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同調率99%の少女(27) :ex 1:ヒロインインタビュー

ex 1:ヒロインインタビュー

 演習試合が終わり懇親会が始まった。ネットテレビ局の段取りによって懇親会の最中に行われたのは、ヒーローインタビューばりの参加艦娘達への取材だ。

 ネットテレビ局の取材クルーの一人の司会により進行が進んでいく。とはいえ別に会場のど真ん中に移動させられてというわけではなく、カメラと司会役のスタッフとADが本人のところにその都度移動した。
 順番は脱落順だ。川内は那珂や神通と揃ってインタビューしてもらえると勝手に思い込み鼻息荒くして待っていた。夕立の次にマイクを向けられたことに何の疑問も抱かずに臨んだ川内に待っていたのは、自分の盛大で豪快な突撃とあっけない脱落に対する解説の要求と今後への意気込みだけだった。

 熱血な質問を期待していたわけではないが、自身の醜態たる最期について根掘り葉掘り聞かれた川内はインタビューが終わるや否や眉をひそめて歯ぎしりをして明らかに不愉快満点の表情で一緒にいた暁らや提督らを苦笑させた。

 その後前半戦最後に脱落した神奈川第一鎮守府の龍田達へのインタビューが少々長く続き、続いて後半戦で脱落した順にカメラとマイクが向けられていった。

 神通はカメラとマイクが向けられた瞬間に和子や友人達の影に隠れてしまったことで、テレビ的にも本人的にも友人的にもかなりみっともない態度を晒してしまう。
「もー、さっちゃん!艦娘になって最近はしっかり振る舞えるようになったのになんで隠れちゃうんですか?ホラ、テレビにそのまま映っちゃいますよ?恥ずかしいですよ?」
 和子のお叱りの言葉に友人らもウンウンと頷き神通をフォローする。しかし言葉と行動が合っていない。神通の腕を引っ張ってカメラ前に出そうとしているのだ。
「神先さん、ホラ。あたしたちも間近でし~っかり見ててあげるから大丈夫だよ。」
「あ、うー……○○さん、和子ちゃん、やめてぇ……!」
 友人達にある意味売られた神通は顔を思いっきりうつむかせつつ気を取り直してどうにかインタビューに応対し始めた。
 インタビューの内容は、仮にも旗艦として後半戦を最後の方まで五月雨ら駆逐艦を牽引して戦い抜いたその実績に対する印象のためか、戦い方や仲間との交流に関する質問が多かった。神通はそれに対し自分の得意分野と感じたのか妙な安心感を覚えたのか、心落ち着けて回答していくことができた。
 結果として、神通のインタビューは川内が当初望んでいたような充実した内容になった。……ということを川内はまったく知る由もなかった。


 最後の三人、つまり那珂の順番が回ってきた。自校の同級生・下級生らに囲まれて談笑していた途中で司会のスタッフからマイクを向けられた。
「それではお次は那珂さんにお話を伺いたいと思います。え~~、那珂さんは神奈川第一鎮守府の旗艦の鳥海さんと死闘を繰り広げ、惜しくも負けてしまいましたが今の心境をお聞かせいただけますか?」
 司会の言い回しに苦笑したが、その質問を受けて那珂は首を傾げて“んー”とぶりっ子声で小さく唸った後2~3秒して答えた。
「死闘って……。そんな漫画やアニメの世界じゃないんですから~。ん~~~? 負けは負けで悔しいですね~。もっとカッコ可愛く勝ちたかったです。」
「でもいい線いってたじゃないですか? まずは前半戦ですが、相手の旗艦の軽巡洋艦天龍さんと何度か一対一で戦うことがあったようですが、彼女との戦いはいかがでしたか?」
「え~っと。これ正直に言っちゃっていいですか?」
 那珂の妙な確認にテレビ局スタッフ達は一瞬目を点に仕掛けたが、すぐに微笑して言った。
「えぇえぇ、かまいませんよ。艦娘の皆様の素の感想をお聞きできることが何よりです。」
「それじゃ~。天龍ちゃんは実力的にはきっとあたしよりほんの少し下ですかね~。」
「ほぉ~。試合のVTRを見たところ、ちょっと苦戦していたシーンもあったように見えましたが?」
「それはなんていうんですかね~。演出ですよ演出。天龍ちゃんってばあたしと一対一で戦いたがってたけど、あたしは前衛のみんなをうまく戦場に誘導したかったので、正直天龍ちゃんと戦い続ける気はなかったんですよねぇ。」
「ハハッ。なかなか辛口ですね。」
「でもまぁ、実力は拮抗していたと思いますし、思っていた行動はさせてもらえなかったな~というのが彼女との戦いで思った正直なところです。」
「なるほど。彼女は剣も使っていましたし、装備的な面も影響はあったのでしょうか?」
「あ~、それはありますあります!天龍ちゃんと龍田ちゃんって、接近専用の武器持ってるんですよね~。あれずるいですよね~!だからあたしはカタパルトで応戦しましたけど!」
「そういう機転の効き方は素晴らしかったですよ。」
「エヘヘ、ありがとうございます~。」

