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空の上のペダル屋さん

遊ぼうよ。ぼくら楽しいから、ペダルをふむんだよ。
ペダルをふんで、はじめよう。
このはしごをのぼって、あのおうちに行けばペダルは手に入るよ。

息をするように遊ぼうよ。
きみだけのペダル、手に入るよ。

緑の絨毯。春草の匂い。風にまかせ、ちょうちょがひらひらとんでいきます。
澄んだあおぞらの下、どこまでも広がる野原の上で、ひつじさんはおひるねをしていました。
そんな夢をみていたひつじさんの鼻先に、ちょうちょがちょこんととまりす。
「そうだ、ペダルを買おう!」
ひつじさんはとつぜん目を覚まし、むくっと起き上がります。
ひつじさんのミシンのペダルはとても古くなっていました。
踏むたびにギシギシと音が鳴ります。
ひつじさんにとってミシンのペダルはなくてはならないものでした。
ペダルを踏むことで紡がれていく糸と糸は、ひつじさんにとって、息をすることそのものだったからです。

ひつじさんは野原を歩いていきます。
少し歩いたところに、空に向かってすっくとのびているはしごがありました。
はしごの横には立て札があり、木の板に青いペンキでこう書かれています。
[空のはしご ペダル屋ゆき]
ひつじさんはそのはしごに足をかけ、ぐんぐんのぼっていきます。
どれだけのぼったでしょうか。頭上でざわざわと風の音がなっています。
ひつじさんが見上げると、そこには木の枝が四方八方にのびていて、葉っぱが生い茂っていました。
そんな枝や葉っぱのすきまに幹が見えます。
よく見ると扉がたてつけてありました。
ひつじさんはその扉を開けて、中に入っていきます。

「コンコンコン。青い小鳥さん、こんにちは。ペダルの注文をしてもいいですか」
青い小鳥さんはちょうど、新しいペダルの設計図を書いていた時でした。
「やあ、こんにちは。ひつじさん、ご注文は何でしょう」
「ミシンのペダルが古くなってしまったのです。新しいペダルをつくってくれませんか」
「もちろんです。今晩中につくりましょう。明日の朝、取りにいらしてください」

その日の夜、太陽が沈むと、お月さまが出てきました。
ペダルを踏むとミシンが動くには、どんな魔法をかければいいだろう。
青い小鳥さんは、一本の毛糸とお手製のペダルを持ってお月さまのところへ行きます。
「お月さま、お月さま。このペダルを踏むと『回る』魔法をかけたいのです。ひかりの粉をいただけませんか」
「いいでしょう。さあ、ペダルをここへ」
お月さまがゆらゆらと揺れると、ひかりの粉がふってきます。
それと同時に、青い小鳥さんは一本の毛糸をペダルに結び、呪文を唱えます。
「回れぇ、回れぇ。繋いだ糸が、くるくる、くるくると、紡がれていくように回れぇ。」
ペダルに結ばれた毛糸が、くるくると円を描くように回り出します。

次の日の朝、ひつじさんがまたやって来て、扉を開けました。
「青い小鳥さん、ミシンのペダルは出来上がりましたか」
「もちろん出来上がりましたよ。こちらにペダルと、ミシンがあります。どうぞ、ためしてみてください」
ひつじさんがペダルをふみます。すると、ひつじさんのペダルをふむ運動は、回転運動に変わって、糸と糸が紡がれていきます。
「わあ、とてもすてきなペダル。青い小鳥さん、ありがとう。お礼に毛糸の座布団をどうぞ」
青い小鳥さんは、ひつじさんから毛糸の座布団を受け取りました。

水の流れる音。穏やかな陽気。野原に建った水車小屋の窓の中へ、ちょうちょがひらひらと入っていきます。
その水車小屋の中で、フェネックさんはおひるねをしていました。
そんな夢をみていたフェネックさんの鼻先に、ちょうちょがちょこんととまりす。
「そうだ、ペダルを買おう!」
フェネックさんはとつぜん目を覚まし、むくっと起き上がります。
フェネックさんのピアノのペダルはとても古くなっていました。
踏むたびにギシギシと音が鳴ります。
フェネックさんにとってピアノのペダルはなくてはならないものでした。
ペダルを踏むことで紡がれていく音と音は、フェネックさんにとって、息をすることそのものだったからです。

