同調率99%の少女(25) :演習試合前
# 9 演習試合前
那珂たちが初期陣形の練習を進めていると、プールの外、金網の向こうからガヤガヤと声が聞こえて大人数が姿を見せた。
「光主さぁ~~ん!内田さぁん!神先さぁん!訓練頑張ってるぅ~!?」
真っ先に声を上げたのは那珂たちではなく顧問の阿賀奈だ。なんの恥ずかしげもなく、率先して手を振ってアピールするその姿に、那珂はちょうど激しい動作中ということもあり、無視せざるを得なかった。同艦隊にいて一緒に動いていた川内、そして相手担当のため那珂たちから砲撃で追い立てられていた神通も反応しない。
そんな見学対象となった那珂たちとは違い、艦娘となった知り合いの目の前で繰り広げられる激しい戦いの姿に見学者たる生徒や教師たちは目を見張る。
さっきまで普段通りの軽快な雰囲気で自身らを案内してくれた生徒会長が、プールとはいえ水上を波しぶきを巻き上げながら激しく駆け巡り、時にはジャンプして上空から砲撃をして別の艦娘を圧倒しているその姿。
集団イジメ発覚以来、全員がなんとなしに避けていた内田流留が、イジメ以前に見たことがあるような笑顔を伴った活発さで那珂を始め同じチームにいると思われる艦娘をサポートしている姿。
地味で今まで存在すら知らなかったほど存在感の薄かった神先幸という少女が、普段の雑な髪の結びではなくオシャレなヘアスタイルで素顔をまったく恥ずかしがらずに全面に晒し、敵対する那珂や川内を始めとする別チームの艦娘からの攻撃をかわしつつ応戦するために機敏に動き細かい砲撃をする姿。
知り合いの別の一面を見て、見学者は彼女らの見方を一変させた。
生徒会の和子でさえ、那珂となった光主那美恵はもちろん神通となった幸が艦娘として戦う姿に、激しい動きのために言葉を失うほど呆然とした。事前の情報がある和子でさえそうなったのだ。他の生徒たちは和子以上に圧倒されているのは当然だった。
そんな中、メディア部の副部長は呆然としながらも本来の役割を全うするため、フェンス越しではあるが目の前で展開される那珂たち艦娘の訓練する姿を写真や動画に収め始める。
「す、すげ……会長。なんだ、これ?」
「あれが艦娘なんだ。なんかもう……」
「う、内田さんも神先さんもすごい。なんであんなことができるの……?」
「ねぇ和子ちゃん。神先さんのあの姿は見たことは?」
友人から尋ねられた和子は質問に頭を横に振り、2~3秒してから口を開いて答えた。
「ううん。会長の戦う様子は見たことあるけど、さっちゃんのは初めて。あれが……あのさっちゃんなんて、すごい。かっこいい!」
和子の言葉に友人はコクコクと素早く連続で頷き視線をプールの方へと戻す。
そして顧問の阿賀奈は那珂たちの姿を特に驚きもせず、ニコニコと見届けていた。
「うんうん。光主さんと内田さんは問題なしね~。神先さんは前から見違えるように動けるようになったわね~。成長が見えてて先生嬉しい!」
阿賀奈の隣に移動していた別の教師が阿賀奈に話しかけた。
「四ツ原先生は彼女たちの姿を見て驚かないんですか?」
「そういや先生全然ビックリしてないですよね。なんで?」
近くにいた生徒も尋ねる。
阿賀奈は周囲の彼らの視線を受け、鼻をフフンと鳴らして自慢げに答えた。
「そりゃ~ね~。私艦娘部の顧問ですもの。光主さんたちの訓練は夏休み中に何度か見たことあるんですよ~だ。まだあの娘たちが荒削りで未熟な動きの頃から、知ってるんですから!」
「へぇ~~~先生すげぇ! ちゃんと顧問してたんだ~~。」
「あがっちゃ……四ツ原先生ただ胸でかいだけじゃないんですね~。」
「ちょっと○○君、それセクハラよ。」
阿賀奈の説明に生徒たちは色々感想を交えて湧き立つ。
半端に誇張を混じえていたが、阿賀奈本人以外はその場にいるものは誰もわからないので、周りの生徒や教師は阿賀奈の言葉を信じ、彼女に感心を示した。
