同調率99%の少女(27) :ex 2 お礼
ex 2 お礼
神奈川第一鎮守府の艦娘達の艤装を運ぶことになった。
運ぶとはいえ、すべてがすべて那珂たちがやれるわけではない。艤装が積み込まれた台車の移動と神奈川第一のトラック車両への積み込みであり保管場所から台車への運び出しは明石ら技師たちが運転する台車が担当するてはずだ。工廠の入り口にたどり着いた一行は明石達技師の指示によりそこで待機となった。それは神奈川第一の艦娘も同じだ。
しかし明石達技師に続いて工廠内に入っていく者達がいた。ネットテレビ局のスタッフ達は事前に両鎮守府から許可を得ており、また見学者たちもおおよそテレビ局スタッフの雰囲気を感じ取っていたため気にはしなかったが、気になる集団がいた。
那珂達である。
「え? おーい那珂さん!ここで待ってろってあんたらもじゃねーの?」と天龍。
「使う以外で艤装に触ろうとすると○○さんたちにものすごく怒られるのよ!」
霧島は自身の鎮守府の技師と思われる人物の名を口にし、艤装の取り扱いに関わるエピソードじみた白状をする。
「えっへへ~。まぁそこで待っていなさいって!」
「「???」」
那珂の不敵さがほんのりこもった意地悪そうな笑顔を送られて天龍を始め神奈川第一の艦娘達は疑問符を頭に浮かべて呆けた。そんな彼女らをよそに那珂たちは技師たちに付き従って工廠の奥へと向かっていく。
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保管庫出入り口付近で明石は一旦立ち止まり、振り返って注意を呼びかけた。対象はネットテレビ局スタッフである。
「申し訳ございませんがここから先は関係者以外立ち入り禁止ですので、◯◯テレビの皆様はご遠慮願います。」
明石の説明に艦娘達はヒソヒソと口にし合う。
「関係者以外って、なんだかあたしたちすごいすごくね?」と川内。
「事実、艦娘も工廠の関係者ですしね。」やや冷静に同僚に返す神通。
「そーそー。あたしたちはえら~い関係者なんだから、ここから先はあたしたちだけっぽい。」
「ゆうったら……。偉さとか関係ないって。立場的に偉いのは……明石さんと提督かな?」
「そうねぇ~。ここでは明石さんがトップでどちらかというと提督さんはあたしたちより下の下っ端かしら。」
「村雨、さすがにそれは。」
身振り手振りやや大きめな体の振りを交える夕立の言に時雨がツッコみ、村雨が補足し、その毒舌気味な補足を不知火がツッコみ、そんなやり取りを一人クスクス笑う五月雨という構図があった。
そんな中学生組のとなりでは五十鈴たちが同じように感想を言ってやりとりしていた。
「ねぇねぇりんちゃん!あたしたちも関係者? 関係者!?」と長良。
「えぇそうよ。高校生なんだからはしゃがないでくれる?友人として恥ずかしいわ。」
「まぁまぁりんちゃん~。普通の学生の私達がこういうこと言える側になるって感慨深いものがあるし、気分が高まるのってわかるよ~?」
五十鈴のツッコミに続いて名取はやんわりとフォローするのだった。
そんな皆のおしゃべりを冗談を交えて制する艦娘が一人。那珂である。
「アハハ。みんな~。色々言うのはいいけど、こういう何気ない会話もしっかり撮影されてるからね~?」
「うぇ!? マジで!?」
「(フルフルフル)」
真っ先に反応したのは川内と神通だ。川内は珍しく慌てながら服や髪の毛を整えだす。神通はいつもどおり縮こまるのみだ。その隣りで、腕を組みながら落ち着きはなって五十鈴が冷静なセリフを口にする。
「ま、そうでしょうね。私は普段どおりだから気にしないけど、長良や名取には恥ずかしくないようきちっとしてほしいところね。」
「そう言いながらも、実は緊張で足がプルプル震えている五十鈴、17歳であった。」
「……那珂あんた! 変なナレーション付けるのやめてよ!!」
「まぁまぁりんちゃん。そんな大声あげるのって恥ずかしいよ?」
那珂のボケと長良のツッコミにより、冷静さをつらき抜き通すことはできない五十鈴の姿がそこにあった。
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那珂達は工廠の中のある区画、自身らの艤装が保管されている場所に来た。那珂と五月雨は2回目だが他の面々は初めて見る艤装の保管の様子に感心のため息を漏らして眺めている。
「神奈川第一の皆さんの艤装はこっちですよ。」
明石に促されて那珂たちが視線を向けたのは、保管庫の端の端の棚だった。そこに12~3個の艤装が棚の区画一つ一つに収まっている。
「端っこに置くのはなんか意味あるんですかぁ?」と那珂。
「いえ、特に。決まりとかもありません。ただたんに私達の艤装と分けて置いておきたかっただけです。」
「はぁ……私、ここ初めて見るわ。艤装ってこうやって仕舞われていたのね。ねぇ那珂はあまり驚いてないわね?」
那珂の質問と明石の回答の端で五十鈴がそう口にする。