フェネックさんは野原を歩いていきます。
少し歩いたところに、空に向かってすっくとのびているはしごがありました。
はしごの横には立て札があり、木の板に青いペンキでこう書かれています。
[空のはしご ペダル屋ゆき]
フェネックさんはそのはしごに足をかけ、ぐんぐんのぼっていきます。
どれだけのぼったでしょうか。頭上でざわざわと風の音がなっています。
フェネックさんが見上げると、そこには木の枝が四方八方にのびていて、葉っぱが生い茂っていました。
そんな枝や葉っぱのすきまに幹が見えます。
よく見ると扉がたてつけてありました。
フェネックさんはその扉を開けて、中に入っていきます。

「コンコンコン。青い小鳥さん、こんにちは。ペダルの注文をしてもいいですか」
青い小鳥さんはちょうど、新しいペダルの型をつくっていた時でした。
「やあ、こんにちは。フェネックさん、ご注文は何でしょう」
「ピアノのペダルが古くなってしまったのです。新しいペダルをつくってくれませんか」
「もちろんです。今晩中につくりましょう。明日の朝、取りにいらしてください」

その日の夜、太陽が沈むと、お月さまが出てきました。
ペダルを踏むとピアノが鳴るには、どんな魔法をかければいいだろう。
青い小鳥さんは、一本のピアノ線とお手製のペダルを持ってお月さまのところへ行きます。
「お月さま、お月さま。このペダルを踏むと『伸びたり切れたりする』魔法をかけたいのです。ひかりの粉をいただけませんか」
「いいでしょう。さあ、ペダルをここへ」
お月さまがゆらゆらと揺れると、ひかりの粉がふってきます。
それと同時に、青い小鳥さんは一本のピアノ弦をペダルに結び、呪文を唱えます。
「伸びろぉ、切れろぉ。繋いだ音が、長くなったり、短くなったり、紡がれていくように伸びろぉ、切れろぉ。」
ペダルに結ばれたピアノ線が、伸びたかと思えば切れたり、また伸びたかと思えば切れたりをくりかえします。

次の日の朝、フェネックさんがまたやって来て、扉を開けました。
「青い小鳥さん、ピアノのペダルは出来上がりましたか」
「もちろん出来上がりましたよ。ここにペダルと、ピアノがあります。どうぞ、ためしてみてください」
フェネックさんがペダルをふみます。すると、フェネックさんのペダルを踏むたびに、音の長さは長くなったり、短くなったりして、音と音が紡がれていきます。
「わあ、とてもすてきなペダル。青い小鳥さん、ありがとう。お礼にオルゴールをどうぞ」
青い小鳥さんは、フェネックさんからオルゴールを受け取りました。

「ママ、このペダル、ぼくの足には大きすぎるよ」
「ほんとうねぇ、三輪車が進むためには互い違いに、ペダルが上がったり下がったりしないといけないのに。これじゃあ進めないわねぇ」
野原に通った一本の道で、三輪車に乗る練習をしていたチンチラの親子の方へ、ちょうちょがひらひらととんでいきます。
そんな三輪車の片方のペダルの上に、ちょうちょがちょこんととまります。
「そうよ、ペダルを買いましょう!」
チンチラのお母さんはそう言いました。
その三輪車のペダルはチンチラの子どもにとってとても大きいものでした。
それになんだか、わが子には合わない見た目なように、チンチラのお母さんには思えました。
チンチラの親子にとって三輪車のペダルはなくてはならないものでした。
ペダルを踏むことで紡がれていく「わだち」は、チンチラの親子にとって、息をすることそのものだったからです。

チンチラの親子は野原を歩いていきます。
少し歩いたところに、空に向かってすっくとのびているはしごがありました。
はしごの横には立て札があり、木の板に青いペンキでこう書かれています。
[空のはしご ペダル屋ゆき]
チンチラの親子はそのはしごに足をかけ、ぐんぐんのぼっていきます。
どれだけのぼったでしょうか。頭上でざわざわと風の音がなっています。
チンチラの親子が見上げると、そこには木の枝が四方八方にのびていて、葉っぱが生い茂っていました。
そんな枝や葉っぱのすきまに幹が見えます。
よく見ると扉がたてつけてありました。
チンチラの親子はその扉を開けて、中に入っていきます。

