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同調率99%の少女(11) :着任式直前
--- 4 着任式直前
鎮守府Aの本館に着いた那美恵たちはひとまず暑さを逃れるため早々にロビーに入った。那美恵は提督を呼ぶために執務室へと向かった。この日の主役である流留と幸はどうすればいいのか手持ち無沙汰でボーっとするか、友人たちと雑談するしかなかった。
那美恵が行こうとすると、阿賀奈が呼び止めた。
「ちょっと待って光主さん。挨拶しなくちゃいけないから先生も一緒に行くわぁ。」
「はい、お願いします先生。」
5人を待たせて那美恵は阿賀奈を連れて執務室へと向かった。3Fに上がり執務室の扉をコンコンとノックをすると、男性の声でどうぞを聞こえてきた。那美恵と阿賀奈は丁寧に「失礼します」と断って扉を開けて執務室に入った。
するとそこには提督、五月雨、妙高の3人が揃っていた。
「お、光主さんいらっしゃい。」
「提督、みんな連れてきたよ。連れてきてよかったんだよね?」
「あぁもちろんだよ。」
「提督さん!ご無沙汰しております。○○高校の教師の四ツ原阿賀奈です。この度はうちの生徒がお世話になります!」
「四ツ原先生、ご無沙汰しております。その後はいかがですか?職業艦娘のほうは?」
阿賀奈は待ってましたと言わんばかりに、先ほど那美恵たちに見せたそのままの反応で提督に向かって示した。
「うふふ~。やっぱり提督さん気になります?なりますよね~?」
「へっ? えぇまあ。そりゃあ学校提携で必須のことですし。」
一瞬たじろぐ提督。その様子を見て阿賀奈は満を持してとばかりに大きめの声で提督に伝えた。
「実はですね、この度軽巡洋艦阿賀野に合格しましたー! いかがですか、提督さん!?」
「おぉ!?軽巡洋艦ですか! いいですね、軽巡洋艦の艦娘。一人でも多く欲しいところなんですよ。」
「ホントですかぁ!?」
「はい。うちに阿賀野の艤装が配備されたら、先生に真っ先に連絡致します。楽しみにしていてください。」
「はい!! 楽しみに待っています!」
最初から最後までハイテンションで提督に向かっていった阿賀奈。本人としては提督が驚き、期待を込めてくれたので満足も満足。大満足なのであった。
「本当なら四ツ原先生も艦娘として着任できれば完璧だったんだけど、阿賀野はうちにはまだ配備されないので今回は生徒さんだけということで。」
「それは全然かまいません!まずはうちの生徒をよろしくお願いいたします!」
「こちらこそ、これからお力を借りるのでよろしくお願いいたします。」
提督と阿賀奈は社交辞令的な言葉を交わし合う。秘書艦の五月雨と妙高は提督の後ろでその様子をにこやかな表情で眺めていた。
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「それでは内田さんと神先さんには着替えてもらって、艦娘の待機室に行ってもらって下さい。今日はうちの鎮守府の艦娘たちは全員揃ってますので、時間までは皆と自由にしてもらってかまいません。」
「わかりました! 光主さん、みんな連れていきましょう!」
阿賀奈は提督からこの後の流れを聞いた後、那美恵に向かって指示を出した。那美恵は快く返事をする。
「はーい。先生も一緒に行きましょうよ~。みんなを紹介しますよ?」
那美恵が阿賀奈に一緒に行こうと提案したが、それを提督が一旦制止した。
「ちょっと待って。四ツ原先生にはこの後ちょっと話があるから、ここに残ってほしいんです。」
「え?私にですか?なんですか?」
「今後の御校との連携についてお話しておきたいことがあるので。」
「あ~。わかりました!私も教師ですから、それなら仕方ないですね~。」
阿賀奈から了承を得た提督は上半身の向きを変えて五月雨と妙高に向かって指示を出す。