阿賀奈の心境としては周りの生徒や教師に対する優越感で満足し、また那珂たち三人が自分が見たことある以上に激しい動きをして艦娘らしさを示していたことにも満足し、自身が艦娘の世界に関わっていることを再認識して、自身の立ち位置にも満足していた。
様々な要素から来る満足感で阿賀奈は有頂天状態だった。自然と饒舌さも高まる。
「エヘヘ~先生のこと尊敬してる?」
「してるしてる、マジしてる。」
「さすがあがっちゃん!俺達一年生はあがっちゃんを応援してるぜ!」
男子生徒は調子よく阿賀奈をもり立てる。女子生徒はそんな男子生徒を冷ややかな目で見ていたが、内心は素直に阿賀奈の事を見直していた。変に言葉を投げかけると面倒な態度を取り始めるのがわかっていたから、あえて口には出さずにいた。
プールのフェンス越し、外からはそんな見学者の声援や雑談の声がワイワイと響き合っていた。
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激しい動きが落ち着き、やがて攻守交代となって初めて那珂たちは外野の声を気にして反応する余裕を取り戻した。
「あ~、なんか騒がしいと思ったら、あそこにいるのうちの学校のみんな?」
「うん。あたしと神通ちゃんが案内してきたんだよ。」
川内は汗を拭いながら、傍にいた那珂に確認した。那珂が軽快に返すと、少し離れたところにいた神通もコクコクと頷いてその話に加わった。
川内としては話せる知り合いは生徒会メンバーくらい(特に三戸)のため、フェンスの先にいた生徒・教師たちに特に反応を返さなかった。
代わりに那珂が手を振って返した。
「お~い、みんなぁ~! どーお!?」
那珂が声をかけると、フェンスの先からの声援は声量が増した。
「わ~~~会長~! かっこいいですよーー!」
「なみえちゃん素敵~!」
「艦娘かっけぇぞーー!」
大勢の声援にかき消されつつも、和子とその友人も声をかける。
「さ、さっちゃーん! 私、ちゃんと見てますからねー!」
「神先さん、がんばーーー!!」
那珂は期待通りの反応に満面の笑みで両腕を振って見学者に答え、神通もまた和子と友人の二人に対してややうつむいて照れを浮かべつつも、手を小さく振って反応を示した。
那珂と神通は自校の生徒からの声援に、俄然やる気を回復させた。
ひとしきり反応してみせた二人は五十鈴らの方に向き直して練習の次の指示を仰いだ。
「ゴメンゴメン。うちの学校の皆だったからさ、ついはしゃいじゃったよ。」
「(コクコク)」
「まぁいいわ。……ところで川内はえらくおとなしめだけど、声掛けなくていいの?」
五十鈴は軽い溜息を吐きつつ、川内の反応が気になったので言及した。それに対して川内は慌てて両手を振って答える。
「ああぁ!あたしはいいのいいの。知ってる人いないし。さー、ぎりぎりまで練習続き続き!」
それを見て心中察した那珂と神通は
「そーだね。時間そろそろなくなってきたし、よそ見はこれくらいにして続きやろー!」
「そう、ですね。川内さんもおっしゃってることですし、続き、しましょう。」
と、川内と同様の勢いで発破をかけて五十鈴はじめ皆を促した。
あからさまに取り繕ったような態度を取る川内に五十鈴は訝しげな表情を送るも、さして気に留めるほどでもないと感じ取り、那珂の言葉に沿うことにした。
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満足できる出来とは必ずしも言えないが、やれるだけのことはやった。那珂たちはそう強く心に刻み込んで演習用プールを後にした。見学者たちはすでに本館に戻り、演習試合見学の準備を進めているためプール施設の外にはすでに誰もいない。
