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同調率99%の少女(23) :観艦式:フリーパート

# 7 観艦式:フリーパート

 観艦式のメインプログラムがすべて終わった。那珂たちは先導艦霧島を先頭に単縦陣で並び直し、大きくOの字を描いて会場たる桟橋の数m先に並んだ。観艦式が始まる前とまったく同じ列を成した。

「それでは続きまして……」

 放送で次のプログラムの指示が発表された。いよいよ、フリーパートに移るのだ。予め決めておいたチームごとに分かれ、順番に演技をしていく。
 演技をする以外の艦娘たちは、桟橋の側で待つ。つまり、待機中は、観客と同じような立ち位置で他のチームの演技を見学する形になる。

 那珂たちはさっそく桟橋ギリギリに迫り、方向転換して停止した。ちょうど単横陣になった。
 放送で最初に神奈川第一鎮守府の全員でと案内があり、那珂達以外は全員動き出した。取り残された那珂と五月雨は背後にいる大勢の存在にやや恥ずかしさを感じたが、努めて背後は気にしないことにした。会場にいる上層部的にもその姿勢が求められていたからだ。
 とはいえ、若干移動することは許されていたので、那珂はそうっと五月雨に近寄った。二人隣り合って立ち並ぶ形になる。顔を見合わせた後、視線は前方に向いた。

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 目の前で展開されるのは、神奈川第一鎮守府の艦娘たちによる、主砲や副砲、機銃、魚雷など、一通りの兵装を使ったデモだった。本物の護衛艦のそれらとはスケールが明らかに小さいが、それでも単なる少女・女性たちが海の上に立ち、本物さながらにする砲雷撃は、遠目でよく見えなかろうが放つ人物が護衛艦よりはるかに小さかろうが、迫力は見劣りしないものとして観客に受け入れられた。

 那珂たちにとっては他鎮守府の艦娘の動きであっても、日常の光景であるため感動こそしないが参考にはなる。
 那珂が眼前の後継をボーっと眺めていると肩をチョンチョンと突かれた。振り向くと、五月雨が小声で話しかけてきた。
「あの……那珂さん。ありがとうございます。」
「ん? いいっていいって。」
「う~~。でもどうしてああなったんですか?私てっきり演技が中断されちゃうかと。」
「ま~いいんでない? みんな機転が聞く人たちだったってことで。結果オーライオーライ。」
 那珂の口ぶりに釈然としない五月雨。この先聞いても、多分はぐらかされるとわかっていたので、あえて聞くのを止めたが、五月雨は那珂が何かしてくれて、その結果会場でああいう指示があってみんな対応してくれたのだろう。
 現実の正解を察していたし、那珂を信じていた。
 五月雨は再び「ありがとうございます。」と、最小の声量で囁くと、神奈川第一の艦娘たちの演技に視線を戻した。

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 その後、戦艦艦娘の演技、空母艦娘の艦載機の演技、その他いくつかが行われた。さすがに人数も準備期間も多かった神奈川第一鎮守府の艦娘たちの演技は、メインプログラム以上に観客を楽しませるとともに、艦娘の力を誇示する結果になった。
 そして最後のパートになった。ついに那珂が主導で演技をする番である。しかも大トリである。那珂は神奈川第一の艦娘たちが戻ってくる前に、両手で頬を軽く叩いて気合を入れる。
 パンッ、という乾いた音が響いたので五月雨が那珂のほうを向く。
「ついに、この時ですよぉ~、五月雨ちゃん。」
「はい!」
「事前に打ち合わせしたとおり、全力でね。」
「わかりました。私は神奈川第一の夕張さんや太刀風さんたちと一緒に攻撃すればいいんですよね?」
 那珂は五月雨の確認に、言葉なくコクリと頷いた。

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 前日のフリーパート練習時、那珂の提案した演技に、霧島たちは何度もネガティブな反応を返した。そんな動きできない、追いつけない、などと渋る様子を見せて、最終的には理解はしたが実際にはできない結論づけて那珂に苦言を呈したのだ。

