同調率99%の少女(24) :ex2 那珂:初めてのテレビ出演
# ex2 那珂:初めてのテレビ出演
「それでは登場していただきましょう。艦娘の皆さん、どうぞ~~!」
多大な拍手と歓声の嵐の中、霧島を先頭に並び直して三人はステージへと上がった。
霧島と夕張の後に那珂は続く。実のところ不安による緊張で足が震えていた。人前に立つ者として、わずかな不安をステージを見ている人に悟らせてはいけない。那珂はただひたすらそう堅く思いこむが思えば思うほど、心臓の鼓動が速く強く脈打つ。手に汗が滲み軽く目眩がし始めていた。
那珂の視線には夕張の背中が映っていた。よかった、前に人がいて。那珂は心底安堵する。
いつもの自分らしくないな。
そう反省した那珂は下腹部に力を込めて努めて平静を装って歩み、指定された丸いすに腰を下ろした。
着席をどうにかしとやかに済ませた那珂はチラリと夕張と霧島に視線を送る。すると気づいた二人が僅かな顔と眼球の動きで那珂を見、察したかのように微かに頷いた。相手のその目には緊張と戸惑いの色が残っているように見えた。つまるところ、今このときの心境は那珂と大差なかった。
椅子に座った那珂たちに熱い視線・声援・妄想を送る観客。それらを煽ってさらに盛り上げるべく司会者らは軽やかな口調で進行のため、本題を切り出した。
「今回ははるばる館山までお越しいただきありがとうございます。早速ですが自己紹介していただきましょう。担当名と出身鎮守府についてお聞かせいただけますか?」
そう言って司会者が最初に促したのは霧島だ。三人のうちもっとも年上で社会人の彼女は、喋るために開けた口でまずは小さく呼吸を整えた。
「コホン。私は深海棲艦対策局および艤装装着者管理署神奈川第一支局所属、戦艦霧島です。ええと本名言ったほうがよいのかしら?」
途中で司会者に問いかける。
「いえいえ。担当名だけで結構ですよ。」
霧島はその後、そうですかと頷き、自己紹介の続きをした。普段の担当業務と今回の担当について、いたって事務的な口調で淡々と説明した。終わると、司会者は彼女の事務的な説明に2~3の茶化しめいた質問をして霧島にさらにしゃべらせた。
最初から最後まで、事務的かつ多少苦笑いするだけで味気ない自己紹介となったが、会場の盛り上がりとしては上々だった。
そして夕張の番となった。霧島とは違い明らかに緊張で口がまわっておらず、やや混乱が見られる。
那珂自身も心臓バクバクしていたが、夕張の様はさすがに見過ごせない。中腰になるような高さの椅子で夕張は危なっかしく手をバタバタさせながら必死で喋ろうとしていたため、何かの拍子に椅子ごと転げ落ちそうなバランス状態だ。
那珂は自身に近い方の夕張の手にサッと腕を伸ばし、優しく手の甲を自身の手の平で包み込む。急に触れられた夕張は
「え!?」
とマイクがギリギリ拾わなそうな小声とともに振り向いた。那珂がニコリと笑うと、夕張はハッとした表情になる。
もう一人の司会者は夕張の様子が落ち着きを取り戻してようやく聞き取りやすい自己紹介を始めたのを見届けると、感謝の意を込めて那珂に視線を送った。
那珂は彼女のアイコンタクトに気づくと、お返しに微笑みを浮かべ心の中で挨拶をかわしあった。
「それでは次の方に参りましょう。」
司会者が促す。那珂はついに自分の番となることで緊張が限界突破しそうだった。先程の夕張の気持ちはわからないでもない。
唾を強めに飲み込んでから口を開いた。
「あたしは深海棲艦対策局千葉第二支局所属、軽巡洋艦那珂です。先のお二人とは違う鎮守府から来ていまして、今回一緒にお仕事させていただきました。この度はトークショーにお声がかかってびっくりしましたけど、最後まで頑張りたいと思います。よろしくお願い致しま~す!」
「はい。ということでかんたてフェスタのラストを飾るこのトークショー、こちらのお三方に色々お聞きして、お送りして参ります。」
再び巻き起こる拍手と嬌声。それに圧倒された三人はキョロキョロするわけでもなく、ただ司会者のほうになんとなく視線を留めておいた。
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次にショーの展開は艦娘についての説明に切り替わった。ステージの背景の暗幕に映像が映し出される。それ自体が目的ではないのか、その説明はサラリと終わった。
説明の最後に司会者が話を振り始めた。
「いくつかお聞きしたいのですが、よろしいですか?」
霧島は那珂たちに視線を向けて暗に意識合わせをした後、代表して返事をした。
「それではまずそちらの那珂さんにお聞きします。」
「は、はい!」
「那珂さんはこちらのお二方とは違う鎮守府から来られてるということですが?」
いきなりあたしかい!
