同調率99%の少女(24) :ex3 那珂:ステージ後
# ex3 那珂:ステージ後
拍手鳴り止まない中、司会者に促された那珂らは席を立ちステージ下手に退場した。会場では司会者の二人による本当の締めの言葉が続いていた。先に戻った那珂たちを待っていたのは、妙高と鹿島そしてスタッフらだった。
「ご苦労様です、皆さん。よく頑張りましたね。」と妙高。
「お疲れ様です、霧島さん、夕張さん。私ハラハラしちゃいました。」鹿島は若干の嬌声で自分の鎮守府の二人に抱きつくように駆け寄っていく。
緊張の糸はその時、那珂ら三人を完全に解き放った。
「妙高さぁ~~ん! あたしもう心臓バックバクもんでしたよぉ~!」
那珂が抱きつくと妙高は一瞬驚きの表情をするが、すぐに慈母の表情で那珂の頭部を撫でて慰める。同じような光景は夕張と霧島、鹿島も行っていた。
そんな普通の少女たちに戻った艦娘たちを、イベントショーのスタッフらは遠巻きに笑顔で眺めていた。
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やがてショーは閉幕し、司会者の二人が戻ってきた。イベントのディレクターやスタッフ一同が舞台裏たるテントの中央に集まる。
「いや~お疲れ様でした。皆さんのおかげで盛り上がり十分で最後まで進めることができました。」
ディレクターがそう口にするとスタッフらからは拍手が鳴り響く。イベント主催団体の面々はディレクターに握手をした後、続きとして挨拶を発する。
「今回の祭りの本イベントは、弊社がかねてより実現を強く願っていたイベントです。海自や艤装装着者管理署に掛け合ってイベントとして加えてもらっただけでも感謝ですが、成功にこぎつけたことに大変感謝の気持ちが絶えません。特に主役の艦娘の皆さんにはお忙しい中ご参加いただけて一番感謝しております。本当にありがとう!」
主催団体の代表が妙高と鹿島に近づいていき両手で握手をしあう。その次に霧島・夕張そして那珂に感謝の言葉と握手を交わしていった。那珂たちは一言ずつ感想を口にした。
「こういったイベントに出るのは初めてでしたので緊張しました。自分の会社では特に目立たない一般社員でしたのに、艦娘になってこういう場に参加させていただけたことは良い経験になりました。今後の糧にできればと考えております。」
社会人で真面目な霧島らしい感想と挨拶だ。
「え、えぇと。私はただの女子高生でこういった場には全く慣れてなくて今でも信じられません。芸能人にちょっとだけなれたな~という感想で精一杯です。あのあの!本当にありがとうございました!」
夕張は未だ緊張によるどもりが抜けきっていないのかたどたどしく言葉をひねり出しながらもどうにか挨拶とした。
そして那珂が口を開いた。
「あたしも、普通に高校生活送っていたらありえなかったこうしたイベントやテレビ局のある場に参加させていただけたことに、皆さんに感謝が絶えません。あたし、昔からなんとなくアイドルとかになってテレビに出ることが夢だったので、ある意味夢が叶ったかなって浮かれてます。緊張が解けた今はなんかふわふわってして嬉しいやらなんやらでいっぱいです。こんなあたしたちみたいな艦娘でよければ、今後もこういったイベントで市民の皆さんを喜ばせてあげられたらいいな~って思います。本当にありがとうございます!」
三人の言葉がテント内に浸透すると、再び拍手が巻き起こった。中には三人の言葉にツッコミを入れたり反復して自分の感想を言い合ったりしている。
その後那珂たち艦娘はスタッフ一人ひとりに握手と挨拶をしてテントを後にした。
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テントから出た艦娘たちは、会場付近の混乱を避けるため、渚の駅たてやまの博物館分館の通用口から目立たぬ経路で会場を抜け出した。
建物の通常の入り口とは違う別の通用口で一旦立ち止まり、互いに挨拶を交わし合った。
「これで最後のイベントですよね?」と那珂。
「えぇそうです。無事に終えられて一安心です。フフッ。」と鹿島。
「舞台裏から見てる私達のほうが緊張してしまいましたね。」
妙高がそうつぶやくと鹿島は強めに頭を縦に振って同意を示し、マネージャー的立場だった自身らの内輪向けの感想を言い合った。
「ねぇ鹿島。この後の予定は?」
霧島が事務的に尋ねると鹿島はバッグから手帳を出して確認して答えた。
「間もなくお昼で……この後15時から館山基地で閉会式、それ以外はなにもないです。自由時間ですよ。」
鹿島の口から予定を聞いた霧島と夕張は大きめの溜息をついて安堵感を示した。同じ予定である妙高と那珂はなんとなしにクスッと笑う。
「そーだ!」
「どうしました、那珂さん?」