「んっふっふ~。五十鈴ちゃんよ。私はすでに一度見ているのだよ~。ね、五月雨ちゃん!」
「は、はい!けど、2回目でもやっぱり圧倒されちゃいます。」
五月雨の感想に時雨たちが同意を示してウンウンと頷いているその脇で川内はふと疑問を口にした。
「てかさ、どうせすぐに帰る人達のなんだから仕舞わなくてもいいんじゃないっすか?」
やや乱暴な物言いでの疑問には、明石ではなく女性技師の一人が答えた。
「それは駄目なのよ。艤装はあなたたち艦娘が装備するために一時的に下ろす以外は、どんなに短い時間でも必ず保管用のスペースに仕舞うよう制度上義務付けられているの。」
「ほへ~~なんか面倒っすね。」
「一応精密機械だからね。仕方ないわ。」
女性技師の言葉に明石や他の技師達は強く頷くが、質問した当の本人は興味なさそうに返事する。
皆愚痴や感想は程々に、神奈川第一の艦娘達の艤装を運び出す準備を始めた。基本的には保管庫に内蔵のリフトで台車まで自動的に運び出す。それと同時に那珂達は自身の艤装のコアユニットと一部パーツだけを装備して同調し始めた。
台車を工廠入り口まで持っていくのは那珂達の役目だ。
「台車は少ないのでとりあえず一人分ずつ持っていってくださいね。」と明石。
「「はーい!」」
艦娘達の返事が響き渡る。と同時に那珂の違うタイプの台詞が響いた。
「そだ!ここから出たらテレビ局の人たちに録ってもらお。いいですか明石さん?」
「ん~そうですねぇ。ここまで来て何も撮らせないのはあんまりですしね。」
リフトを操作する技師と話していた明石は那珂の方に振り向いて許可を伝えた。那珂はそれを受けて小さくガッツポーズをして保管庫の入り口へと駆けていく。
「よっし!それじゃああたし伝えてきます!」
そう言って艤装が台車に運ばれるその様子を見ていた川内達をよそに出ていった。
保管庫の入り口付近で待機していたテレビ局スタッフは、那珂の姿を見て振り返った。
「……というわけですが、これで大丈夫ですか?」
「えぇかまいませんよ。やっと撮影許可が降りるんですね~。待ってましたよ。」
「申し訳ございません。で、なにかあたしたち心がけることってあります?」
「いえいえ特に。皆さんはカメラを気にせず普段通りに運ぶ姿を見せてください。多少はっちゃけてもらってもいいですよ。」
「は~い。」
軽快に返事をして自身も運ぶために戻ろうとすると、背後からファインダーの気配を早速感じ始める那珂だった。
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台車を運ぶ第一号として、那珂と川内が保管庫から工廠の大通路へと出てきた。テレビ局のカメラはすかさず撮影を始める。
那珂と川内が二人で台車を動かして工廠の入り口へとゆっくり進み出すと、二人を映していたカメラの内の一台が追随しはじめた。
「ねぇ那珂さん。普通にしてろっていうのはこのあたしには無理だね。」
一緒に台車を押している川内をチラリと見ると、今までに見たことのないくらいの仏頂面をしている後輩の顔がそこになった。
「何を偉そうに言ってんのさ……。まぁ川内ちゃんの気持ちもわかるけどさぁ。とりあえずカメラを見ないだけでいいよ。」
「は、はい。」
那珂と川内の後を追ってテレビカメラとリポーター代わりのスタッフがついて来る、そんな不思議な4人編成となって工廠の入り口に戻ってきた。
そんな光景を見て真っ先に開口して仰天してみせたのは天龍だ。
「えっ!?おいおい何してんだよ!!」
「ちょっと那珂さん?」
「!!」
神奈川第一の艦娘達が口々に驚きを吐き出す。天龍、霧島を始めとして皆アタフタとし始める。
「えっへへ~。そんな驚きなさんなって。ちゃーんとそちらの技師の皆さんにも許可もらってるから。」
「そうですそうです。なんだかんだで演習面白かったし、気持ちっすよ気持ち。ね、那珂さん?」
「そーそー。お・れ・い!」
天龍らの反応なぞ完全に想定の範囲内だった那珂は至って冷静にかつ普段どおりの軽調子で振る舞う。先輩が強気なため川内も強くノる。総じてふたりとも平常運転なのである。
「後から他のみんなも運んでくるからね~。皆の艤装、責任持って積み込んでみせますぜぃ!」
「お、おいおい……。あたし知らねぇ~ぞ~。」と天龍。その視線は周囲にいる霧島ら艦娘に向けられた。
「よく○○さんたち許可したわねぇ……。」霧島はこめかみ付近に手を添えてわずかにうなだれてしまっている。
二人始め神奈川第一の艦娘達は那珂の軽口に苦笑するしかなかった。
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そんな神奈川第一の艦娘達と見学者が見守る中、那珂と川内は台車をトラックの荷台にくっつけて止め、載せてきた艤装を二人で持ち上げて荷台にいる神奈川第一の技師らに受け渡した。二人が運ぶところはテレビカメラのファインダー以外に、見学者の視線も向いている。