と那珂は驚きつつのツッコミを心の中で行ったが、口から出た返答は落ち着いた口調である。
「はい。あたしはさきほども紹介させていただきましたけど、深海棲艦対策局千葉第二支局、通称千葉第二鎮守府の所属です。この度は神奈川第一鎮守府の皆さんのご提案で私達も参加させていただきました。」
「へぇ~。千葉第二?それはどこにあるんですか?」
「ええと、千葉県の検見川浜です。昔は海浜公園のヨットハーバーがあった場所に設立されています。」
「ほぉ~検見川浜。東京湾の随分端ってことですよね。そこから千葉の海を守ってくれていると。いや~素晴らしい。」
軽調子で那珂の受け答えにいかにも適当な相槌を打った司会者は勢いそのままに続けて質問をし始めた。
「それでは次に、皆さんには普段の艦娘のお仕事についてもうちょっと聞いていきたいと思います。それでは霧島さんからお願いします。」
そう司会者が促すと、霧島はコクリと頷き返事をしてから淡々と語り始めた。その次に夕張が慌ただしそうに説明する。あまりにも慌てすぎ・どもりすぎだったのか、霧島が助け舟を出してその語られた内容を補完して、司会者の二人を苦笑いさせる。
なお、観客には妙に夕張に歓声を張り上げる集団が発生していた。
「それでは最後に那珂さん。普段の艦娘としての生活について教えていただけますか? やっぱり鎮守府が違うと先のお二方とは何もかも異なるんでしょうね~」
ある意味定型で予想通りの質問だ。那珂はその返しがいのある質問にニコリと微笑みながら回答し始めた。
「そうですね~。あたしもこちらの夕張さんと同じく学生ですので、学校が終わったら高校のある○○から検見川浜まで行って艦娘の仕事をするって感じですね。」
「あ~そうですよね~学生さんなんですねぇ。学校以外の場所に行くなんて出勤と言う感覚でしょう?」
「アハハ・・・。あたしアルバイトしたことないのであまりたとえとか実感湧きませんけど。傍から見ると同じなんでしょうね~。」
那珂が苦笑とため息混じりに言うと、夕張はウンウンと小さく言葉を吐き出して同意を示す。
「ところで、聞くところによりますと、学生で艦娘になるには艦娘部が必要とのことですが、これは次の質問ということにして……夕張さんと那珂さんにお聞きしましょう。お二方もやはりその部活に?」
司会者が回答を二人に促す。那珂は隣をチラリと見た。夕張は相も変わらず緊張で硬化しっぱなしで、とても口火を切れそうな状態ではない。とはいえどうにか喋らせてあげないといけない。
質問の対象は学生艦娘たる自分たちなのだ。
「えぇはい。ね、夕張ちゃん。あなたの学校ではどうだったんだっけ?」
那珂は夕張に小声で囁き、トリガーを故意に引いて開口させる。夕張は那珂の落ち着きはなった柔らかめの問いかけにようやく我に返り、緊張を僅かに解いて声をひねり出す。
夕張がたどたどしく説明する様を聞く那珂。事前の打ち合わせと雑談のときに部分的に聞いてはいたが、改めて聞くと自分の状況とはやはり違うのだなと感心していた。
どもりつつの説明ではあったが事前に聞いていたこともあり、夕張の境遇を知ることが出来、那珂は新鮮な気持ちで夕張ないし他鎮守府の学生艦娘についての情報を頭に取り入れた。
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夕張の次は那珂の番だ。司会者から促されて那珂は口を開いた。
「あ、はーい。あたしの学校ではですね、実を言うと、あたしが初めての艦娘だったんですよ。」
「ほぅ~! では艦娘部を作られたのは……?」
「はい。あたしが設立したんです。」
「ええぇ!?それじゃあ大変だったでしょ?」
