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同調率99%の少女(26) :ハーフタイム

# 5 ハーフタイム

 試合に参加している艦娘全員のステータス監視をしていた明石は、手に持っていたタブレットに、4人連続で状態変化の通知が届いた。いずれも神奈川第一鎮守府の艦娘たちだ。
 アナウンス役として贔屓してはいけないが、自分のところの鎮守府の艦娘たちがやってくれたことに明石は心の中でニンマリと笑顔を浮かべて喜んだ。しかし口に出す雰囲気は至って冷静。

「神奈川第一、軽巡洋艦龍田、駆逐艦暁、駆逐艦雷、駆逐艦電轟沈!」
 明石はそう叫ぶと提督に目配せをした。提督は明石に近づき2~3言葉を交わす。
 そしてそれから1分ほど経った後、提督は明石に続いて宣言した。
「ちょうど時間となりましたので前半戦終了致します! 行動中の皆は今すぐ停止。堤防の手前まで戻ってきてください。」

 提督が言い終わると、数秒して堤防から大歓声が鳴り響いた。
「うわーー!すっげぇーー!!」
「艦娘が戦うの初めて見たけどすっごいなぁ~~~!!」

「すごいすごい! なみえちゃんかっこいいー!」

「神奈川第一の艦娘の人たちもやるなぁ~。」
「そうそう。特にあっちの後ろの方にいた人の砲撃なんかここから見てても迫力あって凄まじかったし。」

「艦娘って学生さん達が多いのよね?若いのによくやるわねぇ~。」
「でもあちらの神奈川第一鎮守府の艦娘にはうちらと近い歳の人もいるみたいですよ。」
「どのみち俺ら会社員にはあの子たちのように艦娘になるなんて無理っしょ。」
「……まぁ、○○くんは男だしね。」
「いや、まぁ、その……俺が言いたかったのはさ……。」

 様々な感想の言葉が発せられる観客席たる堤防沿い。艦娘の戦いを間近で見られて興奮して色めき立つ場所目指して那珂達は移動し始めた。


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 雷撃による大量の水柱と大波が収まった視線の先の海を那珂と五月雨、そして五十鈴と不知火は針路を時計回りに回りながら注視していた。その時、明石による判定の言葉を聞いた。そこで初めて安堵の息を吐き力を抜く。
 那珂は五月雨に減速を指示し、やがて停止した。
「那珂さん?」
「もう大丈夫。あとは終了を待とっか。」
「それじゃあ……!」
 那珂の言葉を受けて五月雨は時計を見る。すると、前半終了まで後1分というところであった。

 しばらく待つと、堤防から提督の声が聞こえ指示が発せられた。
「それじゃ戻りましょ、那珂さん!」
「うん。……とその前にぃ~。」

 五月雨の誘いに答えつつ、那珂が向かった先はつい先程自分達が雷撃の的にした龍田達の方向であった。五月雨は最初離れていく那珂に首を傾げたが、その様子を見ていてハッとした。反対側で見ていた五十鈴と不知火も同じ様を示した。

 那珂は停止し、目の前でスネから下だけ浮かべて必死にもがいて起き上がろうとしている少女に手を差し伸べた。
「だいじょーぶ? はい、あたしの手掴んでいいよ。」
「……あ。那珂さん……?」
「うん。龍田ちゃん、お久しぶり。」
 ザパァ……と海水が龍田の身体から流れ滴り落ちる。龍田は那珂の手を掴んでようやく上半身を起き上がらせ、海面に立つことができた。
「お、お久しぶり……です。従姉の天龍ちゃんが、お世話になってます。」
「アハハ。こちらこそ。彼女は良いライバルかもだしね! 天龍ちゃんもナイスファイトだけど、龍田ちゃんもナイスファイト! あたしを撒くなんてなかなかの冷静な判断っぷりでよかったよ~。」
 那珂がそう励ますと、龍田は視線を落とし顔を隠した。那珂は龍田が次に発する言葉を待つ。やがて龍田は重い口を開けて言葉をひねり出した。
「私は……大したことできてません。天龍ちゃんがいなければ……。せめて暁たちに危険が及ばないように先頭に立って動くことしかできませんでした。」
「それが一番大事だと思うなぁ。あたしは川内ちゃんと夕立ちゃんを結局守ることすらできなかったし。」
「だったら私は長良を守れなかったわ。」
 突然会話に割り込んできたのは五十鈴だった。そばには暁たちがいる。五十鈴・不知火・五月雨もまた那珂と同じように敵であった暁達神奈川第一の駆逐艦達の起き上がりを助けていた。それを終えた後の五十鈴の言葉だったのだ。