「五月雨、君は一緒に待機室に行って時雨たちを連れてロビーで着任式の準備をしてくれ。着任証明書とか、台を持って行ってほしいんだ。」
「はい。わかりました。」
「妙高さんは着任式の後の懇親会の準備を進めておいていただけますか?手伝っていただいてる大鳥さんは今って……」
「はい、承知いたしました。大鳥さんは娘さんと一緒に必要なものの買い出しに行ってもらってます。もう少ししたら戻ってくると思います。」
提督と妙高が触れた"大鳥さん"。那珂はその人達のことを知らなかったので五月雨に小声で聞いてみた。
「ねぇねぇ五月雨ちゃん。」
「はい?」
「大鳥さんってどなた?艦娘?」
五月雨は頭を横に振って返した。
「いえ。妙高さん…黒崎さんのご近所の方です。うちが出来た当初から黒崎さんと一緒に何かとお手伝いをしてくださってる人です。」
「へぇ~そうなんだ。」
そう言って那美恵はクスっと笑った。
「どうしたんですか?」と五月雨。
「ううん。なんだかここって、バリバリ戦闘する鎮守府じゃなくて、ご近所さんとも付き合いがあるアットホームなところだなぁって思ってさ。」
「あ~そうですよねぇ。」
「戦いから帰ってきた艦娘が癒やされる場所って感じがしそう。好きかも。」
「私も好きな雰囲気です。」
クスクスっと笑いあった後、那美恵と五月雨は提督に一言告げて執務室を後にした。
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ロビーで待っていた三千花たちはしばらくして五月雨と一緒に来た那美恵が視界に入ったので声をかけた。
「あ、五月雨ちゃん。こんにちは。」
「はい!中村さん、皆さん。こんにちはー。」
「みんな、これから待機室行くよ。その前に流留ちゃんとさっちゃんは先に更衣室行って制服に着替えてきて。あたしも後で行くから。」
「「はい。」」
那美恵は流留と幸に指示を出して二人を先に行かせた。
その場には那美恵と三千花ら生徒会メンバー、そして五月雨だけとなった。
「あのさ、なみえ。私達も?」
三千花が当然抱く質問を聞いてきた。
「うん。みっちゃんたちも待機室へどうぞってこと。もちろん唯一男子の三戸くんもOKだよ。」
「うおっ!?俺もマジでいいんすか!?艦娘の花園…みなさんがいらっしゃる素晴らしい場所へ?」
「会長。私達はいいとしても三戸くんはまずいのでは?興奮止まらなそうですよ?」
全員心配した点は一緒だが三戸は興奮し、和子は興奮している隣の黒一点を心配にプラスして那美恵に訴える。
「さすがに三戸くんだけハブってここにいさせるのもかわいそうでしょ?それに三戸くんには書記として着任式の撮影もしてほしいの。おっけぃ?」
「は、はい。」
「それから今回三人とも初めて会う艦娘もいるから、ちゃーんと挨拶してね? うちの高校として恥ずかしくないように。いい?」
「わかりました!」
三戸の威勢のよい返事を聞き、那美恵たちは艦娘の待機室へと足を運んだ。三千花と和子はなんとなく不安を持ったが、那美恵が問題なしとふんだので100%ではないがとりあえず納得して了承した。
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流留たちは更衣室へ着替えに行っているため途中で那美恵も入り、自身も着替えていくから五月雨に三千花らを連れて先に行ってくれと頼んで任せた。
三千花は一瞬不安に感じたが、時雨たちとはすでに面識があるため、気まずい空気にはならないだろうと考えを改め、五月雨の案内に続いていった。
更衣室に入った那美恵は、流留と幸がすでに着替え始めていたのを見て、自身もロッカーの前に行き着替え始めた。
「なみえさん、今日は着替えるんですね?」と流留。
「うん。さすがに今日は艦娘として参加しないとね。川内型揃い踏みだよ。」
揃い踏みと聞いて流留は身が引き締まる思いがした。背筋がピシっと自然に伸びる。
「どしたの?」
