなにずる賢くないわよ!私はしっかりやった結果予想より日当もらってしまっただけよ。」
「はいはい。五十鈴ちゃんは努力家だもんね。それだけかけたから強いんだもんねぇ~」
また那珂はいやらしい表情になって五十鈴の言に言葉を返した。完全にからかう気満々であった。
「くっ……あんたそれイヤミ?どうせ私は天才なあなたに叶いませんよ!フン!」
真面目な返しを期待できないとふんだ五十鈴は拗ねて自分のバッグのある秘書艦席にスタスタ歩いていってしまった。それを追いかける那珂。
「ゴメンって五十鈴ちゃん。あたしはホラ、アレだし。同調率たまたま高かったから慣れるのも早くてあっという間に終わっただけだしぃ。」
「それが天才だって言うのよ。私の同調率は92%だったわよ。ふつーよふつー。」
「だから拗ねないでよぉ~。帰り何かおごってあげるからぁ!」
その後那珂と五十鈴は神通が完全に回復するまで雑談して時間を潰した。
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「ご迷惑を……おかけしました。もう帰れそうです。」
ソファーから立ち上がって川内、那珂、五十鈴たち、そして提督に頭を下げて謝った神通。確かに顔色は(髪の毛で隠れてはいるが)問題なさそうと那珂は捉えた。が一応確認してみた。
「神通ちゃん、ホントにだいじょーぶね?無理とかしてないよね?」
「は、はい。本当に、大丈夫です。」
「うん。信じたよ。帰り道とか気をつけてもらわないと、交通事故とかシャレにならないからね。」
那珂の本気で心配してるという声色の声掛けを聞いた神通は単純にしつこく聞いているわけではないと気づき、再び頭を下げてお礼の意味を込めた謝罪を重ねた。
「それじゃ提督。あたしたち帰るね。提督はまだいるの?」
「あぁ。」
「あ、そうだ。鍵返さなきゃ。」
「いいよいいよ。しばらく預けておく。俺がいないときに本館開けて入りたいだろ?前も言ったけど、訓練終わるまでは貸しておくよ。」
「それならお言葉に甘えて借りておくよ。ありがとね。」
那珂は川内と神通を引き連れて執務室を後にしようとした。
「あ、そうだ。五十鈴はちょっと話があるから残ってくれ。」
「え!?な、何かしら……?」
那珂たちと一緒に帰ろうとしていた五十鈴は立ち止まり、そうっと振り返って提督に視線を送った。突然提督に呼び止められて心臓が跳ね上がる思いで焦りを隠しきれずにいたが努めて平静を装う。
「おぅ?提督、五十鈴ちゃんに何の用かなぁ?気になるのぅ~。あたしたちも残ったげよっか?」
五十鈴につづいて那珂も振り向き、いつもの調子で茶化し気味に提督に向かって言う。しかし彼が返した言葉は、那珂の想像の範疇を超えた声色の言葉だった。
「那珂たちには関係ないことだから遠慮してくれ。」
聞いたことのないような鋭く真面目な言い方。普段の調子で反応してくると思い込んでいた那珂は途端に萎縮してしまう。
「へ?あ……ゴメンなさい。そ、そーだよねぇ。あたし……たちに聞かれたくないこともそりゃあるよねぇ~。那珂ちゃんちょい無神経だった!テヘ!」
その瞬間提督が怖くなった那珂は努めて普段の調子を演じて軽い返しをした。さすがに那珂の態度に無理が感じられた五十鈴は何か声をかけようと思ったが、適切な言葉が見つからずに黙っていることしかできないでいる。
「そ、それじゃ、失礼しました。」
那珂の態度に違和感を覚えた川内と神通だったが、さすがに問いかけたり空気を読まずに口を挟むのはよくないと察して何も言わなかった。やや慌てて退出の言葉を述べて出て行った那珂を追いかけるようにして二人も退出した。
本館を出る頃にはいつもの調子を戻していた那珂だったが、未だ心の中の感度は荒ぶっていて落ち着かない。自身の真の態度を後輩二人に悟られまいとし明るく振る舞っていた。
結局その日はなんとなく落ち着かない、前日・前々日より早めの帰宅となった。
その日の夜、夕方のことが頭から離れずに落ち着かぬ時間を過ごしていた那美恵は、携帯を片手にベッドに寝っ転がり、メールアプリを開いて新規作成ボタンを押すか、メッセンジャーアプリを開いて連絡先リストから望みの相手を選ぼうかどうか迷っていた。
考えすぎて頭が重くなったような感じがし、やがて那美恵は携帯電話を持った手を力なく落とし、ベッドに横たわった。携帯電話が手の平から掛け布団の中にコロリと落ちる。
これまで激として怒ることがなかった西脇提督が自分に対して怒った。この数ヶ月であたしのこと多少知ってるんだからいきなりあんなに怒ることないじゃん、と那美恵は真っ先に思ったが、それと同時に不必要に首を突っ込みすぎた自分のミスをも理解していた。
確実に自分の失態だ。鎮守府は学校ではない。提督は民間の会社員とはいえ、れっきとした国の組織に携わる管理者たる人だ。艦娘としての自分たちの上司。これまで数ヶ月在籍して活動しておきながら、それぞれの本来の立場でその人を捉えて接していた。つまりは公私混同とも言える最悪な状態。提督の普段の優しくて気さくな性格と振る舞いに甘えていた。少し控えなければ……。これは自分の落ち度。那珂の落ち度。中落ち?
那美恵は真面目に真剣に考え思いを張り巡らせるが、完全に堅苦しい真面目さは嫌だったので自分でオチをつけて締めた。しかし虚しさだけが残る夜となった。