「うちは、結果として変に奇をてらいすぎていたわ。個々の行動に自由な立ち居振る舞いを許してしまっていた。だから、川内も夕立も長良も途中でやられた。私達は彼女らを守る行動を取れなかった。あなた達のように本物の軍艦の艦隊行動さながらの行動をしていたら、守れたかもしれないし、もっと充実した展開を迎えられたかもしれない。そう考えると……そうでしょ、那珂。」
「……うん。そーだね。だから、龍田ちゃんたちの動きはためになったし、とても厄介だった。そして羨ましいと思ったなぁ。」
「……羨ましい?」
 那珂は龍田の聞き返しに、相槌をゆっくり打った。
「うん。理由は今五十鈴ちゃんが言ってくれたとおりかな。試合には勝ったけどなんとやらは……って感じ?」
 那珂の言葉に釈然としない表情を浮かべる龍田。そんな彼女の周りに暁たちが移動してきたので那珂は離れて自分達の艦娘同士でまとまることにした。
「反省はまだまだしたいけど、試合もまだあと後半戦があるからこのくらいにして戻ろっか。ホラ、鳥海さんたちも戻ってきたし、うちも妙高さんたちが先に戻り始めてるし。」
 那珂がその場の全員にそう言葉を投げかけると、全員頷いた。


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 やがて堤防の手前の海岸線に参加した艦娘全員が揃った。鎮守府Aのメンツと神奈川第一のメンツ、それぞれ固まり、視線は堤防の上つまり観客の間に移動していた提督らに向く。

「みんなご苦労様。前半戦よく戦ってくれた。前半戦は千葉第二鎮守府の判定勝利。優勢だ。時間は短いけれど、後半戦に向けて休んでくれ。」
 そう提督が口にすると、観客たちも奮闘した艦娘達に口々に温かい言葉を投げかけた。

「会長ー!かっこよかったっすよー!」
「なみえちゃ~ん!すっごいすっごい!」
「ながるーん! よく頑張ったよ~! やっぱながるんかっけぇわ~!」
「さっちゃ~ん! お疲れ様です!」
「神先さーん! 後半も頑張ってね~!」

「さっつーん!よく頑張ったね~お疲れ様ー!」
「時雨~!あんた遠くて見えなかったよぉ~!」
「夕音ちゃん!お疲れ様! ホラ、もう泣かないでよ~!」
「ますみちゃん……って、今は村雨ちゃんって呼んだほうがいいの~? 村雨ちゃ~んファイトー後半目立って~!」

 那珂たちの高校から来た生徒の他、五月雨たちの中学校から来ていると思われる少年少女達も口々に労いの言葉をかけている。
 提督と同じ会社から来た者達、そしてテレビ局の社員達は、観客と艦娘たる少女達の様子を黙って温かい目でただ見守るのみだ。

「は~いみなさーん!早く工廠に戻ってくださいね~。あっちで補給しつつ休んでくださーい。」
 明石に続いて神奈川第一の鹿島も案内のための声掛けをした。
「みなさ~ん。私達も場所をお借りしてるので、一緒に戻ってください!」

 艦娘達はタイミングはマチマチだが全員頷き、観客達からの声援の返しはほどほどに、ゆっくりと速力を挙げて川に入りそして工廠の前の湾へと入っていった。


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 出撃用水路から上陸した艦娘達は、艤装を一旦預け、燃料やエネルギーなどを補給している間、工廠入り口に鎮守府別に集まってそれぞれ話し合っていた。鎮守府Aには提督と明石が、神奈川第一には鹿島が付いてだ。

「みんなご苦労様。特に那珂、五十鈴。よくみんなを引っ張ってくれた。最後の雷撃でフィニッシュは見事だったよ。」
「エヘヘ。それほどでも~。」
「ありがとうございます。けれど、私達の行動や作戦はまだまだ甘いと思ったわ。」
 素直に喜ぶ那珂とは対照的に、反省のため表情に影を落とす五十鈴。同じく影を落としたのは川内だった。
「あたしも……ダメでした。轟沈なんてくっそ情けない!」
「あたしもあたしも~。」
 川内に同意する夕立は、言葉は普段どおりだが勢いがない。
「あたしも~。やっぱいきなりあんな激しい戦いは無理だね~。」長良も反省を口にする。

