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もしも。

昔「あなた」(歌:小坂明子)という曲が流行った事がある。

別れてしまったか、死別したのかはわからないが、女性が既に無い彼に向かって「夢」を語る内容になっている。
それはとても小さな、細やかだが幸福な家庭の風景で、その小ささゆえに身近で、胸に染みるのだ。

私にも細やかな夢がある。
それは、自然が身近に迫る街に住処を構えて(借家で十分である)そこで暮らし、生涯を終えることだ。

街に近いことが肝だ。
田舎過ぎると暮らしづらい。
生活に大きな不便が無ければ、本当に小さな街で良い。
車で数十分走れば、撮影が出来るような場所に着ける事が出来れば満足だ。

実は一昨年の夏に、臨死に近いような体験をした。
気絶しかかっていたのかも知れない。
就寝中に自分の体が底無しに沈んで行き、回転しながら落ちていくのだ。
「ああ、これが死か?」と、覚悟を決めた。
突然で、断りも無く死んでしまう事への不義理を感じていた刹那、ゆっくりと体が着底し、同時に目が覚めた。
非常に気怠く、汗をかいていた。
熱中症にかかっていたのだ。

それ以来、孤独で死ぬ事への恐怖は少なくなった。
元々独りが好きな質だから、暮らす事への怖れは無いし、数年独り暮らしをしていたこともある。
アラ還となり、人生の終わりも朧だが見えるようになってきた。

人に助けられて、人を助けても来た半生だった。
ただそれは、自分が望んでいた道とは、少し離れた道であり、コースでもあった。
意思ではなく、運の悪さと言うものと、流されていく方向に引かれていく弱さが、道を違えてしまった原因と思っている。

悔いがあるわけでは無いし、戻れればと思う気も更々無い。
不幸であったと思ってもいない。
第一、不幸などと思うことは、助力してくれた方々に対し、不遜に過ぎるだろう。

私の半生は幸福だった。
ただ、最後くらいは好きに生きたい。
好きな場所で生き、好きな場所で終わりたい。
…それが可能であるなら。

セツブンソウ




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