 いくつかの質問に対する回答の後、後半の鳥海との最終決戦の話題に移った。
「鳥海さんの強さはいかがでしたか?」
「はい。あの人はほんっとに強かったです。担当の艦種が違うっていうのももちろんあるんですけど、純粋に立ち回りが油断できなくて強いと感じましたね。」
「おぉ~那珂さんにそこまで強く語らせるとは~。これはこの後のインタビューが楽しみですね。」
「そりゃ~もうあれこれ鳥海さんから聞き出してください。お願いしますね?」

 那珂の若干わざとらしい演技気味の回答と説明に、司会のスタッフ達は感嘆の息と声を漏らしてテレビ撮影を演出する。そして続けざまにいくつか質問が続き、那珂はそれに答えていった。

 そうして那珂の番が終わり、スタッフ達は鳥海のいる席へと向かっていった。那珂はしばらく鳥海の様子を見ていた。しかし鳥海の席とはテーブルを囲む島がそもそも異なるためボソボソとしか耳に入ってこない。あまり見続けていても意味はないと判断し、那珂は周りの同級生下級生たちとの歓談に意識を戻した。


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 またしばらくしてからスタッフたちの姿が自然に司会に飛び込んできた。彼らが向かったのは最後まで戦場たる海面に立っていた五月雨の席だ。個人戦として見るならば唯一の勝者たるこの少女に注目しない理由がない。テレビ局スタッフたちの五月雨への応対の様は今までの艦娘達とは異なるものだった。ただ等の五月雨が普段の数倍以上よろしくない。
 同級生や時雨らに囲まれつつインタビューを受けている彼女のその様子は、慌てふためかないタイミングなど一切ないというくらいアガりまくった状態だからだ。見かねた別のスタッフが提督を呼び寄せたことで五月雨の慌てっぷりは穏やかものになる。そこでようやくまともなインタビューが展開され始めた。提督と五月雨、鎮守府の顔たる二人がインタビューに立ったことでテレビ局の思惑通りに進んだのか、大分長い時間が費やされた。

 那珂はもはや途中で気にするのを止めていたため気づかなかったが、別のタイミングでふと思い出して見ると、すでにインタビューは終わり、五月雨は時雨らとともに会話に戻り、提督もまた神奈川第一の鹿島の元へと戻っていた。

 那珂はふと思った。あのまま五月雨がテレビ局スタッフへの露出が増えた暁には、もしかしてアイドルデビューも可能性としてあり得るのか!?と。

 アカン、愛しの五月雨ちゃんに先を越されてしまう!
 アイドルになるのはこのあたしを置いて他にはない!