「いや、三人は仕方ないさ。長良はまだ基本訓練中の身だし、川内と夕立は戦艦の砲撃を思い切り食らってしまったんだからね。川内はそれでも敵にくってかかろうとしたんだから、良かったと思うぞ。」
「うーん……そう言ってくれるのは嬉しいんだけど、あたし的にはやっぱりなぁ……。」
「あたしも試合に出させてもらえたんだったらもっといい活躍したかったな~~。」

 川内と長良が言葉を濁すのと同時にそれぞれが反省や愚痴を言い始めた。そんなざわつくている少女たちを静粛にするため妙高が一声発した。
「後半戦、いかがいたしましょう?」

 一気に静まり返る一同。その静けさを破ったのはなんと神通だった。
「川内さんの代わり、私にやらせてもらえないでしょうか?」
「「神通!?」」「神通ちゃん!?」「「神通さん!?」」
 普段大人しい人物の意外な積極的発言に誰もが目を見張って驚いた。
 全員の視線が集中するが、神通は恥ずかしさを飲み込んで続けた。
「川内さんの敵討ち、です。」
「敵討ちって……普段のあんたに絶対似合わない言葉だなぁ……でも嬉しい。あたしの代わり、神通に任せたいよ。ねぇ那珂さん、五十鈴さん、妙高さん。いいでしょ? あたしからもお願いしたい。神通を後半戦の前衛艦隊の旗艦にして!」
 懇願された那珂始め三人は顔を見合わせる。
 那珂は神通に一歩二歩と近づき、視線を合わせて言った。
「ほんっと~~にやれる?自信ある?」
「……あ、あります。……多分。いえ、私、やりたいんです!」
 那珂の強い問いただしに若干勢いをなくす神通。そこに那珂は畳み掛けた。
「ハッキリ言って残った敵は強いよ。今のあたし達がまだ知らない艦種の艦娘が3人もいるんだもん。それにあの独立旗艦の鳥海さん、あの人は天龍ちゃんも忠告してくれたけど、かなり強いってさ。そーでしょ、川内ちゃん?」
「は、はい。あの人の一撃はすっごく強烈でした。それにまったく気配を感じなかった。頭に血が上ってたとはいえさすがのあたしでも、海上を動く艦娘の存在に気づけないはずないですもん。それなのに間近に迫っていたことすらわからなかった。いきなり横に現れて弾き飛ばされました。アニメやゲームのキャラなら瞬間移動とか超スピードを持つ強キャラかよって思いますけど、現実にはそんなことありえないわけで。」
 経験者は語るとはまさにこのことと示さんばかりの川内の言葉に神通はゴクリと唾を飲み込んだ。神通の決心がさらに揺らぐ。

 川内の敵討ち、それしか考えていなかった。敵の残った勢力がスッポリ抜け落ちていた。しかし皆の前で強く決意した手前、やっぱやめます、誰か手伝ってくださいとは非常に言いづらい。めちゃ言いづらい。そんな神通の思いが彼女に頭を垂れさせる。誰の視線からも神通の顔色が見えなくなる。
 しばらく続いた沈黙を破ったのは那珂だった。

「編成枠一人空いてるでしょ。夕立ちゃんの分。そこにあたしも加わろっか。神通ちゃんにあそこまで強く言わせてしまったらさ、先輩として黙ってたらちょっと情けないかなぁ~って思うの。ねぇ川内ちゃん、神通ちゃん。あたし、加わったら……ダメ?」
 やや前傾姿勢に、上目遣いになるようにして那珂は懇願した。その様子には普段通りの茶化しが見え隠れする。しかし、川内にしてみれば神通一人に任せることの不安、神通にしてみれば心強い先輩が加わることで決心の揺らぎをごまかせることが解消できるため、願ってもない提案だった。
「あたしはかまわないですよ。あとは神通がどう思うかだけど。どう、神通?」
 思い切り承諾するのもわざとらしいと思った川内は自分の意志はどうであれ言い出した本人に任せるよう言葉運びをした。同僚の確認を受けて神通は配慮に気づいてゆっくりと頷き答えた。
「……そう、ですね。万全に近い状態にしておきたいですし。那珂さん、一緒に戦ってもらえますか?」
「うん!任せて! 今度は神通ちゃんと絶対助けてみせるから。あ、もちろん五月雨ちゃんたちもだよ~~。」