「はい。あたし最初は一般の艦娘として千葉第二鎮守府に在籍していたんです。けど、泊まりの任務や夜遅くまでかかる任務があって、これじゃあ学校生活に影響でちゃうな~疲れたな~って思って。それで提督やうちの高校に艦娘部作りたいって相談して。」
「おぉ~それは興味深いですね~。ご自身が一から環境を作るのって大変だったでしょ?」
「エヘヘ。そりゃーもう。あたし元々生徒会で会長やってて、そっちの仕事もあっててんてこ舞いで。ちょっと職権乱用ですけど、生徒会のみんなに艦娘部の準備を手伝ってもらっちゃいました。」
那珂の最後の言い回しはこの場の聴者に響いたのか、笑い声がそこかしこから聞こえてきた。司会者の二人もクスクスと笑っている。
「面白いですね~那珂さんのエピソード。ところでお二方の学校の艦娘部に部員はどのくらいいらっしゃるんですか?」
その質問に夕張が答え、次に那珂が答える。
「ほ~十人と三人では随分違いますね。やはりそのあたりは鎮守府の位置や所属してるもともとの艦娘数が影響してくるんでしょうか。その中で艦娘は何人なってるんですか?」
夕張がまず答える。十人のうち、なんとその半数が艦娘として合格しているとの事実に那珂は改めて感心する。
そして自身の番になったのでサクッと答える。
「そうですか。それぞれの学校にはそれぞれの面白エピソードがありそうですね。なるほど~艦娘のお三方には引き続き色々聞いてみたいと思います。それでは……」
そして司会者は次の質問をし始めた。それは事前に質問表に掲載されていた問いである。那珂たちはそれに多少色を付け身振り手振りを加えて答える。
今までテレビで見ていた素人参加型番組も、こんな感じなのかなと那珂はなんとなく想像を張り巡らせた。芸能人と違って行動の予測がつかない一般人をテレビやこういうイベントに参加させるには、なるほど用意した質問の回答をあらかじめ聞いたりして予想外を予想の範疇に収める準備が必要なのか。
那珂は今まで漠然としか捉えていなかったアイドル・テレビに出ることの裏側を垣間見た気がして、驚きと感動の連続だった。素人が参加するイベントや番組一つとっても、スタッフだけではない、参加者自体にも入念な準備が求められる。
自分は受け答えや声量がしっかりしてるから大丈夫だろうと、単純に捉えていたのが恥ずかしい。今この場では、アタフタしてどもりっぱなしの夕張と、自信アリげに受け答えする自分はテレビ関係者から見ればさほど変わらないのだろう。
とはいえ、どんな境遇にせよ自分は飾らず、ありのままで相手に反応を示すだけだ。
那珂は先程から矢継ぎ早に降り掛かってくる質問にハキハキと回答しながら、改めて思った。
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艦娘に対するごく簡単な質問がしばらく続いた後、ステージ脇の動きが若干慌ただしくなった。
「さて、艦娘のお三方の理解も多少深まったということで、それでは先日の観艦式のデモンストレーションのダイジェスト版を用意しましたので、会場の皆様にご覧いただきましょう。」
その直後、ステージ脇からスタッフが数人那珂に近づき、マイク機器を別の機器に切り替えるべく付け替えた。先程までより背景のスクリーンは映像のために大きく幅を取るため、那珂たち3人は司会者とは逆のステージ脇に椅子とともに移動して座り直す。
そこに流しだされた映像には、渚の駅の先の桟橋、会場の様子を始めとし、先導艦霧島の正面映像、続いて艦娘たちの整列からメインプログラムの一部始終、フリーパートの光景が多視点からのカットで繋げられていた。
那珂はその映像を見て昨日のことがありありと目前に浮かんできたような錯覚を覚えた。初めて参加する他の鎮守府との、公共の場で演じた様。
演じているときは気づかなかったが、フリーパート、オオトリたるデモ戦闘での自分の動き、結構やりすぎたか?
