同調率99%の少女(14) :軽巡艦娘たちの準備
--- 1 軽巡艦娘たちの準備
初日の夜、自宅の自室でのんびりしていた那美恵は流留と幸に、翌日は先に鎮守府に行っているから二人で適当に都合をつけて来るように伝えた。
「りょーかいです。」と流留からの返事。
「承知致しました。提督と何か打合せされるのですか?」と了承+想定をする幸からの返事。
「おぉ?さっちゃんは突っ込んでくるねぇ~。まー隠すことでもないし、返信返信っと。」
幸の返しになんとなく感じることがあった那美恵は考えをそのまま返信する。
「明日は提督丸一日来ないから、あたしが朝早く行って本館開けて待ってるよ。」
「鍵いただいたのですか?」すぐさま幸からの返事がきた。
「うん。だからぁ、明日はあたしが臨時で提督かな~?提督の席にふんぞり返って座って、君たちの出勤を待ってるぞよ!」
「うわ~なみえさん提督! 那美恵提督?光主提督?素敵!」流留から返事が来た。呼び方にノリノリである。
「でしたら私達も朝早く行きますよ。朝の涼しいうちにやれることは済ませたいですし。」
「ん~まあそのへんは二人に任せるよ。」
「りょーかいです。」
「承知いたしました。」
流留と幸に連絡をして同意を得た那美恵は携帯を置き、明日朝早く鎮守府に行くためにベッドに飛び込むことにした。
ベッドの中で眠りに落ちるのをひたすら待っている最中、那美恵はふと思いつきベッドを出てテーブルの上にあった再び携帯電話を手にすると、再びベッドの中に潜って携帯電話をいじり始めた。
「こんばんわ。凛花ちゃん。そっちは夏休みはじまたー?」
程なくして返信が来た。五十鈴こと五十嵐凛花とのやりとりが始まった。凛花とはメッセンジャーでのやりとりだ。
「えぇ。そちらはどう?」
「うん昨日からね。それでね、流留ちゃんとさっちゃんの基本訓練の監督役してるの。今日から訓練始めたんだよぉ。」
「そうなんだ。頑張ってね。」
「ねぇねぇ、凛花ちゃん今度いつ鎮守府来る?」
「7月中は任務のスケジュールないから行く機会ないわ。夏休みだし、学校も艦娘のことも忘れてのんびりしたいわ。」
「そっかぁ。凛花ちゃんもし暇そうにしてるなら、流留ちゃんたちの訓練の監督役手伝ってもらおっかなって思ったんだけど。」
「暇そうってヾ(*`Д´*)ノ" 確かに暇だけどさ。なるべく早いうちに宿題や課題終わらせておきたいのよ。でもいいわ。訓練の指導とか興味あるし。」
「おぉ、凛花ちゃんの協力ゲット! 明日どぉ?提督もいないから好き勝手できるよ?」
「え?西脇さん来ないの?」
「凛花ちゃんにおかれましては複雑でしょーけど。」
「うっさい。で、いつ行けばいいの?」
「あたし提督から鍵もらってるから、朝早めに行くつもり。凛花ちゃんはいつ来てもらってもいいよ。あたし、提督の席でふんぞり返って待ってますから!」
「鍵もらってるって・・・あんたいつの間に。それに勝手に西脇さんの席いじったらいけないわよ。」
「凛花ちゃん真面目だなぁ~ちょっとくらいいじったってあの人のことだからなんも言わないって。凛花ちゃんだってあの席に好き放題し放題だよ?」
凛花から返信がこなくなり会話が途切れた。1分待っても来ないので那美恵は催促する。
「おーい、凛花ちゃん?」
「・・・あんたね。発想が少しキモイわよ。男子じゃないんだから。」
「キモイとか未来の艦隊のアイドルに向かってひどくねー?」
「ひどくないひどくない。明日行くのはわかったから。私がやることだけ教えて。」
「えーとね。」
その後、那美恵は会話形式で進めるメッセンジャーにもかかわらず長々と訓練の方針を書いて投げたため、凛花から怒られてしまった。
「あんたね!長いのよ!読む気なくすっての。あーもうわかった。あんたが行く時間に私も行く。それで話を聞くから。行く時間教えて。」
「8時すぎに行くつもり。」
「8時とか早くない?」
「だってさぁ、提督が来ないってだけだし、明石さんたちとか普通に出勤してくるだろーし、鎮守府で働いてる人達に合わせたほうがよくない?」
「わかった。じゃあ駅で待ち合わせしましょ。」
「おっけー。じゃあ8時○分に。」
「わかった。じゃあお休み」
「おやすみー」
凛花とのやりとりを終えた那美恵は安心して眠りにつくことが出来た。