那珂たちはひとまず艤装を工廠に預け、待機室へと戻ることにした。といっても自分たちが普段使っている部屋ではない。まだ人数が少ないために予定としている第二の待機室だ。そこには神奈川第一鎮守府の艦娘も揃っている。そこで、西脇提督および村瀬提督代理の鹿島から、今回の演習試合についての最終説明を聞くことになっている。
本館に戻り、階段を上がろうとすると、ロビーで回りの見学をしていた同級生に出くわした。
「あ、なみえちゃーん。今戻ってきたの?」
「うん。○○ちゃんたちは何してるの?他の人は?」
「そこの会議室で待ってるように言われたけど、退屈だからちょっと見させてもらってるよ。あ、そうそう。メディア部の井上さんがね、なんか提督さんに会いたいとか言って上がって行っちゃったけど、あの娘ほうっておいて大丈夫だった?」
多少の勝手な行動は許容と思っていたため、那珂は特段気にせず返した。
「うん。取材したいんでしょ。好きにさせてあげてるの。一応その辺は提督にも伝えてあるからさ。彼女にはぁ~、うちの鎮守府の宣伝のため駆け回ってガシガシ働いてもらわないとね~。」
「あ、アハハ……。さすがなみえちゃん。そういうところは抜け目ないね~。やっぱ生徒会長さまさまだわ~。」
那珂の言い分にたじろぐ同級生。那珂は彼女の反応を純度100%の褒め言葉として受け取るのだった。
同級生の女子生徒らはもうしばらくロビーにいるというので、那珂は皆と一緒に待機室へすぐさま向かうことにした。
この後の見学者の段取り・まとめ役は、明石や工廠の技師の数人、それからボランティアとして加わってる大鳥夫人と娘の高子が執り行うことになっている。なお、この時点ですでに五月雨らの中学校から、そして西脇提督の会社からも数人が見学者として加わっていた。
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那珂達が待機室へ入ると、長机に沿って並べられたパイプ椅子に、神奈川第一の艦娘たちがすでに何人か座って待っていた。まだ来ていないものもいたが、那珂が話したかった天龍はすでに同室にいて、入ってきた那珂にすぐに気づいた。
那珂の姿を見るやいなや天龍は小走りで近寄ってきた。
「おぅ那珂さん! いよいよだなぁ~。そっちはもう訓練バッチリか?」
顔を思いきり近づいててきた彼女のため、那珂はのけぞりながら返す。
「アハハ。いちおーやれるところまでやったよ~。でもうちの皆はそっちほど練度高くないから多分勝てないよ~~。」
「はっ。言っとけ。どーせあんたが何かしら秘策考えてるんだろ?」
那珂は指を下瞼の下に当ててわざとらしく泣く仕草をする。すると天龍は那珂の背中をパシパシと叩いてツッコんだ。そのツッコミに那珂はやはりわざとらしく咳をして返すのだった。
那珂が天龍に絡まれているため、他のメンツはお先にとばかりに自分たちが座るべき空いている席へと向かっていく。そんな中唯一那珂と残ったのは五十鈴だった。というよりも天龍が素早く五十鈴も絡んで離そうとしなかったからだ。
「なぁ五十鈴さん。那珂さんほどじゃねーけど、あんたと戦えるのも楽しみなんだぜ。」
「お生憎様。私はメンバーの方が気がかりでそれどころじゃないわ。対決したいなら、うまく私達の作戦を崩してそうなるよう持ち込んでよね。」
「言ったな~うっし。御膳だてしてもらえるよううちの鳥海さんに言っておくぜ。」
冷静にあしらう五十鈴に対しても期待していた反応をもらえたのか、天龍は見るからに発するウキウキした高揚感を隠そうともせず、那珂たちから離れて行った。
「さて、あっちがどう動いてくるやら。不安は正直あるんだよねぇ。」
「そうね。編成を見るからに、機動力と後方からの支援体制は相当なものと踏んでるけど、私達だってそれなりに作戦は立てたし、後は私達があちらの動きにきちんと対処できるかにかかってるわ。」
