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同調率99%の少女(16) :雷撃訓練(総括)
--- 7 雷撃訓練(総括)
その後3組は思い思いの雷撃訓練を続けた。那珂が行った突飛な雷撃は各チームに影響を与える。それを羨ましく感じた川内と夕立は那珂たちに近づき、的の設定や先程展開されたとんでもない雷撃の説明を聞いた。那珂は簡単だと言ったが到底それを真似できる練度に達していないと察した川内は羨ましかったが真似するのを諦め、普通に訓練を再開することにした。夕立も川内に準じる。
ただひとつ、二人が那珂たちに負けじと試したのが的の応戦モードである。的は川内と夕立に向って突進してくるようになり、二人は的の水球攻撃をかろうじてかわしながら雷撃のタイミングを掴み交互に雷撃で的を撃破を目指す。しかし川内は動き、なおかつ攻撃してくる的に悪戦苦闘して結局0発、夕立はそれなりに実戦経験があるため、装填した合計8発のうち残っていた片足2発ずつの魚雷のうち1発ずつを見事当てることに成功していた。夕立が的を撃破する光景を目の当たりにするたびに川内はグヌヌと唸り声をあげて羨ましがり、夕立をドヤ顔にさせていた。
実際の二人の身体能力として、川内は常日頃から運動神経抜群。ゲームの知識・サブカルの知識も人一倍あって順応性も高い。だが夕立も決して低くなく、むしろ中学生組、駆逐艦勢ではトップクラスの身体能力だ。しかしそれを如何なく発揮するための精神の成長ができていないのが難点だった。年齢的な差もあり全体的な能力は川内のほうが上である。
そんな二人の決定的な差が実戦経験だった。とはいえ二人とも策の思案が苦手なため、複雑な撃ち方や行動はできない。訓練の最中ではとにかく敵(的)のいる方向に素早く撃てば当たるだろうという考えで共通して動いているのだった。
神通と不知火は那珂のウルトラC級の雷撃を見て思うところはあったが、的のモードは一切変えずにその後も雷撃訓練をし続けた。二人とも思い切るという決断力に欠ける性格があるために成長度は緩やかなものだが、訓練の終わる頃には、神通は冷静さと正確さでもって最後の1発でようやく(最小限の範囲で動き回る最低レベルのモードのおかげで)的の右側面へと綺麗に命中させられるようになっていた。一方の不知火も周りに一切影響されない精神の強さと集中力でもって残り3発のうち2発を命中させていた。
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時間は17時を15分過ぎた頃。装填しておいた魚雷が尽きた川内が大声で那珂に訴えかける。
「ねぇー!那珂さーん!あたし魚雷なくなっちゃったんだけどぉー!どうすればいいですかー!?」
その頃自身も撃ち終わった直後でちょうど魚雷が尽きた那珂は声の発せられた方向をチラリと向いた。同じく五十鈴も振り向いてほか2組の様子を気にし始める。
「おー!あたしもちょうど終わったところだよぉー!」
「ねぇ那珂。そろそろみんな終わった頃だと思うわ。一旦集まりましょう?」
「うん、そーだね。」
五十鈴の提案を承諾した那珂は大声で他2組に指示を出した。川内は夕立とともに的の頭を掴んで引っ張り那珂たちの方へと移動し始めた。神通と不知火は的の破片をようやく集め終えて固めたところだったため、川内たちから遅れること数分して的を連れて那珂たちの下へと赴いた。
「みんな、訓練の結果はどうだったかな?」
「うー。あたしはあれから一発も当てられなかったぁ。夕立ちゃんに追いぬかれた~悔しいですっ!!」
「エヘヘ~~。川内ちゃんさんはまだまだっぽい~。もっと精進あるのみですぞー?」
悔しがる川内に当てつけるように時代劇風のわざとらしい言葉遣いで説く夕立。フィーリングの合う川内に存分に勝てたことでこの日最高の充実感を得ていた。
「わたしは……1発やっと綺麗に当てることができました。……うれしいです。」
「……(コクコク)」
「不知火さんは2発当ててたので、私は参考にさせていただきました。」
口を開かない不知火の代わりに神通が彼女の結果を皆に語る。
4人の報告を聞いた那珂はニコリと笑顔になって言葉を続けた。