「いや、なんか自分の艦娘名をガッツリ呼ばれてる気がして。」
「そういやそうだよね~。なんかね、何々型って、ネームシップっていう艦らしいよ。」
「はい。知ってます。」
「知ってんの!?」
流留は自身が知っていることを説明し始めた。
「あたしはゲームで知った口なんですけど、軍艦って姉妹艦があって、たくさん作られたそうですよ。んで、ネームシップというのは最初に作られたベースとなる艦、いわゆるお姉さんなんです。」
「へぇ~そうなんだ。あたし船とか軍隊とか興味ないから知らなかったぁ。そういう言い方するんだってただなんとなく使ってたよぉ。」
万能な生徒会長でも知らないわからないことがあったことに驚き、そんな彼女に勝てる要素があったことを誇らしく流留は思った。
「なみえさんでも知らないことあるんですね~。」
「あたしをなんだと思ってるのさ~。普通のJKだよぉ?」
「ハハッ。なみえさんに教えられることがあってなんか嬉しいですよ。」
「そりゃあね~。流留ちゃんはこれから川内ちゃんになるんだし、"お姉さん"ですもんね~。あたしとさっちゃんのお姉さんなんだからあたしたちより頑張ってもらわないと。ね?さっちゃん。」
幸は無言でコクコクと頷いて賛同した。
「うーなみえさんに頼られるのは嬉しいやら恥ずかしいやら。ものすんごいプレッシャーなんですけど。」
「気にしない気にしない~。」
ブーブーと不満を漏らす流留をサラリとやり過ごす那美恵。それを見ていた幸がクスリと笑みを漏らす。凸凹あるが、数日前に出会ったばかりとは思えないほどの仲の良さを醸し出す3人。先輩後輩としても、艦娘としても、プライベートとしてもすっかり仲良くなっていた。
着替え終わった3人は更衣室を出て、先に三千花たちが向かっている艦娘の待機室へと行った。
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「おまたせー!川内型3人、ただいま入りましたー!」
那珂たちが入ると、そこにはちょうど待機室から出ようとしていた五月雨と時雨、席に座ってる夕立・村雨、4人から離れたところで座っている不知火。そして五十鈴がそのとなりの席に座っている。艦娘たちからは離れたところ、扉付近に三千花ら一般人が立っているという構図だ。
「なみえ。内田さんと神先さんも。着替え終わったのね。」
「うん。みっちゃん、ちゃんと挨拶した?三戸くんは大丈夫?」
「えぇ。ちゃんと見張っていたから大丈夫よ。」
「そ。」
那珂は三千花に確認し終わった後、スタスタと部屋の中を進み五十鈴の元へと来た。同時に不知火も視界に入る。
「五十鈴ちゃんおひさ!」
「えぇ。お久しぶり。」
先日鎮守府までの道中で会ったばかりだが、鎮守府内で艦娘としては久方ぶりだったのでハイタッチをして再会を喜ぶ二人。五十鈴は知り合いが来ている那珂に対し素直に喜べないところがあったが、ともかくも笑顔で返す。
五十鈴と笑顔で再会を喜び合ったあと、那珂はそのまま横に視線を移す。不知火が目に入ってくる。不知火も那珂もお互い気になっていたが、面識がない者同士、視線を合わせづらいところがあったのでなんとなく外し合っていた。だが那珂は進んで話しかけた。
「不知火さんだっけ?初めまして。中々一緒に仕事する機会がなかったから、これが初めてだよね?あたし、軽巡洋艦那珂やってる光主那美恵です。女子高生です。よろしくね!」
那珂から自己紹介をされて不知火は勢い良く席から立ち上がり、自身も自己紹介をし始めた。
「私、智田知子(ちだともこ)といいます。○○中学2年です。駆逐艦不知火をやらせてもらっています。……よろしくお願い致します。」
おとなしそうな雰囲気。幸と似てると那珂は思ったが、その口調は幸とは違い、ハキハキとしたものだ。
「うん。よろしくね!」
那珂につづいて流留と幸も五十鈴と不知火に挨拶と自己紹介をする。これで鎮守府Aの艦娘たちは全員面識ができた。