「観客席に川内ちゃんたちいたんです。最後の方で気づいたんですけど。」
「アラアラ。もしかしたらまだ会場のどこかにいるかもしれませんね。」
「なんか会うの恥ずかしいな~。」
那珂のわざとらしい照れの仕草を見ていた霧島が思い出したように言った。
「そういえばうちの娘たちも見かけたわ。あの顔は見慣れてないから新人達だったかも。鹿島、探して拾ってから帰りましょう。」
「フフ、そうですね。」
雑談を交えながら一行は通用口の扉を開けて外に出ようとした。その時、建物の中から呼び止める声が聞こえた。
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「すみませーーん。千葉第二の艦娘のお二方ぁー!」
「あ、はーい。」
言及された対象が絞られていることに気づいた鹿島らは軽く会釈をして別れの言葉を交わし、先に会場の人の雑踏の中に消えていった。
立ち止まった那珂と妙高は追いかけてきた人物を待っていた。
「すみません呼び止めてしまいまして。わたくし、こういうものです。」
息切れを整えるのもほどほどに男性が差し出してきた名刺には、意外な社名が書かれていた。
「○○TV営業の高瀬と申します。この度はお勤めおつかれ様です。」
「あ、○○TVって、ネットテレビ局の?」
「えぇ!ご存知いただけて光栄です!」
那珂がつぶやくと、高瀬と名乗る男性はパァッと明るい雰囲気を出して続けた。
「実は弊社ではですね、艦娘の皆様の活動紹介をベースにしたドキュメンタリー番組企画を計画中でして、もしよろしければお力添えいただけないかなと存じております。」
「そうでしたか。でもなぜ弊局に?神奈川第一鎮守府のほうが在籍する艦娘も多くて適切かと思うのですけれど。」
名刺は提督代理の妙高が受け取り、受け答えしていた。那珂は妙高の隣で呆けた顔で二人のやり取りを見る形になっていた。
「以前防衛省に取材したときにお聞きしたのですが、千葉第二鎮守府は創設されてまだまもないとか?」
那珂と妙高は顔を見合わせた後「そうです」と返事をする。
「私どもが求めているのはまさにそういうところなんです。これから艦娘が増えて発展していくというところがまさに好例なんです。あと私どものオフィスとスタジオが検見川浜とはそれほど離れていない場所にあるので、そういった地理的な面でもベストなのです。それでですね……」
言葉巧みに操って連ねる彼の言に圧倒された二人は、あまりの勢いに戸惑う。この場では回答しようがないしそもそもの責任者は提督なのだ。
妙高は適当に返事をしてあしらうことにした。
「お誘いいただけるのはありがたいのですが、まだ今回の任務も終わっていないですし我々にも都合がございます。西脇には私から伝えておきますので、後日改めてということでよろしいでしょうか。」
「あぁ!それは全然構いません。お渡しした名刺に記載しております連絡先にいただければすぐに伺いますので。それではご連絡お待ちしております。」
高瀬は那珂たちに深くお辞儀をした後、足早に通用口を建物の奥に向かって戻っていった。
「なんか嵐のような勢いの人だったなぁ。知ってるネットテレビだったからそのまま聞いちゃったけど、本当だったのかなぁ。」
妙高と二人だけになった通用口の出入り口で、那珂は独り言のようにポツリと口にした。妙高はそのセリフに対し、イエスともノーとも取られない曖昧な相槌を打つのみだった。
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その後通用口の出入り口から、会場の出店がある広場(渚の駅たてやまの駐車場のエリア)に出た二人は、ごった返す広場をどうにか突っ切って余裕のある場所で時雨たちに連絡を取ることにした。
妙高が電話をかけると、ほどなくして相手の声が発せられた。
「……もしもし?」
「あ、理沙? 私よ。妙子です。」
「あ、お姉ちゃん。もうテレビのほうはいいの?」
「えぇ。終わったから皆と合流したいの。今○○の屋台の後ろの広場にいるんだけど、あなた達どこにいる?」
「あ、えぇと。そこだったらさっき寄ったところだから、皆連れて行きます。待ってて。」
理沙は的確に場所を把握したのか、自分たちから移動することを宣言した。妙高が電話を切ると那珂は視線だけで確認した。
妙高は軽く微笑みながら一言で知らせる。
無事に理沙や五月雨達全員と合流を果たした那珂たちはの昼食を買い、広場で空いている席に場所取り、海辺の気楽な昼食タイムを進めた。その昼食時の話題は、那珂の出演のネタでもちきりだったのは当然の帰結だった。
昼食後、妙高は神奈川第一の村瀬提督・これから来る西脇提督らとの最後の調整のため先に館山基地に戻っていった。残った那珂たちは閉会式が始まる時間まで、思い思いに祭り最後の時間まで思い出づくりに励むのだった。