「うんうん。みんな違いのある成果になったようでなによりだねぇ。川内ちゃんと神通ちゃんは明日も引き続きだよ。五十鈴ちゃん、夕立ちゃん、不知火ちゃんは今日は協力ありがとーね。二人のいい刺激になったと思う。これからも暇があったら一緒に訓練してくれると助かるなぁ。」
言葉の途中で那珂は五十鈴たちそれぞれに視線を送って頭だけ上下に動かしてお辞儀として感謝を伝えた。それに3人は思い思いの返事を返す。
「私はまた明日からあんたたちに協力してもいいわよ。」
「あたし今日はとーーーっても楽しかったっぽい!!」
「私も、大変勉強になりました。」
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6人が沖合から堤防付近まで戻り始めると、堤防のところに男女二人の影があった。提督と五月雨である。
「よぉー!みんなお疲れさん。」
「みんなー!お疲れ様でしたぁー!」
提督は口にメガホンのように手を当てて声をかける。五月雨も同じようにし、那珂たちにねぎらいの言葉をかけた。
那珂たちは午前の時のように堤防と消波ブロック越しに提督と五月雨に話しかける。
「午前と同じシチュでありがとー提督ぅ!どーしたの?」
「ハハッ。工夫がなくてすまないね。今日の分の仕事片付いたからさ。様子見に来たんだ。」
「そっか。こっちも今終わったところだよ。」
那珂と提督が言葉を交わし合っている一方で、五月雨と夕立・川内が言葉を掛けあっていた。
「さみ~疲れたよぉ~~。なんか食べるものなぁい?」
「はいはい。ちゃーんとお菓子買ってあるよ。あとで食べよ?」
「お~~。五月雨ちゃん、あたしたちの分もあるかな?あたしも疲れたから甘いもの食べたいんだぁ。」
夕立に続いて川内も欲望の赴くまま今の気分と要望を述べる。すると五月雨は苦笑しながらも川内の要望に返事をした。
「アハハ……川内さんたちみんなの分もありますよ。だから大丈b
「さみのことだから誰か一人分くらいは忘れてそーっぽい~。」
夕立は五月雨が言い終わる前に予想してオチをつけたのだった。
「それじゃああたしたち工廠に戻るね。提督と五月雨ちゃんは本館で待ってて。」
那珂が合図すると提督は敬礼のように手をシュビっと額の前で軽く振った後五月雨を連れて一足先に本館へと戻っていった。その後那珂も川内たち5人を連れて出撃用水路を登って戻った。
自身の艤装を仕舞い本館へ戻った6人は更衣室で私服に着替えて執務室に行き、五月雨と合流した。その後那珂たちは用意されていた飲み物とお菓子類を活力の元にして執務室のソファー周りで数十分おしゃべりに興じてあう。夕立が冗談で懸念したお菓子の数不足は、○個入りの小分けのスナック菓子・チョコのセットが大半であったのと飲み物は1.5リットルペットボトルだったため、かろうじて五月雨のドジは発揮されなかった。
しかしそれになぜか不満を持った夕立は五月雨をビシっと指差しながら軽口を叩いてからかう。
「な~んか、ヘマしないさみなんてさみじゃなーいっぽい!あんた誰よぅ!?」
「うえぇ!?ゆうちゃんなにそれぇ~!!」
五月雨は五月雨で親友の言い振りを真に受けてオーバーリアクションで仰天してみせて夕立を満足させるのだった。
そんな中学生組を見てクスクスアハハと笑い合う那珂たち。那珂は提督を肘でつついて五月雨を慰めるよう促して目の前の輪の中にあえて三十路のおっさんをツッコませて、なおおしゃべりの調味料に仕立てあげた。
その後少女たちのおしゃべりの輪に話に混ざれなくなりその空気に耐えかねた提督は、本館の施錠を五月雨と那珂に任せてサッサと帰宅してしまった。
そんな提督の去り際、頭の片隅で一応気にかけていた那珂は
「今度は最初から最後までちゃーんと輪に混ぜてあげるからスネんなよぉ~、お・に・い・ちゃん!」
「やめてくれって恥ずかしい!」
お馴染みのノリの茶化しをし、顔を真赤にした提督から期待通りの返しを受けた那珂は口を波打つような形で満面の笑みを浮かべる。川内たちもまた、いっぱしの大人が少女たちにからかわれるその様を愉快に眺めていた。
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