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次の日水曜日、8時15分頃に鎮守府のある駅についた那美恵は改札を抜けると、すでに凛花が待っている場所に小走りで近寄った。那美恵よりも時間にきっちりしている、いざというとき真面目である那美恵に輪をかけて普段から真面目な凛花である。
「おはー。凛花ちゃん早いね~。」
那美恵は片手をシュビっと上げて挨拶をしながら近寄る。
「おはよう。じゃあ行くわよ。」
「うん。」
雑談をしながら鎮守府までの道を進む二人。凛花の高校も那美恵の学校と同じく、月曜日に終業式で翌日から夏休みだった。彼女が語るところによると、7月中は任務がないとはいえ、自己練習のために鎮守府には行く予定だった。やるべきことはあらかじめきちんと済ませておきたい真面目な凛花は、7月中に高校の全ての宿題・課題を終わらせて、それで艦娘としての鍛錬に臨む気でいた。何もかも忘れるとは言ったものの、やはり真面目な彼女であった。
那美恵は凛花のようにがむしゃらにやることを済ませるタイプではなく、ペースを保って的確に物事を済ませていくタイプである。学校の宿題・課題は凛花の学校のそれと量はさほど変わらない。ただ那美恵は数が多い少ないにかかわらず、休み中変にだらけてしまわないよう課せられた宿題・課題を一定の数に分けて一定期間ごとにこなす予定だ。
お互いのやり方を語り合った二人はなんとなしにクスクス笑いあった。
「私の学校の友人はみんな最後のほうで慌ててやって最後は私に頼ってくるのよ。進学校なんだからきちんとやれっていっても聞かないし。」
「へぇ~。うちのみっちゃんはねぇ、凛花ちゃんに似てるかな。いつも8月入ってすぐの頃には宿題終わったって言ってたし。多分今年のみっちゃんも同じだろーなって思ってるよ。」
「頼られたりはしないの?」
「みっちゃんも普通に成績いいしね~。他の同級生はたまに。凛花ちゃんところは進学校だから大変なの?」
「ううん。そんなの関係なく、きっと私の友人たちがみんなルーズなだけだと思うわ。」
「アハハ。大変だね~。」
鎮守府の本館に着く頃にはほとんど凛花の愚痴の吐露だけになっていた。那美恵は凛花の話を適度に相槌を打って聞いていた。
本館についた二人はまずは那美恵が一足先に駆けて行って鍵を取り出して本館の玄関を解錠して扉を開けた。二人はロビーとトイレ、更衣室、待機室と窓を開けて換気していき、最後に執務室に入る。
「むふふー。今日はあたしが提督だよ。というわけで凛花ちゃん。今日はあたしのこと光主提督ってよんd
「呼ばない。」
いつもの調子でおどけつつ冗談を言った那美恵だが、超高速で返された返事を聞いてまたおどけつつ食い下がる。
「はえー。もうちょっとノってよぉ。」
「着替えに行くわよ。あと明石さんたちに顔見せておいたほうがいいんでしょ?」
「はーい。」
食い下がってもなお受け流す凛花のスルー力に那美恵は感心しながらも軽い返事をした。先に出て行った凛花を追いかけて更衣室に行った。
艦娘の制服に着替えて那珂と五十鈴になった二人は、まず工廠に行って明石たちに挨拶をすることにした。
「「おはようございます。」」
「おはようございます、早いね~二人とも。今日は出撃ですか?」
すでに作業着になっていた明石は二人を見て尋ねてきた。それに那珂が回答する。
「いいえ。今日は提督いないので鍵もらってたので、本館開けに早く来たんです。それから川内ちゃんと神通ちゃんの訓練です。」
「あ、鍵借りたんですね、なるほど。でも五十鈴ちゃんは?」
「私は那珂たちの訓練の手伝いです。」
ひと通りの挨拶を終えた後、那珂は明石にお願いをした。
「明石さん、今日は川内ちゃんたちに艤装付けて同調してもらうところまでする予定です。なにかあったらその時はよろしくおねがいします。」
「はい。了解しました。お待ちしてますよ。」
明石に話を取り付けた那珂は五十鈴と一緒に本館に戻ってきた。艦娘ならば普段は待機室に行ってそこで会話なりなにか作業なりをするのだがこの日提督は丸一日不在。鍵を任されている那珂は資料が沢山揃っている執務室をずっと使おうと考えていた。
執務室に入った二人。那珂は提督の席に置いたバッグからカリキュラムの資料を取り出し、早速とばかりに五十鈴に説明を始めた。
「じゃあ五十鈴ちゃん、訓練の内容と方針を簡単に説明しておくね。」
「えぇ、お願い。」
那珂は至極真面目な雰囲気で五十鈴に川内たちの訓練内容とその進め方を五十鈴に説明した。五十鈴は自分のバッグからメモ帳を取り出し、那珂の語る内容に相槌を打ちながら真摯に聞き始めた。