 練習時間があまりないことを危惧し、那珂が代案として持ちかけたのは、自分を深海棲艦に見立てた模擬戦だった。事前に観艦式の意義を聞いて、那珂は自分を主役として見せるのは諦めた。あくまで霧島ら大手鎮守府の艦娘が組む艦隊を主役にし、自分は主役を引き立てる敵に徹する。その上で、この観艦式を目にする全員に印象づける方針に切り替えた。
 実際の戦闘もどきであれば演技など気にせず、全員が全員本気でやれると踏んだ那珂の提案は、霧島から提案された模擬戦で実力を評価され晴れて受け入れられた。とはいえすべてアドリブだけというのも間を調整するのが難しいため、最低限、那珂にやられる担当、那珂に攻撃を当てる担当を事前に決めた、いわゆる八百長だ。

 どう動くかは基本的に自由だが、攻撃担当がどのタイミングでヒットさせるかまで自由だとさすがにタイミングが掴めなくなる。
 攻撃のタイミングは霧島が機銃パーツを真上に向けて撃ち出すこととなった。それを合図に実際に当てること。ただし那珂は一人で他人数を相手にする関係上、その制限は受けず自由に攻撃可能となった。
 そうして那珂が5回被弾したところで、霧島が勝利宣言をし、模擬戦は終了となる。

 那珂が(バリア越しであっても)ヒットさせていいのは、重巡洋艦足柄、羽黒、空母赤城、戦艦榛名、軽巡洋艦夕張、そして駆逐艦峯風である。
 一方で那珂に実際にヒットさせていいのは、重巡洋艦那智、羽黒、戦艦榛名そして駆逐艦全員だ。
 それ以外の艦娘やタイミングは、ギリギリで外すか牽制程度に足元に当てる程度であとは自由と定めた。

陣形: 南西 ← → 北東
霧島      妙高
             羽黒 太刀風
  陸奥 加賀 赤城 榛名   峯風  夕張    vs    那珂
             足柄 五月雨
        那智
※旗艦は赤城。霧島は審判・進行役

 戦況が異なれど勝敗があらかじめ決まっている模擬戦の練習だったが、最後の方となると、艦娘としての血が騒いだのか、ルール無視ギリギリの接戦もあり、終わると全員満足げに汗を拭って感想を言い合っていた。

 一人で13人を相手にする那珂の行動は、那珂自身もこれほどまでに動けるのかと驚くほどだったが、対する霧島たちの驚き様はさらに数倍上だった。
 この小娘は口だけじゃない。
 もはや霧島たちは、目の前にいる軽巡洋艦の少女を、ただの艦娘とは思わないことにした。このにこやかな笑顔と軽い雰囲気でもって重巡羽黒や那智、空母加賀や赤城を速攻で捕らえて撃破(判定)したこの少女は、本気で一人でも多人数を相手にできる。
 被弾させる担当や勝敗が定められた模擬戦だからまだマシだが、最低限のルールがなければ、勝敗はどう転ぶかわからない、誰もが痛感していた。
 深海棲艦の新種か何かと思い込んだほうがマシ・何か恐ろしいものを持っているのでは。というのが、神奈川第一の艦娘たちの共通の意見だった。

 一方の那珂は、霧島たちを強力な深海棲艦の集団と捉えることにした。
 化物風情が実際の艦隊のようにチーム編成を組むとは思えないが、知能はイルカ以上人間並に良いと聞いている。そのため、万が一あり得ると考えてシミュレーションするほうが、今後のためだ。そう思うことにした。

 短い時間にどうにか納得できる数の練習を重ねた14人は、大トリであるこの模擬戦に、全力を尽くす覚悟ができていた。それと同時に、一同の体力や集中力、緊張感がそろそろ限界に近かった。