「コンコンコン。青い小鳥さん、こんにちは。ペダルの注文をしてもいいですか」
青い小鳥さんはちょうど、新しいペダルにやすりをかけていたところでした。
「やあ、こんにちは。チンチラさん、ご注文は何でしょう」
「三輪車のペダルが大きすぎるのです。新しいペダルをつくってくれませんか」
「もちろんです。今晩中につくりましょう。明日の朝、取りにいらしてください」
「先にペダルの大きさを見たいわ」
空の上のペダル屋さんにはいろいろな形のペダルが置いてありました。
チンチラのお母さんは一回り見てから、少しあごに手を当て考えました。
そんな様子を見かねて、青い小鳥さんが言います。
「今、やすりをかけているこのペダルはいかがでしょう?」
そのペダルはチンチラの子どもの足にちょうどよい大きさに見えました。
そして見た目もとてもすてきです。
「ええ、これにするわ。よろしくお願いします」

その日の夜、太陽が沈むと、お月さまが出てきました。
ペダルを踏むと三輪車が走るには、どんな魔法をかければいいだろう。
青い小鳥さんは、一本のチェーンとお手製のペダルを持ってお月さまのところへ行きます。
「お月さま、お月さま。このペダルを踏むと『上がったり下がったりする』魔法をかけたいのです。ひかりの粉をいただけませんか」
「いいでしょう。さあ、ペダルをここへ」
お月さまがゆらゆらと揺れると、ひかりの粉がふってきます。
それと同時に、青い小鳥さんは一本のチェーンをペダルに結び、呪文を唱えます。
「上がれぇ、下がれぇ。ペダルを踏むと進んで、わだちが紡がれていくように上がれぇ、下がれぇ。」

「あれれ、おかしいぞ」
ペダルに結ばれたチェーンはびくとも動きません。
青い小鳥さんの魔法は効いていないようです。
青い小鳥さんは考えます。
お月さまのぴかぴかのひかりを見ながら、青い小鳥さんは今までのことを思い返しました。
三輪車はどうして互い違いに、ペダルが上がったり下がったりするんだろう。
ぼんやりとしていたぴかぴかのひかりの中に、ひらめきが生まれます。
「そうだ、『回る』魔法…『伸びたり切れたりする』魔法…」
「お月さま、お月さま。また、ひかりの粉をいただけませんか。このペダルを踏むと『回る』魔法、そして『伸びたり切れたりする』魔法をかけたいのです。」
「いいでしょう。さあ、ペダルをここへ」
お月さまがゆらゆらと揺れると、ひかりの粉がふってきます。
それと同時に、青い小鳥さんは一本のチェーンをペダルに結び、呪文を唱えます。
「回れぇ、回れぇ。そして伸びろぉ、切れろぉ。ペダルを踏むとチェーンが回って、長くなって、短くなって、わだちが紡がれていくように回れぇ、回れぇ。そして伸びろぉ、切れろぉ。」
ペダルに結ばれたチェーンが、くるくる回り出し、伸びたかと思えば切れたり、また伸びたかと思えば切れたりをくりかえします。
回って、伸びて、切れて…その動きはやっぱり「ひとつ」になって、青い小鳥さんが思った通り、「上がって、下がって」になっていきました。

次の日の朝、チンチラの親子がまたやって来て、扉を開けました。
「青い小鳥さん、三輪車のペダルは出来上がりましたか」
「もちろん出来上がりましたよ。どうぞ、ためしてみてください」
青い小鳥さんが三輪車にペダルをとりつけます。そして毛糸の座布団をサドルに、オルゴールをペダルをふむと鳴るようにとりつけました。
チンチラの子どもがペダルをふみます。すると、ペダルはチンチラの子どもの足にぴったり。ペダルを踏むたびに、チンチラの子どもの足は上がったり、下がったりして、わだちが紡がれて、音楽が鳴ります。
「わあ、とてもすてきなペダル。青い小鳥さん、ありがとう」
チンチラのお母さんが言います。
「わあ!やっぱりママが選んだペダル、すてきだね!!」
チンチラの子どもがおめめをぴかぴかにして言います。
「補助輪がはずれたら、ぼくたちは自分で選んでいかなきゃいけない。こんどは自分で選ぶんだよ。さあ、気をつけてお帰り」
青い小鳥さんが羽をぱたぱたさせながら言いました。


さんびきがペダルをふむよ。
みっつの物語がはじまるよ。
ペダルをふんで、息をして、
ずぅっと、ずっと遊ぼうよ。

きみの近くにも、はしごはあるよ。
きみだけのペダル、ふみだそうよ。

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