那珂と五十鈴は歩きながら続ける。
「あんた、天龍さんとの対決……一騎打ちとか本当にするつもりないわよね?」
「さすがにする気はないよぉ。あたしだって皆と戦う方がいいし。ま~あちらさんの作戦でどーしてもそういう展開になったら仕方ないとは思うけどね。」
那珂の言い方に怪訝な表情を浮かべる五十鈴。
「あ、五十鈴ちゃんその目はあたしのこと信用してないなぁ~?」
「ま、いいわ。先にあんた自身が言ったこと反故にしないでよね。」
「もち。でも最初の展開ではあたしと長良ちゃんは自由していいんだし、そこでなんとか天龍ちゃんの欲求を満たして、残りはあたしたちの望みどおりの展開させてもらうけどね。」
「はいはい。あんたはいいけど、長良にはあくまで撹乱目的ってこと念入りに叩き込んでおいてよね。」
天龍の出方を気に留めつつ、那珂と五十鈴はこれから説明される演習試合の内容を聞くため、用意された席に座って提督と鹿島を待つことにした。
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ほどなくして提督と鹿島が部屋に入ってきた。二人に手招きされて促されるように後から入ってきたのは、ネットTV局のスタッフ数人と、那珂の高校のメディア部副部長の井上だった。彼女はタブレットを手に、ぴょこんと棒を生やしたバンドを頭に取り付けて姿を現した。
彼女が何をしているのかわからなかった那珂だが、よく見ると棒の先にクリップがあり、そこにカメラのようなものが挟まれている。カメラを頭に取り付け両手を自由にし、タブレットでメモ書き。どうやらあのスタイルが彼女の取材スタイルなのだと理解できた。変な人だなと、他人からの自分の評価を棚に上げて那珂は彼女を評価した。しかし広報周りの大事な協力者なので、彼女の好きにやらせてあげようという意識は変わらない。
那珂は視線を離し、静かにこれからの演習試合の説明を待った。
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「えー、それではこのあとの演習試合について、改めて説明をいたします。」
提督の大きめに張った声が部屋に響き渡る。那珂たち艦娘は咳をしたり座り方を整えたりして気を張りつめた。
「演習試合はうちの敷地外、河口付近の堤防沿いの海域で行うこととします。ただ、うちの皆は知っての通り、川の反対側には稲毛民間航空記念館や水門の設備がある。誤射があるとマズイので、なるべく突堤含めた浜寄りで戦ってくれ。」
「うちの皆さんもよろしいですか?民間施設に影響があるといけませんので……」
「わかってるよ鹿島さん。」
「そうですよ~。」
鹿島が恐る恐る注意すると、神奈川第一の艦娘たちは口々に喋り理解を示した。
提督は神奈川第一の反応を確認してから続ける。
「見学者が大勢いらっしゃるので、時間短縮と試合の充実と緊張感を保つために時間制限を設けたいと思います。前半30分の後半30分。合計1時間。途中休憩は10分程度。これは神奈川第一の鹿島さんないし村瀬提督に相談して了承済みです。被弾判定は基本的には前後半通じて共通。前半で轟沈した者は後半参加不可。それから……」
言い終わると西脇提督はチラリと鹿島に視線を送った。鹿島は柔らかく微笑んで返す。その鹿島の返しに提督はドギマギした様子を一瞬見せる。
那珂は提督が一瞬顔を赤らめたように見えたので、なんぞあのおっさん(怒)と心の中で愚痴りツッコんだ。そしてふと神奈川第一の方に視線を送ると、霧島と目が合った。
霧島は視線だけで、あれは仕方がないと言い、何故か那珂は霧島の心のセリフがわかった気がした。那珂は軽く溜息を吐いて提督の反応は気にしないことにし、説明への集中を再開した。
提督の動揺を過敏に察知したのは、鎮守府Aからは那珂、神奈川第一からは霧島の二人だけであった。