「いや~ついに揃ったね。鎮守府Aの艦娘全員。妙高さんと明石さん入れると11人?」
「そうですね。ただ明石さんはちょっと特殊なので実質10人です。」
那珂の感想と確認を受けて五月雨が答える。
「10人超えるって多い方なの?少ない方?」
流留が誰へともなしに質問すると、それには那珂が答えた。
「以前隣の鎮守府の人に聞いた時はあっちは60人超いるっていうから、うちはまだ少ない方だと思うよ。ね、五月雨ちゃん?」
以前天龍に聞いた人数を答え、詳しいことを確認しようと視線と身体の向きを流れるように五月雨の方に向ける。
「あ~えーと。そうだと思います。私、他の鎮守府の人数とか気にしたことないので。」
「五月雨ちゃ~ん。せめて近隣の鎮守府の情報は収集して整理しておこうよぉ。頑張ってよ、秘書艦さん!」
五月雨が曖昧な答えを言うと、軽く諫めつつも厳しくならない口調で那珂はアドバイスを口にした。五月雨は横髪を摘んで撫でつつ
「エヘヘ。はい……。」
と照れ混じりに返事をした。
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その後、五月雨と時雨は5分前くらいになったら全員ロビーに来てくれと案内だけ残して、着任式の準備のためにロビーへと先に向かって部屋を出て行った。とはいえ時間はすでに13時45分を回ったところ。ここでおしゃべりするのもロビーでおしゃべりするのも変わらないということで、那珂は全員に向かって提案した。
「ね、みんな。どうせあと少しだし、全員でもうロビーに行っちゃおうか?」
それに真っ先に五十鈴と三千花が賛同する。
「そうね。早め早めが肝心だわ。」五十鈴は至極真面目な反応を見せる。
「私もなみえに賛成。どのみち時間あと少しなんでしょ?」三千花は親友の言葉に流れを任せるかのように賛同した。
「おっけ~。他のみんなもいい?」
夕立らや三戸と和子も返事をした。それを聞いた後、那珂は流留と幸の方を向いて強めの口調で声をかけた。
「流留ちゃんとさっちゃん、二人は主役なんだから早めの行動お願いね~。」
いきなり名を呼ばれて一瞬反応が遅れる流留と幸だが、那珂の指示にシャキッとした返事で返す。那珂はそれを見てウンウンと満足気に頷いた。
待機室に残っていた者たちは全員廊下に出て、階段を降りロビーへと足を運んだ。ゾロゾロと人が現れたことに先に降りていた五月雨と時雨は驚いたが、時間を見るとすでに10分前ということで納得の様子を見せ、ペースを上げて着任式の準備を終わらせた。
「それじゃあ私、提督呼んできますね。」
そう言って五月雨は執務室のある3Fへと一人で向かっていった。
手伝いをしていた時雨は終えると夕立たちの集まる場所に歩いていき、一息つくためにソファーに腰を下ろした。那珂を始め他のメンツもロビーにあるソファーに腰掛けたり、ブラブラ歩いてロビー内や外にある運動場を眺めたりしている。
那珂は三千花・流留・三戸とおしゃべりをしていたが、側にいたはずの幸がないことに気づいた。辺りを見回すと、本館の裏にある運動場を大きな窓越しに和子と一緒に見ていた。隣にはなぜか不知火もおり、3人揃って黙ってジーっと見ている。
和子や幸が何かしゃべっていたとしても、二人の元々の声量のせいもあり、那珂と三千花のいる場所からは聞こえない。3人の中では一番積極的にしゃべるし動く和子が隣の幸の方を向いて口を動かす。幸は和子の方をチラッと見てかすかに口を動かす。そののち幸は不知火の方を向き、和子がしたのと同じように何かを口にした。不知火も先ほどの幸と同じように隣を向き、かすかに口を動かす。
那珂たちのいる位置からはやはり聞こえないが、彼女らなりに何かを楽しんでいる様子だけは那珂も三千花も理解できた。
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