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同調率99%の少女(16) :お昼時の鎮守府
--- 3 お昼時の鎮守府
昼食を取るために那珂たちが執務室に置いてきたバッグや財布を取りに行くと、中から話し声が聞こえてきた。
「あれ?提督と五月雨ちゃん……以外に誰かいるのかな?」
「……もしかして、先ほどの五十鈴さんの学校の……。」
不思議に思っている那珂に神通がボソリと想像を述べた。
「あ~なるほどね。大事なお話してるとまっずいなぁ~。お財布取れないじゃん……。」
珍しく那珂がまごついていると、そんな先輩の不安なぞ気にしないという様子で呆けて見ていた川内が前に出てきた。
「別にいいんじゃないっすか?あの人たちなら大して何も言われないでしょ?提督だってちゃんと言えば笑って許してくれるんじゃないですか?」
「……こういう時川内ちゃんの度胸は買うなぁ~。ま、マゴマゴしてても仕方ないから入っちゃおう。」
コンコンと那珂がノックをすると、男性の声が部屋の中から聞こえてきた。
「はい。どうぞ。」
「失礼します。」
那珂が丁寧な言い方で言いながら扉を開けると、そこには想像したとおり、提督と五月雨、五十鈴とそしてさきほど会った五十鈴の高校の同級生、黒田良と副島宮子がソファーに座っていた。
「あっ、やっぱりさっきの……」
「あぁ那珂たちか。どうしたんだ?」
「いや~お財布取りに来ました。」
提督はハッとした表情をしたあとすぐに笑い顔になる。
「あ、そうか。俺の机の上にあったバッグはやっぱり君たちのか。それなら……」
「はい、私の机に移しておきましたよ。」
提督の言葉は秘書艦席にいた五月雨が続け、那珂のバッグを指差して示した。那珂は猫なで声を発しながら五月雨に近づいていく。
「あぁ~ありがと~五月雨ちゃん!やっぱり愛しいぜぃ~。良い子好い子~」
「ふわぁ~!ちょ、恥ずかしいですよ~~」
「ウフフ~ヨイデハナイカ~」
普段であればはにかむ程度で恥ずかしながらも那珂の撫で撫でなどのちょっかいを受け入れるが、今回は本気で恥ずかしがる様子を見せる。
「んもう!五十鈴さんのお友達さんが……見てるじゃないですかぁ~~」
五月雨がちらっとソファーの方に視線を送ったので那珂も振り向いて見てみると、そこには苦笑いする提督、眉をひそめてジト目で睨んでくる五十鈴、そして目を点にしている黒田良と副島宮子の姿があった。
「アハハ。し、失礼しました!そ、それではごゆっくり~。」
さすがの那珂も少し恥ずかしさがこみ上げる。普段調子でおどけながら那珂は扉近くに戻り川内と神通の分のポーチと財布を手渡した。
そして執務室を出ようとそそくさと歩を進めると、扉に手をかけた直後五月雨から声をかけられた。
「あ!あの那珂さん!私もうちょっと秘書艦の仕事あるので、昨日の件なんですけどぉ、ゆうちゃんと真純ちゃんに待っててって伝えておいてください。」
「ん。おっけぃ。わかったよ。」
那珂はOKサインを作って合図をし、扉を締めて執務室を後にした。
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執務室を出た那珂たちはその足で同じフロアにある待機室に向かった。そこには五月雨が言及した通りの二人となんと不知火がいた。
「お昼だけどおっはよ~3人とも。お?珍しく不知火ちゃんがいる!!」
那珂が挨拶に加えて続く勢いで話題として触れると、不知火は席からガタンと思い切り立ち上がって挨拶をし始めた。
「……おはようございます!!駆逐艦不知火に任命されております、智田知子と申します。先輩方、本日もよろしくおn
「うんうん。不知火ちゃんとはこの前会ってるよね~?もう仲間なんだし、そこまでちゃんとした挨拶はいいよいいよ~。それに艦娘としてはむしろ不知火ちゃんのほうが先輩だしね。」
「……了解致しました。」
挨拶を途中で那珂に遮られた不知火は、顔には出さないが明らかに気落ちした雰囲気と声になってゆっくりと席に戻っていく。そんな悄気げる不知火の肩に那珂は手を置いて微笑みを投げかけてフォローとした。
そんな那珂と不知火の微妙な空気を察して村雨と夕立が立ち上がって近づいて来た。那珂は村雨と、川内は夕立と、そして神通は不知火と向い合う。
「夕立ちゃん、おっは~!」
「おっはよ~~!!川内さ~ん!訓練どぉーだった?」
「うん!今日は雷撃したんだよ。あれ難しいけど楽しいよね~!」
「うんうん!!川内さんもやっぱ雷撃好きっぽい?あたしもね、好きなんだよ~。」
「そっかそっか。午後もやるからよかったら夕立ちゃんもどうかな?」
川内からの誘いにただの笑顔を超えて満面の笑みになった夕立はヘッドバンドよろしく頭をブンブン振ってはしゃぎながら話に乗ってきた。
