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日光に消えかかった…。

…日光の中禅寺湖と言えば、華厳の滝と共に超有名な景勝地だ。
しかし、中禅寺湖の西側に「西ノ湖」という小さな湖があることを知っている人は少なかろう。

地図を見て「ここに行ってみようか?」と思い立ち、それを即行動に移せるのは若さの特権だ。
車を道際の小さな駐車場に入れると、カメラバックひとつ持って、熊笹の生い茂る登山道へと分け入った。

まだ日は高くて、周囲には同じように湖を目指す人もいた。
徒歩で15分程度だったろうか。
西ノ湖は、静寂の中の湖だった。

素晴らしい景観かと言えば、凡そそういうわけでもない。
全く観光地化されていないということで、人もまばらで、静かなのだ。

周遊道も無いらしく、来た人は少し雰囲気を楽しむと帰っていく。
私はα8700iに望遠ズームをつけて、絵になりそうなものは無いかと探る。
数十枚撮影をした後、昼下がりの道を車へと戻る…はずだった。

…おかしい。
この場所は知らない。
どうも道を間違えたようだ。

磁石も持ってないし、当時は携帯電話すら一般的ではない時代だ。
なんと地図すら持ってきて無いではないか!。

歩き続けると、ついに全く知らない広い林道に出た。
川の音が聞こえる。

ここで私は大きな間違いをした。
「広い道なら、どこかに出るだろう」
…これは町中なら間違いでも無いが、自然深い場所では不正解である。
実際に後で地図で確認すると、道は砂防ダムで行き止まりになっている。

間違いに気付くまで時間を要した。
来たことがない道をただ歩くなんて、自殺行為だ!。
ようやくそれに気付いた私は、林道に入った場所へと戻った。

さて…それでどうするか。
方法はたったひとつだ。
湖に戻ること。
そこから再スタートすることだ。

明らかに日が陰ってきていた。
時間経過もあるが、空模様がえらく怪しい。
ここで初めて、恐怖を実感した。

周囲は熊笹の原。
人っ子一人いない。
怖い…怖い…怖いよー!!!。
なんとか声を出しながら歩く。
今にも熊と鉢合いそうだ。

斜め前方にピョンピョンと跳ねる動物がいる。
鹿だった。
小鹿ではあるが、結構大きい。
ここが平地なら、かわいい!と口走っていたろうが…ここは山奥だ。
声を出して牽制しつつ、歩き続けた。
熊じゃなくても、こういうときは怖い。

遠くに我が愛車の、白い姿が見えてきた。
足も自然と速まる。
うわー!と叫びながらドアを開け、運転席に滑り込んだ刹那、本当にバケツを引っくり返した様な豪雨が落ちてきた。
バクバクする胸を押さえながら、生きていることを感謝した。

これ以来、準備無く山には入らないと決めた。
私は、山岳関係の本や漫画は大好きだけど、登山の経験はほぼ皆無だ。
ど素人が、山をなめてかかると、手痛いしっぺ返しが来ます。

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