 笑いを取ることは忘れない那珂だった。

 それぞれの思う筋運びになったことで、最後の作戦会議は続く。

<二次編成> 前→後ろ
本隊(旗艦:神通)
神通
  不知火
    時雨
      村雨
        五月雨
          那珂

支援艦隊(旗艦:妙高)
五十鈴
妙高
名取

 もはや支援艦隊は手薄も手薄、脆い状態になっていた。しかし神奈川第一にはすでに支援艦隊に割ける人材がいないので、その点を加味すると神通たちにとっては三人でも心強い存在だった。
 妙高による遠距離砲撃、五十鈴と名取は雷撃で支援する。万が一の対空は不慣れな名取それから妙高には砲撃に集中してもらうために二人をかばうため五十鈴がすることになった。
「みや……名取。魚雷の撃ち方は教えたとおり、できるわね?」
「う、うん。落ち着いていられたら、多分大丈夫。」
「タイミングは私が指示するから、あなたは狙うことだけに集中なさい。いいわね。」
「わかった。私頑張る……!」

 本隊たる前衛艦隊は神通を先頭にして梯形陣となった。神奈川第一の龍田たちの艦隊行動を参考にし、なるべく流れるように砲撃や雷撃をするためだ。流れるように動く必要があるため一度狙われれば脆いが、攻撃の初動と狙いがあえば砲撃・雷撃の威力が何倍にも高まり、敵の回避を妨げることができる。まさに決戦仕様の陣形。那珂が全員にそれを提案し、旗艦神通が承認してその陣形が採用された。


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 万全とはいえないが後半戦に向けての準備は整った。那珂たちは奮起して掛け声をあげようとする。音頭を取ろうとしたその時、時雨が手のひらで那珂の背後を指し示した。
「あの……那珂さん。後ろに神奈川第一の方が……。」
「えっ?」

 那珂は振り上げた手をおろして後ろを向く。するとそこには神奈川第一鎮守府の独立旗艦、鳥海が静かな笑顔で立っていた。
「あ……鳥海さん。どうかされたんですか?」
「いえ。前半戦の判定勝利のお祝いにと思いまして。はっきり言ってあなた達を甘く見ていました。素晴らしい奮闘っぷりでした。判定勝利おめでとうございます。」
「いえいえ。こちらこそそちらの動き方とか大変勉強になっています。この勢いで後半戦も勝っちゃいますよ~~?」
「ふふっ。それはどうでしょうね。お互い全力を出し切って良い後半戦にしたいですね。」
「はい!」

 和やかな会話が進む。話してみれば意外と話しやすい。とっつきやすそう。那珂はそう感じた。今回そしてこれからこの人と接する機会がどれだけあるのかわからない。しかしこの優しげだが一片が見えた底の見えない強さと、そうだと感じさせるオーラは絶対只者ではない証拠だ。
 那珂は、この今の声掛けがただの挨拶と賞賛ではないと踏む。

「ところで、うちの天龍と一騎打ちを約束していたとか。」
 突然話題が変わった。那珂は一瞬身構えるが平然を装って会話に乗ってみた。
「え、あ。はい。なんというか……天龍ちゃんがどうしてもって誘ってきて~。」
「そうですか。天龍が我儘を押し付けてご迷惑をおかけしました。あなたももっとやりたい別の作戦もあったでしょうに。」
「いえいえ、お気になさらずに! なんだかんだで天龍ちゃんと真っ向勝負できて満足しましたし。」

 那珂がケラケラと笑いを交えながら応えると、鳥海も釣られて笑みをこぼす。
「ふふっ。そうですか。よかった……安心しました。それでは我儘ついでに私のお願い聞いていただけますか?」
「へ?」
 その後に続いた言葉は那珂の想像を超えるものだった。
「私とも、一騎打ちをしてください。」


 五十鈴達は那珂のように笑みをこぼすことなくほぼ無表情だったが、那珂もまた笑みが次第に消えた。言葉の意味がすぐに理解できなかったためだ。
「えーと、それは……どーしてですか?」
「那珂さん、あなたと一対一の勝負をしたいのです。あなたに、非常に興味が湧きました。」
 真正面からそう言われて那珂は戸惑う。それは口の重みにも表れた。
「し、勝負って……別にあたし、そういうの趣味じゃないんですけど。たまたま天龍ちゃんだったから乗ってもいいかなって思っただけで。」