那珂がそう内心ヒヤヒヤしていると、那珂が大きくジャンプするシーンがスクリーンに映った。司会者や当事者の一人の霧島・夕張はもちろんのこと、観客も大きく歓声をあげた。
別の位置のドローンからの映像によると、那珂の横からのカットでジャンプしながらの機銃掃射の様子がよく見て取れる。那珂は自分では見られない位置からの自分の姿に、マヌケな声で他人事のように「おぉ~」と歓声をあげた。
若干テレビ向けに加工されている感が否めないが、視覚的にも展開的にも非常に分かりやすい映像だ。川内が見ていたら、きっと何かのアニメか特撮ドラマのタイトルを挙げていただろうなと想像した。
そして映像はクライマックスの、軽巡・駆逐艦全員による一斉砲撃が映し出された。
ドローンの集音では音割れするほどの爆音が連続し、もうもうと煙幕で艦娘たち、主に那珂が見えなくなる。それでもドローン達はその場を多角的に映している。
やがて煙が晴れ那珂の姿が見えた。ドローンの死角からだが、霧島の声が聞こえ、直後高らかに笛と掛け声が発せされた。戦闘終了の合図だ。
同時にダイジェスト映像も終わり、スクリーンが別の静止画に切り替わった。数秒して司会者の声が会場に再び響き始める。
「いや~こうして改めて見ると迫力ありますね~。今回は海上自衛隊のドローン3機、館山市のドローン1機、ケーブルテレビ局のドローン1機からの映像を織り交ぜてお送り致しました。さて、今回のデモンストレーションについて、いくつか質問をしていきたいと思います。」
司会者の話運びは、質問表からすでに察しがついていた。しかしこの場でその展開を示されるとやはり緊張を抑えきれない。
那珂はゴクリとつばを飲み込む。チラリと夕張たちを見ると、やはり緊張の面持ちだ。
事前に質問がわかっていようが、やはりこの手のイベント・テレビ的にはドがつくほどの素人なのだ。無理もない。達観する自分も実は平然を装うのが精一杯。学校の全校集会などとは次元が違う。
想定外の質問かあるいは普段自分がしてるような茶化しをされたら、自分も一気に慌てふためきそう。那珂は再び唾をゴクリと飲み込み、きたる質問に構える。
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「普通観艦式というのは、海上自衛隊や外国の海軍の実際の艦が行うイメージがありましたけど、こうして艦娘のみなさんもするんですね?」
「えぇ。我々艦娘の技術や能力を知ってもらうために、モチーフになった艦に倣って行っています。」
司会者の最初の質問には霧島が答えた。
「いや~負けず劣らず迫力ありましたね。と言いながら私ども海上自衛隊の観艦式とか見たことないのですけど。あの爆発や魚雷?も本物なんですか?」
霧島は軽い握りこぶしの先の指を口に当てなぜか失笑し、答えた。
「どういった意味で本物か否かおっしゃられてるのかちょっと判断しかねますが、現実のものかVRなどの仮想的なものなのかという意味でしたら本物です。」
司会者はその回答に言葉が続かない苦笑を漏らす。霧島はそれを全く気にせず続けた。
「自衛隊や各国の軍艦・軍隊が使うような対艦・対人こそが本物という意味でしたら、私達艦娘の砲撃や雷撃による爆発は偽物です。私達の砲雷撃は人間や艦相手ではなく、深海棲艦という化物相手に特化した特殊仕様のものですから。」
「そ、それでは人が誤って撃たれても問題は?」
「それは……用いる武装によりけりです。倒すのに本物の火力も必要になることがありますので、強力なものを使えば危険性は増します。それは間近で扱う私達艦娘が一番気をつけなければいけませんし。種類は違えど私達と同じ生き物を殺傷する武器なので、私達が怪我をする可能性は無視できるものではございません。」
霧島の非常に的確な説明に、会場の面々は感心している様子を空気として醸し出す。しかしクソ真面目な説明に会場の空気は温まらない。そもそも会場は真面目な質問を望む客と戦う女の子をアイドル的に間近で見たい客の半々だ。会場の熱気はまさに半々といったところである。
テレビなどの公共の場慣れしていない那珂はその空気になんとなく気づいたが、それを気にする間がなかった。
もうひとりの司会者が質問をしてきたのだ。
「す、すごいですね~私達一般人は想像が及ばない分野ですね~。と、ところで那珂さんでしたっけ。観艦式のフリーパートでは、一人でその他大勢の艦娘に立ち向かっていましたが、これはどういった意図といいますか意味があってやっていたのですか?」