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説明が一通り終わり、艦娘たちはそれぞれ互いに話し合う雑談タイムを迎えた。
那珂が提督をふと見ると、神奈川第一の鹿島と話していた。そして普段自分らに見せぬ、えらい照れ具合を隠そうともせず接する姿を周囲に知らしめている。
那珂はイライラして歯ぎしりする真似をしていると、自分らの集団から離れた霧島が那珂に話しかけてきた。
「お久しぶり、那珂さん。」
「……あ、霧島さ~ん!」
那珂は久しぶりの人物に、イライラの雰囲気を瞬時に解いて年上への甘えモードに切り替えた。
「今回は敵同士、頑張りましょう。」
「はい。練度じゃそちらに全然敵わないですけど、一矢報いてみせます。」
「フフッ。楽しみにしてるわよ。」
「は~い!」
そうやり取りした後霧島は踵を返して戻ろうとするが、すぐに方向転換して那珂に接近してボソッと耳打ちした。
「そちらの提督のあの反応、どうか許してあげて。」
「えっ!? な、何がデスカ?」
「うちの鹿島って娘、あれで中々天然でね。自分が無意識に異性を惑わしてるっていう自覚が全く無いみたいなの。言ってしまえば、魔性の女ね、あの娘。」
「ま、魔性の女って……。」
那珂は霧島の表現に苦笑を浮かべて若干引いてみせた。
鹿島という艦娘とは、ほとんど交流らしい交流はしたことがない。以前の館山イベントでも、チラリと会って全員で話を聞いた程度。もっとも長くて、ステージショー出演の際、神奈川第一の保護者として同じ場にいて軽く雑談したくらいだ。
それでも言われてみて気づいたが、雰囲気から感じ取れるものは一筋縄ではいかなそう。
いまだ照れまくって鹿島と話している提督に睨みを効かせながら那珂はそう思った。
霧島は那珂のいちいち見せる反応にクスリと微笑し、背中をポンと叩いて離れていった。
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那珂は五十鈴に呼ばれ、わずかに離れていた集団に戻った。那珂が集団の輪の中に戻ってきたのを確認すると、五十鈴が音頭を取り始めた。
「皆、最終確認をするわよ。この後15時から堤防沿いで試合よ。見学者の皆さんは堤防に沿って並んで見学するとのことで、そこがいわば観客席となるわ。私達は堤防の海側約50mポイントに陣形を作って並ぶことになるわ。神奈川第一は私達から150m離れた位置に並ぶそう。提督の合図で演習試合開始。30分ごとの時間制限があるから、少し作戦を調整する必要があると思うのだけど、どうかしら?」
五十鈴の言葉に那珂は頷く。続いて一同も相槌を打った。
「そーだね。提督ってばいきなり時間制限のこと言うんだもん。ずるいよね~。でもま、うちらとしては編成が活かしやすくなったと思うな。」
「といいますと?」
五月雨がまず一言で質問を投げかける。それには神通が答えつつ確認した。
「那珂さんのおっしゃりたいこと、なんとなくわかります。前半戦は最初の編成で行く。そういうことだと思います。そうですよね?」
那珂は言葉なくコクンと強く頷いた。
「あ、そっか。そうすると二次編成は後半戦にとっておくとそういうことなんですね?」
「決めた編成の切り替えがちょうど良いということなんですよね。」
五月雨に続き時雨が納得の意を見せる。それに駆逐艦勢が相槌を打って続いた。
「そうすると旗艦あたしの二次編成は後半戦の楽しみってことかぁ。思いっきり活躍できるタイミングがなぁ~~。なんか悔しいわ。」
駆逐艦たちの反応とは違って川内は本来感じて表すべき喜びやノって意気込む。それに長良が続いた。
「あたしもなんとか活躍したいなぁ~!ねぇりんちゃん!あたしは前半思いっきり動いていいんだよね?」