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 那珂の目前に迫るは13人の艦娘。艦娘の推奨チーム構成は6人だが、それを越えるため、いわゆる連合艦隊と内々で称される、複合チーム構成が臨時で結成された。
 ペイント弾用の弾薬エネルギーに入れ替えている時間がないため、実弾とバリアをフル活用することになった。バリアで弾いた流れ弾が会場に飛び込むと危ないため、戦場と会場は約100m開いている。

 那珂は一つだけ言っていないことを思い出した。
 その時、放送で指示が出た。動き出す前、向かい合う距離およそ100m、那珂は密かに通信で霧島に伝えた。
「霧島さん。一つ、言い忘れたことがあります。」
「何かしら? もう開始よ。」
「実はあたし……同調率が98%あるんです。」
「へっ!? 98%!? それほんとうn
「あたしに98%の本気、出させてくださいね~!」
「あなたもしかして改二!? ちょっと……!?」
 那珂が言うだけ言って通信を一方的に切断したため、霧島たちはそれ以上は那珂から聞き出せなかった。
 那珂は満面の笑みで、左腕に装着した機銃3基、単装砲1基を顔の前で横一文字に構え、姿勢をやや低くしてゆっくりと前進し始めた。

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 最初に主砲が火を吹いたのは、夕張たち先頭の軽巡・駆逐艦たち4人だった。

ドゥ!ドドゥ!ドゥ!ドゥ!

 牽制がてらに4人の主砲から放たれるエネルギー弾を那珂は軽やかな蛇行でかわす。その速力のまま、自身の2時つまり北西に針路を向け、神奈川第一の連合艦隊の左舷に回り込み、そのまま次は羽黒と対峙する。

 那珂が撃つフリをして主砲を構えると、羽黒も負けじと構える。那珂は本当に撃つつもりは毛頭なかったが、相手の羽黒は過剰に反応したのか、10mの至近距離で砲撃してきた。

ズドォ!!

「うわっと! あっぶな~~。さすがに重巡の主砲は迫力違うなぁ~」

 那珂は海面スレスレまで身を思い切り低くして避ける。速力を若干あげて連合艦隊に反航して進む。那珂も、霧島から旗艦を任された赤城も、随伴艦らにまだ砲撃の応酬をさせる気はない。那珂はそのまま連合艦隊の最後尾まで回り込み、そのままぐるりと連合艦隊に沿って回頭し、同航する。

 連合艦隊の右翼を務める重巡の二人が見え、そしてその先にいる五月雨と同じ列でしばらく並走する。
 その時、後方から機銃の音が聞こえた。

バババ

 霧島が合図をしたのだ。以降、攻撃担当の誰かが那珂に実際に当てることができる。
 那珂に一番近い足柄が、前方にいる五月雨に合図を送って促した。それを受けて五月雨は右手の端子に付けた連装砲を那珂のいる3時の方向に構えて狙いをすまし、トリガースイッチを押し込む。

ドドゥ!

バチン!

 那珂は左肩に付けたバリアを事前に弱め、肩付近の制服で五月雨の砲撃を受けた。エネルギー弾は制服の特殊加工によって四散する。
「くっ~……五月雨ちゃんの一撃いってぇ~~。」
「ご、ゴメンなさ~い!」

 一撃食らわしてきた五月雨が一言謝ってきたので、那珂は手をブンブンと振って返事としひとまず距離を開けた。

((さーて、この本番ではどうしようっかなぁ~。霧島さんの合図が出る前に、もう一周しつつ誰か狙いたいなぁ~。))

 連合艦隊はゆっくりと左に舵を取り、コンパス0度つまり真北から315度、270度、225度つまり南西と、反時計回りにゆっくりと、しかし機敏に順次回頭している。那珂は連合艦隊の右舷と距離を開けてそれに追随する。
 連合艦隊が南西に向き終わると、機銃の射撃があった。また誰かから攻撃が来る。那珂は覚悟した。

