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余ったワクチンは高齢者以外が接種すべき理由

ワクチンに伴う混乱が各地で乱発されている状況だが,すでに個別接種,集団接種を開始した都市部ではワクチンのキャンセル・ノーショー問題が多発しているようだ.つまり「予定された時間に患者が現れない」「急な体調不良で来れなくなった」という人が多発しているようなのだ.

原因はいくつかあって,まずそもそも複数の疾患を持つ高齢者は一定確率で体調が悪くなること,もう一つは認知症で予定日を忘れてしまう人や付添の家族などの問題で会場へ予定通りのアクセスが難しい人がいることである.普段から高齢者の予約制外来を行っていると,予約日を忘れたとか体調不良が原因で受診日を変更したいという人は10人~20人に1人は発生する.接種の現場でも数十人打てば,2,3人のキャンセルが出るものと考えておくべきだろう.

一方で国は現時点で「医療従事者等と接種券を持つ高齢者」以外の例外的な接種について,極めて不親切な対応しかしていない.

そもそも事務手続き上,現状では接種券(クーポン)を持っていない人が接種をする際は,医療従事者と同等にV-SYS IDを用いて,被接種者の名前入り接種券が印字された予診票を発行しないといけないが,V-SYSを操作できるのは基本型および連携型接種施設(概ね100人以上の職員がいる医療機関や医師会,実施主体である地方自治体)のみである.

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そこで国は「ワクチンが余れば原則として近隣の(接種券付き予診票を持っている)医療従事者か接種券を持つ高齢者に打つように」とは言っているのだが,医療従事者は既に所属医療機関や医師会などで接種予約を取りまとめて勤務日の調整までしているし,高齢者についてはそもそも接種券が全高齢者に配布されていない自治体も多く,すぐに代替で打てる人が見つかるわけではない.また,熾烈な電話争いを経てやっとの思いで別の会場での接種を予約し,そのつもりで予定を組んだという高齢者も多い.

また国の基本方針を無視して,優先接種対象者以外に打つにしても,接種時は接種券なし予診票を使用し,後日接種券付き予診票を発行して接種券部分を切って貼り付けるという方法(医療従事者等枠として請求)も紹介されているが,切って貼っての事務手続きが煩雑になり面倒である.(なお一部自治体では平等性を重んじるばかりに上記の手続すら認めず,個別接種を行う診療所などに対して「優先接種対象者以外には打つな,余れば捨てろ」と通知しているところもあるという)

上記のことを鑑みれば,5月初頭の段階では最も手っ取り早く混乱を招かない方法が,「自治体が自らその場でV-SYSを操作して,管理下にある職員や教員に打つ(=接種券付き予診票を発行する)」ということになる.数多くの自治体で余剰分を用いて職員が先行接種をしたのは,それが最も合理的だからであって,お手盛りだとかそういう批判を行う前に,「予診票の発行手続き」という事務手続き上の問題が存在することをもっと報道機関は報道すべきであろう.

にもかかわらずワクチンを無駄にするなと言っておきながら,政府の担当トップがキャンセル時に最も手続きが容易な自治体職員の接種を咎めるような発言をしているようでは,早期の感染の収束は見込めない.なお,自治体トップの接種については意見は色々あるだろうが,災害対策や冗長性の観点から市長・副市長のうち誰か1人は早期接種しておくというのが戦略上は正しいと考えられる.

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接種券が高齢者に行き渡るようになる5月下旬以降は,代替となる高齢者を見つけるのはより容易になると思われるが,高齢者であれば以下のような問題が予想される.

・連絡を受けたが着替えに時間がかかり時間までに会場に到着できない
・連絡を受けてその場でよく分からず「はい」と言ったが,理解しておらず会場に行かなかった,あるいは連絡を受けたことを忘れてしまった.
・連絡を受けて早めに接種を受けたがそのこと自体を忘れてしまい,家族にも知らせておらず,予定日に接種を受けに行った
・早めに接種を受けて2回目の日付を口頭で言われたが,その日付を忘れてしまった.
・ワクチンがファイザーのものかモデルナのものだったか把握しておらず,後日予約していた別の接種会場で異なるメーカーの2回目ワクチンを打った

これらの現実味を持って予想される混乱を考えれば,認知機能や身体能力が衰えている高齢者に限定して余剰分を接種するという方針は愚策だ.むしろフットワークが軽く,自分で接種日やメーカー名を確実に管理できる非高齢者に打ったほうが混乱は少ないと考えられる.そのために高齢者の接種完了を待たず,対象となる全国民に今のうちから接種券を送付しておくべきだと私は考える.

この余剰ワクチン問題もまた5月から7月にかけて,各地で色々なトラブルが報告され,問題提起がなされる事項になるだろう.


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