「ある程度はかまわないけど、あんたは生き残ることを念頭におきなさい。やられてしまったら、後半戦の陣形で護衛役が減ってしまうでしょう。」
「うーん。那珂ちゃんとせっかく一緒なんだから、倣って動きたいんだけどなぁ。」
長良の言い分に五十鈴は額を抑える。代わりに長良に言ったのは那珂だ。ただしそれはツッコミではなくフォローだ。
「アハハ。長良ちゃんは結構動けそうだし、あたしと一緒に戦いの前線を体験してみよっか。だから五十鈴ちゃん、長良ちゃんのことはあたしに任せてくださいな。」
「那珂ちゃ~ん……ありがと!一緒にがんばろーね!!」
長良は那珂の手を握りブンブン振って喜びを示す。那珂もフィーリングが合うのか、同じようなにこやかオーラを振りまいている。
長良の様子を見ていた名取はうらやましげにしていたが、この場で愚痴をこぼしてしまうことはできなかった。名取のモジモジとした様子を見た神通はその意図するところがなんとなくわかっていた。自身も引っ込み思案なだけに、そして周囲に対して気を使ってしまって言えないことを自覚していたのでなおさらだ。
だからこそ、神通は彼女を代弁して言ってしまうほどのお節介を焼く気はサラサラない。黙って見守ることにした。
その雰囲気に乗じてお喋りをし始める艦娘達を諌めるため五十鈴は一度咳払いをし、皆に編成を再確認させることにした。ただ待機室には神奈川第一の面々がいるため、五十鈴たちは会話の自然な流れを利用して退室しひとまず自分たちの本来の待機室に入り、身近な机を囲んで話を再開した。
○神奈川第一鎮守府
独立旗艦:重巡洋艦鳥海
前衛艦隊
旗艦:軽巡洋艦天龍
軽巡洋艦龍田
駆逐艦暁
駆逐艦響
駆逐艦雷
駆逐艦電
支援艦隊
旗艦:戦艦霧島
軽空母隼鷹
軽空母飛鷹
駆逐艦秋月
駆逐艦涼月
○鎮守府A(千葉第二鎮守府)
<初期編成>
本隊(旗艦:五十鈴) 前→後ろ
那珂 不知火 五十鈴
長良 夕立 川内
支援艦隊(旗艦:妙高) 前 後ろ
五月雨
妙高
名取
時雨
神通
村雨
<二次編成> 前→後ろ
本隊(旗艦:川内)
不知火
時雨
川内 夕立
村雨
五月雨
支援艦隊(旗艦:妙高)
長良
那珂 妙高 神通 名取
五十鈴
「時間制限が加わったのはあたしたちにとってラッキーだね。あたしたち有利に持ち込むことも十分可能でっす。みんながんばろー!」
硬い表情になり始めている皆を鼓舞するため、普段どおりの素っ頓狂な明るさを伴わせながら那珂は手を振り上げて声を上げる。
「作戦と陣形はあるけど臨機応変に頼むわ、皆。それから妙高さん。支援艦隊の旗艦、どうかよろしくお願いします。」
「かしこまりました。後方の指揮はお任せ下さい。」
那珂の言葉に五十鈴の言葉。妙高も決意を口にし、他の艦娘もそれに続いて返事をする。
「よっし神通。チーム違うけど、あたしたちも頑張ろうね。」
「(コクリ)」
川内の意気込みに神通が言葉なく頷く。
「僕達も役割頑張るから、ゆうもしっかりやるんだよ? 不知火さん、どうかゆうのことよろしくね。」と時雨。
「あたしは全然問題ないっぽ~い!川内さんも那珂さんもいるしぃ~~。」
「了解致しました。手綱をにg……サポート万全にいたします。」
「今、手綱を握るって言おうとしたんじゃ……」
「しっ、さみ。言わぬがなんとやらよ。」
時雨の言葉にいつも通り心の中のまま返す夕立。そんな夕立の僚艦として不知火が返事をする。わざとなのか素なのかわからぬ不知火の言い間違いに対しては五月雨と村雨が反応したが、決意の掛け合いの雰囲気を守るためにそっとしておくことにした。
試合前最終確認を終えた那珂たちは、待機室を出て工廠へと向かった。本格的な他鎮守府との演習試合、那珂たちはいざ臨む間近になって一気に緊張を増し、固い面持ちで歩みを進める。その足取りは己の感情に従った結果、軽くなる者・重くなる者とバラバラだった。