 そのまま攻撃を受けても良いが、それでは面白くない。
 避けてはダメとは決めていないし、かつ自分は攻撃をいつ当てても構わない。有利に思えるが、裏がある。ルール決めの際の霧島たちの考えでは、那珂を意思疎通が不可能で、どう行動するかわからない深海棲艦に見立てているのであろう。那珂自身相手をそう思い込むことにしていたので、容易に察しがついていた。
 そっちもその気なら、どうせ自分の負けが確定しているのなら、あたしだってそのルールを存分に活用してやる。
 ただ、観艦式という建前上、深海棲艦と見立てた自分が暴れまわり、霧島が艦娘たちが苦戦する様を観客の目に焼き付けてしまうことは、上の人間的にもまずいだろうとはなんとなくわかっている。だから、自分のやりたい動きで思う存分暴れて艦娘の能力の可能性もとい自分の可能性を探りつつ、霧島たちに華を持たせる。
 その両立をしなければならない。

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 考えながら、那珂は速力を上げ、先頭にいる夕張に追いつき追い越し、そのまま横切る素振りを見せる。

 再び夕張と3人の駆逐艦による牽制のための砲撃が那珂に襲いかかる。

ドゥ!ドドゥ!ドゥ!ドゥ!

 那珂はジグザク航行、続けて身を思い切りかがめての低空ジャンプでその砲撃の雨を避ける。避けきった後は、太刀風の真横に来ていた。そこですかさず那珂は右手の主砲パーツを目前に寄せて構え、撃ちだした。

ドドゥ!ドゥ!ドゥ!

 那珂の視線は太刀風に鋭い眼光を持って向けられたまま、太刀風の後ろにいる羽黒にすべての砲身が向けられていた。結果として那珂の砲撃を食らい、思い切り被弾したのは羽黒となった。

「きゃああ!!」

 羽黒の驚きを伴った悲壮的な悲鳴が響く。いくらなんでも過剰に反応しすぎだろうと、那珂が思う以上の驚き様だった。実際には出力弱めの連続砲撃がバリアで弾かれていていただけで、普通に訓練した艦娘なら大して驚かない水準のものだ。
 あんた以前会った時からどんだけ経験したってのさ……と那珂は心の中で謗言を吐いた。そしてすぐに意識を羽黒の後ろにいる榛名と赤城に向け、姿勢を低くしてダッシュして迫った。

ドドゥ!

バチバチ!

ドンッ!!

「きゃっ! 痛っ!?」

 悲鳴を上げたのは榛名でも赤城でもなく、攻撃しようと迫った那珂だった。
 那珂は、突然右真横からタックルされ、その衝撃で後ろに吹っ飛ばされていたのだ。慌てて足の主機を海面、後方に向け、ブレーキを効かせてそれ以上の後退りを防ぐ。艤装と同調して腕力や脚力が強くなっているとは言え、単なるタックルではないことはすぐにわかった。衝撃は強かったが、身体のどこにも打ち身や捻挫的な傷害は感じられないからだ。
 那珂が目を丸くして衝撃のあった方向を見ると、そこには神奈川第一の妙高が榛名と赤城を庇うように立っていた。

「練習ではあなたの実力を測るために黙って見過ごしていました。本気でスポーツに携わって精進している私から言わせていただくと、あなたはただがむしゃらに暴れて万能を演じている小娘にしか見えません。」
 距離があるのにもかかわらず、圧倒される威圧感。彼女の身体は屈強だった。自分たちのお艦たる妙高と雰囲気は似ていると思い込んでいたが、実際は体格や放つオーラがまるで異なる存在。
 那珂はカチンときた。かなりイラッと瞬間的に頭に血が上っていたが、ゴクリとツバを飲み込んで僅かに冷静さを取り戻し、喉を震わせて言葉をひねり出して返した。