一般人たる彼らは海上を自由に移動し砲撃雷撃する艦娘の様を見て迫力感は抱けたが、どことなく現実味がなかった。そんな見学者たちがこの眼の前の知り合いの艦娘達に驚異のパワーアップの現実味を抱けたのは、まさにこうした重そうな機材をやすやすと運ぶ様だった。
テレビとしても艦娘たる少女や女性達がまさにすごい存在ということを示すのに、段階を踏むという意味でこうした現実の延長線上たる豪快な行為は最適だった。
そのためテレビ局スタッフの態度もそれまでとは若干違う。
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後からやってきた神通や五十鈴、時雨たちによる運搬もまた、テレビ局スタッフや同級生らを驚かせ続けるのに十分な行為だった。那珂と同じ学校の高校生たちは、我らが会長であればこのくらいありうるかも?という勝手な妄想のもと目の前の展開を見ていたが、さすがに時雨や五月雨たち他校の中学生艦娘らが同じことをしていると、これまた改めて艦娘となった人間の異常さを覚えるのに十分すぎた。
一通り艤装の運搬と積み込みが終わると、最後の運搬組に続いて明石らも外に出てきた。それを待ってテレビ局スタッフは那珂や時雨、明石ら鎮守府Aの艦娘らに感想を聞きつつのインタビューを始める。
「ふぅー……。まぁこんなもんでしょ。」と那珂。
「さすがに疲れましたよ。いくらパワーアップしてるっていってもしょっちゅう重いもの運ぶわけじゃないからなぁ~。那珂さんは疲れないんすか?」
川内の質問に那珂はカラリと答える。
「ん? いや~あたしだって疲れてるよ。けどテレビの目もあるし、今の川内ちゃんみたいなヘトヘトすぎる表情をみっともなく世間に見せられませんよ。」
「うえっ!? あ、あたしそんな顔……してましたぁ!!?」
那珂のあっさりとした指摘に川内は慌てて頬やこめかみを触って自分が今していた表情を確かめる。そんな慌てふためいた行為に那珂はもちろん、神通や五十鈴らは失笑しあう。
テレビ向きの意識や振る舞いがないそうした艦娘同士の素のやり取りを撮るのもまた、テレビ向け撮影のしどころなのである。那珂たちは自分たちが思っている以上に撮影されていることを、知るよしもない。
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一通り艤装の運搬が終わると、鎮守府Aの艦娘達は工廠入り口の一角に集まった。そのタイミングを見計らって那珂の高校のメディア部の井上がテクテクと歩み寄る。
「いや~、皆さん海の上だけでなく陸の上でもすごいですねぇ~!ささ、会長。ここで一言一言」
「うわっ。井上さ~ん。まだ作業終わってないよ。」
「まぁまぁ気にしませんので。」
強引な井上の促しに那珂は苦い表情を浮かべるが、口元はたぶんに緩んでいる。彼女からのインタビューにまんざらでもないのだ。
那珂は井上に今回のイベントでの撮影はどうか尋ねてみた。後で大々的に尋ねるつもりだったが、二人だけの本音探りということで聞きたいこともあったからだ。
「そ~ですねぇ。○○テレビの皆さんと仕事ごいっしょできたのはすっごく良い機会だと思いましたよ。プロの撮影テクとか立ち回りとかこっそり教えてもらえたのでワタシ的には大満足です。ただ欲を言えば私率いる○○高校メディア部がこの鎮守府の全ての宣伝と広報を担当させてもらえたらなぁ~というのはありますねぇ。」
「アハハ、井上さんったら!」
「エヘヘ~。まぁそれはやりすぎとしても、メディア部としては会長ひきいる艦娘部のために広報の高みを目指してみせますから。今後共メディア部をご贔屓に~。」
「ハイハイ。それじゃ~この後の様子まできちっと撮影しておいてね~。」
「このメディア部井上にお任せあれ~。」
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メディア部井上とのやりとりもほどほどに皆のところに戻った那珂は天龍達に向き直しそして合図した。
「さ~て天龍ちゃんに霧島さん。あたしたちきちんと運べたでしょぉ~~?」
「あー、わーったわーった。わかったからよぉ!ありがとよ!感謝してやったんだからそのうぜぇ表情で迫るなっての!」
フフン!と鼻息鳴らして小憎たらしい表情を浮かべて天龍に顔を近づける那珂。そんなうっとおしい那珂を片手で払う仕草を交えつつツッコんだ。
霧島に至っては何度めかわからぬ、こめかみ付近を抑えて苦笑交じりのため息を吐いて言った。
「なんとなくあなたのことがわかってきた気がするわ那珂さん……。テレビの目もあってこうしてイベントごとのときにこういうことしてくれるなんて……戦闘だけじゃなくて普段も一筋縄ではいかないわね。」
「お褒めに預かり光栄で~す!」
「「褒めてない褒めてない!」」
天龍と霧島の目立つツッコミで神奈川第一鎮守府の艦娘達の笑い声が漏れたことで那珂はツカミは鷲掴みでOKだと判断すると、会話の流れと主導権を我らが西脇提督と提督代理の鹿島に譲るようウィンクで促すのだった。