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「あの……こんにちは。不知火さん?」
「はい。こんにちは神通さん。」
恐る恐る話しかける神通に対し、不知火は控えめの声ながらもハキハキと挨拶し返す。その後話す話題が思い浮かばなかったため二人はただなんとなく見つめ合い、ニコッと神通が微笑むと不知火は口だけで微笑み返す。その不自然な笑い方に神通は思わず悲鳴にも似た驚きの声をあげてしまうが、当の不知火はその反応に?を顔に浮かべるのみであった。
その後口火を切ったのは不知火のほうだった。
「あの、当てられましたか?」
「……えっ?」
一瞬呆けてしまう神通だが、2~3秒して目の前の少女が言わんとすることが自身の訓練のことだと気づき、確認を返した。
「あ、あぁ……雷撃の訓練のことですか?」
その返しに不知火はコクコクと首を振って相槌を打つ。それを受けてようやく神通はきちんとした説明を返した。
「そうですね……私は、的に噴射のエネルギーをかすめるのがやっとでした。川内さんは……3発も当てられたのに。私なんかまだまだです。」
神通が自信を卑下して言葉を締めると、数秒して不知火は口をパクパク動かして何かを言おうとしている。そのことに気づいた神通は一瞬怪訝な表情を浮かべた後、不自然な笑顔ではあるが微笑んで尋ねてみた。すると不知火は言葉途切れがちながらも答える。
「あの……苦手です、私も。好きなのは砲撃なので。だから……先輩も、頑張って。」
口下手な不知火こと智田知子の、精一杯の励ましの言葉。
「あり、ありがとう……ね。」
「……!」
年下の子とほとんど接したことがない神通は励まされて照れまくりながらも感謝を述べる。それに対し不知火も顔は無表情だったが、わずかに頬が朱に染まっていた。
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「那珂さぁ~ん。待ってましたよぉ!」片手を挙げて那珂に挨拶する村雨。
「おまたせ~村雨ちゃん。五月雨ちゃんから話聞いてるよ。二人に任せるって。で、もしかしてそれ?」
「はぁい。家から道具持ってきましたぁ。」
そう言って村雨がポンと蓋を叩いた箱はB5サイズの2段重ねの物だった。
「なんというか……なにこの本格的な匂いのする準備は?」
那珂が茶化すのを忘れるほどあっけにとられていると、隣にいた夕立が口を挟む。
「ますみんのおねえちゃんは美容師ぃ?さんの卵なんだよ。だからあたしたちの間じゃヘアメイクとかファッションの道具や話題には困らないの。も~ますみん姉さまさま~。」
「ゆうはうちのおねえちゃんに対しても遠慮ないんですよ。」
冗談交じりの愚痴をこぼしながら村雨は大げさにため息を付く。
夕立の冗談めいた言動を聞いた那珂は、彼女が村雨とその姉を慕っているんだなと想像し、苦笑いをして受け流す。
「アハハ……なんか目に浮かぶよーだねぇ。」
「まぁ、今に始まったことじゃないからいいですけど。それよりも那珂さん!早くヤリましょうよ?」
「うんうん。でもあたしたちまだお昼食べてないから、食べてからにしよ、ね?」
「それだったら私達も一緒に買いに行きますよ。」
那珂の促しと提案に二人はコクリと頷いて素直に従うことにした。
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その後待機室にいた6人で鎮守府近くのショッピングセンター内のスーパーに昼食を買いに行き、待機室に戻って雑談に興じながら箸を進める。しばらくすると扉を開けて五月雨が入ってきた。
「みんな~お待たせしました~。……って!もうお昼ごはん食べてる!?」
「ふぁ~い!モガモガモググ!(お昼お先にっぽい~)」
「ちょっとゆう……口に物入れながらしゃべるのやめなさいっての。」
「お~五月雨ちゃん。あたしたち先に食べてるよ。」
食事中は口数が少ない那珂の代わりに川内がパンを持っていない方の手をシュビっと振って相槌の代わりにした。先に返事をした夕立はお馴染みの振る舞いで村雨に注意をされるが一切に気に留めていない。
「ちょ、ちょっと待っててね!私もすぐお昼ごはん買ってくる~!」
そう言って慌てて飛び出していき、10分ほどして戻ってきてようやく6人の昼食の輪に加わった。
「ふぃ~おまたせ。」わざとらしく腹を撫でながらその場にいたメンバーに合図をする那珂。
「エヘヘ。私もおまたせしましたです!」那珂の仕草を真似て照れ笑いする五月雨。
「はぁい。それじゃあ那珂さん、神通さん。お覚悟はよろしいですかぁ?」
「アハハ。はーい。」
「う……お手柔らかに。あまり突飛なのは……。」
那珂と神通からそれぞれ異なる返事を受けた中学生組は、いよいよヘアスタイル大改造作戦を決行し始めた。
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