「妙高さん、でしたっけ? 今のすんげぇ~効きましたよ。何したんですか?」
 那珂のドスを効かせた声を一切気にせず妙高は答えた。
「タックルですよ。私、社会人ラグビーしているもので。」
「ラグビー!? 選手がしろーと相手にタックルなんてしていいんですか!?」
 わざとらしく仰天の表情を作って那珂が訴えかけると、妙高は鼻で笑って言い返した。
「なんでも、艦娘ってこの機械で、相当に身体能力が高まるそうじゃないですか。だからこそやれるんですよ。意外と駆逐艦や軽巡の娘たちも、私のタックル相手に本気出して立ち向かってきてくれるので、よい訓練だって言っていただけてます。それに私は射撃など細かい作業が苦手ですから、その分、私の得意分野のスポーツを取り入れて深海棲艦と戦うことにしているんです。それは、演習などで艦娘と戦うときも例外ではありません。」
 那珂は朗らか笑顔で恐ろしげな事を口にする妙高を目の当たりにして、身震いがした。しかし恐怖などのせいではない。

 いつのまにか連合艦隊は前進をやめ、全員那珂の方を向いていた。さきほどの着弾・被弾指示がまだ生きているから、誰が本当に当てに来るかまだ心構えをしていなくてはいけない。
 そして目の前には、その人となりの一部をついに知ることができた神奈川第一鎮守府の妙高が、身をかがめて海面に握りこぶしを当てて構えている。

「那珂さんでしたよね。榛名と赤城さんには、弾一発も通しません。」
 まるで巨大な壁のように立ちはだかる妙高に、那珂は満面の笑みを浮かべた。それを見て妙高が怪訝な顔をする。
「……何がおかしいのですか?」
「あ~いえいえ、別に妙高さんを笑ったわけじゃないですよ。自分の境遇がおかしくって。あたしの可能性を試すシチュができたので、とっても嬉しいんです。……ぶっちゃけ、戦車みたいなあなたと真っ向から勝負する気は……ありませんから!」

 言い終わるが早いか、那珂はクラウチングスタートの姿勢のまま、足の艤装、主機に念じて思い切りロケットスタートをした。それを目の当たりにして妙高は自身のラグビーのポジションのためなのか、独特の構えを深める。そして那珂同様、主機に念じ足元に激しい水しぶきを巻き上げながら突進した。
 二人がまさにぶつからんというタイミング1秒前で、那珂は海面を蹴り、進む方向を正面45度の宙へと向けた。向かいの妙高が直後に見たのは、那珂の足の艤装の一部のパーツだった。突進の勢いを殺せず、妙高はしばらく前進した後ようやくカーブして方向転換した。
 艦娘全員+会場の全員が目の当たりにしたのは、宙を舞う・飛ぶというよりも、空を矢のように空気を切り裂いて飛ぶ那珂の姿だった。

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 那珂は連合艦隊の上を通る直前に両腕の全砲門を真下に向け、両手のトリガースイッチを押した。

ドゥ!ドドゥ!ドゥ!
ガガガガガガガガ!!

「きゃあーー!」
「きゃっ!」
「くっ……!?」

 連合艦隊の第二列を成す榛名たちは突然の上空からの砲撃・射撃の雨に慌てふためいて隊列を大幅に崩す。
 那珂はそれをじっくり確認することなく、連合艦隊から15mほど離れた海上に着水した。連合艦隊の左舷から右舷に移った形になった。
 そして那珂が連合艦隊の方に振り向くと、目の前にエネルギー弾が飛び込んできた。

バチッ!

「きゃ!!」

 それは、那智の撃ち放ったものだった。顔に当たらないよう急いで左手を突き出す。その手のカバーでかき消したが、その衝撃が左手に伝わって那珂を後退りさせた。と同時に、エネルギー弾の熱でグローブカバーのスイッチ類のあるバンドが焼け焦げ、ブツンと切れる。
 那珂は正面に目を向ける。すると那智は一切表情を変えずに同じ姿勢のまま再び放ってきた。

ズドォォ!!