那珂は自身のことを振られて我に返る。しかし焦りを見せて喋るチャンスとアピールするチャンスを逃すつもりは毛頭ない。軽やかに答え始めた。
「ええとですね、私が霧島さんたちに提案したんです。もともと艦娘の力を皆さんにお見せするという目的には演習試合が最適かな~と思っていたし、私自身、他の鎮守府の艦娘のことをもっと知りたいなって思いもあったんです。」
「でも……1対大勢って明らかに不利ですよね? 那珂さんの提案に無茶だなとは皆さん反応ありませんでしたか?」
「エヘヘ、はい。最初は……ね?」
那珂がその後の言葉を濁しながら隣とその先を見つめる。那珂の言葉の続きは霧島が引き継いだ。
「そうですね。最初はこの小娘ったらなんて無茶なこと言うんだろうって思いましたわ。よその艦娘だから私達も強く言えなかったので半信半疑でしたけど。実際に実力を見せられてこの娘の提案に乗ってみようという気になりました。」
「那珂さんってそんなにお強いんですか!? とてもそんなふうには見えませんけれど……。」
司会者の二人は揃って那珂に推し量りきれない視線を送り評価を口にする。那珂が苦笑しリアクションを取れないでいると、霧島がサラリと返した。
「艦娘は筋肉や背格好などの見た目ではありませんから。」
霧島の唯一ともとれるユーモアの感じられた一言に、会場はようやく安堵の息と笑いを漏らした。
「もしご迷惑じゃなければ触って確認させていただいてもよろしいですか?」
女性の方の司会者の提案に那珂たち三人は一瞬呆ける。霧島が視線で確認を求めてきたので那珂は戸惑いを込めた返事をした。
「えぇと。別にいいですけど、ホントにふつーの女子高生やOLさん?の腕ですよ。ね、霧島さん。」
霧島は那珂の同意を求めたセリフの末尾に特に言葉なく頷いて同意した。
「それでは失礼して。」「さすがに私が触るとセクハラになりますので○○さんにお任せします。」
もう一人の男性司会者の言葉に会場はドッと湧く。
女性司会者はしずしずと那珂らに近寄り、小声で再び「失礼します」と発して那珂たちの二の腕や肩、腰にそっと触れ始めた。
ずっと触るつもりはないのか、各所2~3秒以内に触り終え、女性司会者は戻っていった。
「えぇ~と、ありがとうございます。確かに普通の女性のからだつきでした。なんか変な質問してゴメンなさいね。」
「いえいえ。」
女性司会者が申し訳なさそうに謝ると、代表して霧島が若干苦笑いを浮かべて応対した。互いにそれほど特徴的でもない身体について触れ合いたくないのか、すぐに掛け合いは静かに治まる。
司会者の二人は小声で打ち合わせた後、次の質問を繰り出した。
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あまり順調ともいえないが無難な雰囲気で質問と回答の応酬がこなされていった。回答による口の渇きをようやく感じ始めた那珂がふと我に返ると、トークショーは終わり間近だった。
「え~、そろそろトークショーも締めの時間となってしまいました。もっと艦娘の皆さんはいらっしゃるので本来であればお招きしてもうちょっと艦娘の皆さんにお話聞きたいところですが、会場や関係各所の都合もあって、こちらの三名に代表して参加していただき、貴重なお話をしていただきました。皆様、盛大な拍手を~!」
司会者の音頭とともに会場の観客席からは轟音ともとれる拍手が響き渡った。那珂たちはそれを気恥ずかしさで顔を赤くして何度もお辞儀をしたり手を振ったりして様々に反応した。
那珂がやっとこの緊張のショーが終わる安心感で会場を何度か見渡していると、建物に近い観客席の端に、明らかに見知った顔を発見してしまった。その顔らは那珂と視線が合ったことに気づいたのか、鳴り止まない拍手と声援の中に明らかに異質な声を混ぜてきた。
「うおぉああああ!なかさ~~~~ん!いいぞ~~~!きゃ~!」
「那珂さぁ~~~~ん!ばんざーーいっぽおぉぉぉい!」
「……なかさーん!」
一番声を張り上げていたのは、頼れるが一番厄介な後輩、その後輩にベタベタに慕う駆逐艦、そしてなぜか一番関わり・触れ合いがないと思っていたクールな駆逐艦だった。
他のメンツの声は那珂には届かない。声自体は出しているのだろうが、きっとかき消されているのだろうなと察した。
ちっくしょうそういうことかあいつらめ~。ずっと見てたのね。
安堵の笑顔から苦笑に表情を変えた那珂は観客席に送る視線と手の振りを集中的に件の方向に向け、一言感謝の言葉を述べた。
それは他の人間から見れば、単に観客の歓声に答えたようにしか見えない行動だった。