「なるほどね。大体わかったわ。」
「でね、五十鈴ちゃんには、神通ちゃんのサポートをしてほしいの。」
「いいわよ。」
「彼女はね、ちょーっと基礎体力ないから、体力つけさせつつかなって思ってるの。ただ訓練と並行してやってると遅れちゃうかもだから、訓練のときは五十鈴ちゃんには彼女の専属講師みたいな感じで付き添ってあげてほしいんだ。五十鈴ちゃんならきっと神通ちゃんと仲良くやれると思うの。」
那珂から指示を受けた五十鈴は了承した。那珂は彼女の反応を確認すると、その日のスケジュールを改めて五十鈴に伝える。
「今日のところは川内型艤装の基礎知識を覚えてもらうのと、艤装を一人でも装備できるようにしてもらうのと、同調をひたすらやって慣れてもらうところまでかな。時間はあるし、明日以降しっかりとこなしていってもらうの。そこからは二人の出来具合を見てカリキュラムの進め方を分けるつもり。」
那珂からスケジュールを聞いた五十鈴は考えこむような仕草をしたあと、那珂に提案する。
「川内型の艤装となると私じゃ教えられることはないわね。今日のところは二人のケアに回ろうかしら。」
「うん。そのへんは任せるよ。」
そう言った直後、那珂は思い出したように高めの声をあげて言い直す。
「あっそうだ!五十鈴ちゃんにもう一つお願いしたいこと。」
「なに?」
「付き合ってくれる日だけでいいんだけど、訓練の進捗をチェック表に記入して欲しいの。」
「チェック表?」
「うん。提督に提出するやつ。それで二人の成長度をちゃんと測るの。それに訓練中の日当を出してもらうものさしになるし。五十鈴ちゃんもしてもらったでしょ?」
「あー、あれね。あの評価って、チェック表使ってやってたんだ。知らなかったわ。」
五十鈴も着任当時基本訓練をしたが、その時は提督が監督役として事を進めていた。そのため基本訓練中に充てられる日当のための評価の仕方なぞ、訓練者であった彼女が知るはずもなかった。それは那珂とて同じことだが、那珂は先日提督と打ち合わせしたときに訓練の運用の仕方を聞いていたため、川内と神通のチェック表を素早く五十鈴に見せてそのやり方を伝えることができた。
五十鈴は那珂から運用周りの作業を依頼され、ただ戦いに参加するだけの艦娘としてだけではなく、この鎮守府の重要ポストにつく将来像をなんとなく思い浮かべ始めた。那珂はすでに提督からそういうポジションを期待され、足を踏み入れている。五十鈴はそれが羨ましく思った。ライバル認定している以上は自分も負けていられないと感じたため、なるべくライバルに近い場所でその相手と似た作業を行なって経験を積んでいこうと密かに決意したのだった。
「任せてもらうのはいいけど、付け方わからないわ。」
「あたしもチェックの仕方ぶっちゃけわからないけど、多分川内ちゃんたちが出来た!って様子になったら評価書けばいいと思うの。まー、一緒にやってこー。」
「えぇ。」
二人とも打合せが終わり、ソファーの背もたれに体重をかけて上半身を楽にし一息つくことにした。時間は9時を回っていたが、川内と神通は来る気配はまだない。
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那美恵から鎮守府に行く時間を適当にと任されていた流留と幸は、何時に行くか前日に二人でやり取りしていた。その議論の結果、先日と同じくだいたい10時ごろに駅前で前で待ち合わせと決めた。
鎮守府のある街の駅の改札を抜けた幸は周りを一切振り向かず、人が少なそうな一角を選んでそっと立って流留を待つことにした。先日の流れからすると、流留は絶対時間通りに来ないと想像できるため、幸は周りをキョロキョロせずに自分の世界に安心して閉じこもって待つことにした。
念のため幸はメッセンジャーにて流留に連絡を取ってみた。
「内田さん、今どこですか?」
「今家出たとこ。もうちょっと待ってね~m(_ _;)m」
幸は予想どおりの時間で動いていた流留を確認できた。幸は流留の自宅がどこかは知らないため、正確な時間を把握することはできなかった。流留はメッセンジャーでやりとりしたあと30分くらいして駅の改札口を通って幸の視界に姿を現した。待ち合わせの時間から30分をすぎるなど、あまりにもルーズすぎないか?と幸は内心思ったが口には出さない。
今度から、遅れる時間を考慮して本来の30分前くらいに設定しておくべきかと幸は考えることにした。