 駆逐艦や軽巡洋艦の装備する主砲パーツよりも規格が大きく出力があるその単装砲から撃ち出されるエネルギー弾は、想像よりも早く那珂に迫ってきた。那珂は身体を後方に回転させながら右足の主機だけに注力して推進力を高めてダッシュする。結果として那珂は舞うように回転しながら真横に飛んで被弾を避けた。

 その時、三度霧島の機銃が音を鳴らした。短い射撃の後、さらに機銃がバババと空気を切り裂いて上空へ撃ち込まれる。
 これで那珂は二回は攻撃を受けなければならない。ヒットを伴う攻撃担当が果たして誰と誰になるかわからない。
 正義の艦娘側に有利を演じさせてあげるか。
 那珂はそう判断し、針路を前方から11時の方向に向ける。そこには駆逐艦3人と軽巡洋艦夕張が待ち構えていた。
 那珂は弧を描いて4人の前を通り過ぎる際、身をギリギリまで傾けてレーシングカーばりにドリフトを決める。自身の右側に水しぶきがカーテンとなって激しく舞い上がる。自然と那珂のスピードは次のダッシュのために遅くなる。
 その時、榛名が合図を出した。
「てーー!」

ズドォ!!
ドゥ!
ドドゥ!ドゥ!
ドゥ!

 攻撃担当外である足柄を除く第一列の全員が一斉に那珂に向かって砲撃を浴びせてきた。
 溜めているためにスピードを瞬発的に出せない那珂は、その砲撃の幕を食らう。

バチバチ!バチ!

 那珂のバリアが甲高い音を立てて連続して弾き、かき消す。那珂の周囲にはかき消した際に発生した煙がモクモクと立ち込め、彼女の姿を見えなくさせる。
 さすがに5回分を通り越すだけのヒットをしたと判断した霧島は、煙が散ってようやく姿を見せた那珂の×を描くその手の動きを見て、認識が合ったとして宣言代わりの空砲を鳴らした。

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パーン!

 その音と密かに通信で報告を受けた村瀬提督と鎮守府Aの妙高、そして海自の幕僚長たちは、会場に向かって宣言した。

「そこまで!」
「深海棲艦役の艦娘が轟沈判定を掲げたので、模擬戦は艦娘の連合艦隊の勝利となります。」
 そう幕僚長の一人が高らかに宣言すると、司会の女性が進行を引き継いで喋って放送した。
 会場からは、歓声と拍手が大合唱して鳴り止まない。その音は那珂たちがいる、会場から100m離れた海上からも普通に聞こえてくるほどだった。

 霧島が誰よりも先に動いて艦隊の前列の先に出る。那珂はその姿を目に写し込んだ。中腰になって肩で息をしていたため、霧島から差し伸べられた手は掴みやすかった。そうっと掴み、姿勢を元に戻す。

「ご苦労様。」
「エヘヘ~ちょっと物足りないですけど、こんだけやっとけば十分ですよね?」
「えぇ。見てご覧なさい。聞いてご覧なさい。会場のあの熱気。あれが、最後まで演じきった私達に対する世間の評価よ。」
「はい。」

 那珂と霧島の周りには、他の艦娘たちも集まってきていた。すぐに駆け寄ってきたのは五月雨だった。
「那珂さ~~ん!」
 ガバッと音を立てるかのように五月雨は那珂に抱きついてきた。普段は自分から行くだけに、逆をされて那珂は本気照れしつつも五月雨に声を掛けた。
「あ、アハハ~。五月雨ちゃんってば。みんなの前で照れるよ~? お姉さん本気で惚れてまうやろ~~!」
 さすがにスリスリするのはやめて五月雨を引き剥がした後、肩をポンポンと叩くのみにしておいた。五月雨も那珂のその引き具合を察して、自ら身を引いて離れた。

「模擬戦の演技は終わりよ。みんな、並んで。また会場前に行くわよ。」
「はい!!」

 霧島の合図で全員単横陣に並び直し、そのまままっすぐ前進して会場傍の海上で停止した。
 会場からはさらに拍手と歓声が鳴り響く。司会からこの後のプログラムが説明される。那珂たちは疲れも同調を維持するのもそろそろ限界に近かったが、もう一踏ん張りすることにした。

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