「そこをなんとか。」
 食い下がる鳥海に対して沈黙で応える那珂。鳥海は2秒ほど黙った後、再び那珂に提案の言葉を投げかけた。

「それではこうしましょう。一騎打ちして、あなたが勝ったらその時点で演習試合、千葉第二の勝利としましょう。うちに戦闘継続可能な艦娘が残っていても負けとします。」
「……それって。それじゃああたしが負けたら、うちらも同じように負けですか?」
「いえ。あなたが負けてもそれは那珂さんの轟沈のみで、そちらは引き続き戦闘を継続してもらって結構です。」
「へぇ~~。随分、自信おありなんですね~?」
 那珂は鳥海の言い方にカチンと来て、厭味ったらしさを30%ほど混ぜて言い返した。それに鳥海はリアクションせずに答える。
「えぇ。」
 まったく変わらぬにこやかな表情。那珂は内心困惑した。いきなり一騎打ちをと言われても唐突過ぎて理解が追いつかない。そもそもほぼ初対面で交流がない。受ける理由がないのだ。
 こと今回に関しては、集団戦を最後までこなしたい。集団の中の個だったらまだよいが、個だけではいけない。自分だけ経験値を積んでレベルアップしても仕方ないのだ。全員で挑んで、(多少の差はあれど)全員で経験値を得てレベルアップせねば。
 那珂の答えは決まっていた。一旦後ろを向く。すると五十鈴始め川内、駆逐艦たち、そして妙高や提督ら大人勢全員の視線が一点に集まっている。
 それぞれの目は、那珂の答えを待っていた。那珂は少しだけ口の両端を上げてその意をほのめかし、そして鳥海の方を向いて返した。

「せっかくのお誘いですけれどお断りします。あたしたちは全員で力を出し合って全員で挑みます。その結果負けちゃったなら、それはそれであたしたちの経験値なのでおっけぃですし。」

 那珂の返事に鳥海は表情を一切変えず笑顔(眼鏡の奥に光るものは別として)のまま無言で見つめる。そして小さいため息と共に諦観して言った。
「そうですか。最後にと思って思い切ってみたのですが、振られてしまいましたね。わかりました。それではこちらも全員で挑み、あなた達を倒してみせます。そして願わくば、那珂さんあなたと一対一で砲を交えられることを期待しています。」

 終始無表情にも感じられる笑顔を崩さぬまま、鳥海は神奈川第一の集団に戻っていった。
 それにしても何が“最後”なのだろうか? 何気なく漏らしたと思われるその単語になんとなく引っかかるものがある那珂であった。


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 後半戦が始まるまでの休憩時間、テレビ局のカメラはずっと向いていてその視線?を感じていたものの、那珂達は見学者たる同学校のクラスメートたちとおしゃべりに興じるなどして気にせずこの後のために英気を養った。那珂の高校としてはメディア部がインタビューをしてきたので応対するのも忘れない。

 すでに神奈川第一の艦娘達は外に出て行っていない。出撃用水路の前には、前半戦を生き残った那珂、神通、五十鈴、時雨、村雨、五月雨、不知火、妙高そして名取がいる。
 彼女たちの向かいには惜しくも轟沈判定してしまった川内、夕立、長良、そしてずっと見守ってくれていたクラスメート達が立っていた。

「那珂さん、神通。あたしの分まで頼みましたよ。絶対勝ってよ!」
「時雨~ますみん~さみ~!それからぬいぬい~! あたしのカタキ?お願いだよ~!」
「アハハ!りんちゃぁ~ん、みゃ~ちゃん。良いお手本期待してるよー!」

「会長、頑張ってください!」
「俺たちの会長~~!」「「わーー!!」」
「なみえちゃん、ガンバ!」

「さっちゃん、頑張ってくださいね。」と和子。
「神先さんのかっこいいところ見たいよ。頑張ってね!」

 五月雨らには同中学校のクラスメートたちが同じように声援をかけて送り出そうとしている。不知火に対してもまた、クラスメートが熱い声援を投げかけたり肩をポンポンと叩いて冗談めかした応援をしている。

「うん。行ってくるねみんな!あたしの活躍期待しとけよ~~!」と那珂。
「はいはい、お手本になってあげるからこの後の訓練期待しててよね。」
「あ……うん、和子ちゃん、○○さん。なんとか、生き残って勝ってみせる、から。」
五十鈴そして神通が那珂に続く。そして時雨たちも目の前からの声援に応える。

「ゆう、○○さん、××さん、みんな。行ってきます。」
「あんまり自信ないけど、生き残ってみせるわぁ~!」
「私、頑張っちゃいますから! みんな、私のやる気見ててね!」
「(コクリ)」

 全員が一通り決意と応援の応酬を終えた。那珂は全員を見渡し、別作業のため今この場にいない人物の代わりにいつも慣れきった言葉を発した。
「それじゃあ行ってきます。皆、暁の水平線に勝利を。」
「「勝利を!」」
 送り出す側では川内と夕立のみ同じ言葉を口にする。

川内たちとクラスメートたちが見守る中、後半戦に挑むため艦娘達は海に足を付けて出て行った。


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