幸と流留がお互いに気づいたのはほぼ同時だった。ただその後の行動はまったく違うものである。流留は幸を見つけると、駆け足になって彼女に駆け寄り、すぐに謝った。
「ゴメンねー。遅れちゃった。」
前回と同じくまったく悪びれた様子のない謝罪である。幸はすでに心の中で流留を咎めるイメージを散々こねくり回していたので実際には何も言い返す気なく、当たり障りのない言葉だけ返した。
「ううん。大丈夫……です。」
「そっか。じゃあ行こう!」
のんびり歩くと20分ほどかかる鎮守府までだが、訓練の時間もあるためバスを使って行った。結局二人が鎮守府に着いたのは10時半となった。
本館に着いた二人は早速待機室に向かう。二人とも那珂が執務室にいるという考えにはまだ至らないのだ。入ってすぐに二人はそこに誰もいない=那美恵が別のところにいると把握した。
「あれ?誰も……いないね。なみえさんどこいったんだろ?お手洗いかな?」
「……あっ。」
「ん?どうしたのさっちゃん?」
「なみえさん、きっと執務室です。昨日のメッセージで、提督がいらっしゃらないとおっしゃってましたし。」
「そっかぁ!さすがさっちゃん。よく覚えてるなぁ~」
幸の一言で執務室に行くことにした流留たちは、その前に更衣室で艦娘の制服に着替えてから向かうことにした。
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執務室にいる那珂と五十鈴は訓練の打ち合わせも終わり、暇を持て余していた。これから訓練を指導する立場であるにもかかわらず、ダラダラと雑談をしていた。勝手にテレビをつけて見たり、給湯コーナーでお茶を出して飲むなど執務室を好き勝手使っていた。
那珂もだらけ始めていたが、常に真面目姿勢な五十鈴も待ちくたびれたのか、冷房の効いた執務室で気が緩んでしまったのか大きめのあくびをしてソファーに深く座って背もたれに身体を預けて、寝る準備が整ってしまった。
五十鈴が2回めの大あくびをしようとしたそのとき、執務室の扉が開いた。
ガチャ
「あ!那珂さんいた!おはようございます!」
「……おはようございます。那珂さん。……あっ。」
川内は完全に那珂しか見ていなかったが、神通は入ってすぐに左右を見たため、那珂以外にいる人物に気がついた。
「……五十鈴……さん?」
自分の艦娘名を呼ばれて五十鈴はすぅっと眠気が覚めて上半身を起こした。
「あら?二人とも来たのね。おはよう。」
「「おはようございます、五十鈴さん。」」
川内と神通は執務室の中に入り、那珂たちが座っているソファーまで歩いて近づいた。神通は那珂に話しかけると同時に五十鈴にも気を回した。
「あの……那珂さん。なぜ五十鈴さんが?」
神通の疑問に那珂は素早く答える。
「うん。実はね、五十鈴ちゃんに二人の訓練を手伝ってもらおうと思ってね。」
「ほぉ~~」
川内は呆けた声を上げて感心の様子を見せる。
那珂はソファーから立ち上がった後五十鈴の座っている隣に駆け寄ってソファーに膝立ちになり、五十鈴の肩を抱きながら言った。
「むふふ~五十鈴ちゃんはあたしたちの先輩だからねぇ~。」
那珂のいやらしい笑いと肩たたきで嫌な予感がした五十鈴は 顔をひきつらせながら隣の那珂を見る。
「な、何よその笑いは?」
「こちらのお姉さんに身も心も委ねれば大丈夫ってもんですよぉ~。このお姉さんはおっぱいもおっきいし包容力も抜群ですよ~~……このおっぱい魔人がぁ!」
「ちょ!いたっ!なにすんのよ!あんた羨ましがるのか普通に紹介するのかどっちかにしなさいよ!」
なんとなく茶化すつもりが言葉の最後の方に私怨を交えてしまい、憎たらしい巨大な二つの膨らみを持つ"先輩"を小突き回す那珂。そんな彼女を見ていた川内と神通は苦笑いをしながら那珂を収めようとする。
「は、はは……那珂さん、胸にコンプレックス持ちすぎでしょ。」
「(コクリ)」
「那珂さぁん。わかりましたから話進めてくださいよ。」
「ん~~~?こっちにも五十鈴ちゃんに負けず劣らずのおっぱい魔人がいたんだっけなぁ~~~?」
那珂は私怨の矛先を五十鈴から川内に変え、わざとらしく目を細めて彼女の胸元を睨みつけて中腰で手をワシワシさせながら近づく。那珂の動きに気味悪がった川内は胸を両腕で覆いながら那珂にツッコんだ。
「だ~~から!やめてってばー!そういうの!」
気の合う仲間が揃ったので午前にもかかわらずエンジンフルスロットルな那珂であった。