 ただそうなったらなったで色々楽しそうなので、艦隊のアイドル五月雨を応援、後援、支援、プロデュース、マネージメントする心構えくらいはある。マネージャーとして五月雨に付く傍であわよくば……。
 学友との会話を進める脳の極一部で、那珂はそんな妄想を膨らませていた。


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 親睦会がお開きになった直後。那珂はテレビ局スタッフから、最後に相手の鎮守府のメンツや視聴者に対する面目を立てることをしてくれとお願いされた。親睦会もお開きになり終幕間際でそんなこと言われても困ってしまう。それにテレビ局が作成したいのはドキュメンタリーと聞いている。それなのにテレビ的な見どころとクライマックスが求められているというのは、矛盾をはらんでいるのではないか?

 さすがに拒否したり文句を言える立場ではないことを理解していたため、那珂は苦笑をしつつ曖昧な態度を取りつつ、承諾の度合いを強めて会話を終えた。
 きっと大抵のテレビ番組はこういうことなのだろうと、那珂は察することができた。
 仮にも話を受けてしまった以上は提督と五月雨・妙高に相談せなばならない。那珂は片付けを周りに一旦任せて、提督らに近づいて話した。歩いている間にふと思いついたアイデアを引っさげて。
 そうして提案したのは、神奈川第一鎮守府の艦娘達の艤装の運び出し・積み込みを手伝うということだった。

「……ということなの。」
「そうか。テレビ的にドキュメンタリーといえどなにか演出が求められてるんだな。」
「そう思うでしょ~?な~んか現実を知ってちょっとなぁ~って思ったよぉ。」
「アハハ……でもテレビに協力できるってなんか私、ワクワクしちゃいます!」
 提督と意見が合い愚痴に拍車がかかりそうになったが、五月雨の純朴な喜びようにあてられて那珂は瞬時に現実に戻ってきた。

「それで考えたんだけど、神奈川第一のみんなの艤装をあたしたちで運んであげるっていうのはどうかなって思ったの。」
「運び出す!?」
「えぇ~! そんなこと私達できますかねぇ~~?」
 提督の仰天に続いて五月雨が遠慮がちに否定の念を交える。二人と対照的なのは妙高だ。
「それはいいですね。神奈川第一の皆さんの純粋な助けにもなりますし、今日来てくださってるみなさんのご学友・同僚の方々へのアピールにもなります。コアユニットだけ装備して同調すればいいのですよね?」
「えぇそうです!」妙高のドンピシャな返しに満面の笑みで頷く那珂。
「うーむ。みんながそれでいいなら俺は構わないよ。ただ明石さんや○○さんら技師のみんなにも了解を得ないと。」
「それなら早速。ねぇ~~~明石さぁ~ん!」
 那珂はその場で声を張って明石に呼びかけた。自社や神奈川第一の技師とまだ談笑していた明石は気づいて駆け寄ってきた。

「はいはいなんですか?」
「実は……ということなんですが、いかがですか?やってもいいですか?」
 那珂の提案を聞いた明石は数秒うつむいて考え込んでいたが断って那珂たちから離れて先程までいた席に戻った。そこには神奈川第一の技師たちがいる。身振りを交えて何かを話していた明石は相手から指でサインをもらい、それをそのまま那珂たちに返した。そして那珂たちに再び近寄って口を開いた。
「先方からも承諾いただいたので別にいいですよー。ただ一応精密機械なんで、私達の注意に従って運んでくださいね。」
「やった!それじゃあみんなに伝えるね!」

 明石からもOKサインをもらった那珂はこの提案を伝えるべく鎮守府Aのメンツを集めた。
 那珂が説明すると、五十鈴はもちろんのこと神通そして不知火、時雨らも快く承諾の意を示した。川内と夕立は初めて開く口では面倒くさがったが、那珂が鼓舞しながら説得すると態度を改めて承諾した。
 全員からOKを受け取った那珂は提督と明石に目配せをする。ハンドサインをした提督は帰り支度を始めた神奈川第一鎮守府の鹿島に向かってそのことを伝えた。


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