なぜ死者数が急増しているのか?
どこのメディアも現在死者数が急増している本質に切り込めてないなぁと思う.現場にいれば誰もが感じていることなのだが・・・.
最近の死者数が多い原因は,高齢者施設や医療体制が脆弱な病院で,「全滅」に近いぐらいの感染爆発が起きているからだ.
ちょっと軽い咳をしている人を2,3日見逃しただけで,あっというまにフロアの1/4ぐらいが感染してしまうというのが実態で,50床の病棟や施設ならば13人ぐらいまで一気に広がってしまう.職員も無症状で気づかずにウイルスをばらまいている人も少なくないだろう.感染対策が取れない認知症の人が混じっていたりすると,1/4どころかフロアの半分以上がコロナに感染して文字通り「ほぼ全滅」の状態になってしまう.
施設内とは言え,オミクロンだし,ワクチン4回打っている人も多いので,ほとんどは重症化せずにインフルエンザ様症状で終わってしまう.ただ基礎疾患の種類によっては,うち数人ぐらいは体力の低下でどうしても重度誤嚥性肺炎の合併や原疾患の増悪といった,発熱だけで済まない事態が起こる.通常であればそういう人は「体制の整った病院に転院して2週間で帰ってきて終わり」だが,「コロナ陽性」であるために転院先が限られてしまう.しかも転院先でも同様のクラスターが起きていて,転院することができない.
そうするともともといる施設内や病院内でこれらの重症患者を処理しないといけないが,まず設備がない.誤嚥性肺炎もひどくなれば一時的な呼吸器管理が必要だが,呼吸器がないし,誰も扱ったことがない.専門外の病気が合併しても,専門外の医者がそのままその施設や病院で手探りで対応しなければならない.そのような病院や施設では看護師の配置も手薄で,モニタリングも十分ではなく,野戦病院的になってどうしても治療の質は下がってしまう.
結果として転院難民はコロナ陽性でなければ生き延びたかもしれないが,死ぬ確率が高くなる.施設は元々ADLが低くて死期が近い人が多いが,病院の中には回復して自宅へ帰ることを前提で治療をしている人もいる.しかし,そのような人であっても本人家族がfull codeを希望しても呼吸器がないから挿管できない.施設内や病院内で呼吸器や治療薬,マンパワーの取り合いが起こる.
コロナ肺炎で死ぬのではない.「コロナ陽性」だから死ぬのだ.
その結果が今の死者数の増加につながっている.良い解決策はない.そういう運命の人だったのだろうと思うしかない.
ちなみに5類にして院内の隔離不要としたところで,今度は転院先の病院がクラスターになり重症が増えるので,そこでマンパワーやリソースが使われてしまって結局は転院できなくなる.行動制限や旅行支援を中止しても,誰かの持ち込みから発生する「院内あっという間に全滅」がゼロにできるわけでもない(総数は減るだろうが).
個々人にできることは,今はできるだけ施設や体制が整っていない病院に滞在することを避けることだ.外との接触が少ない家族が介護できるなら,その方が安全かもしれない.退院できる人は少々無理してでも退院しておいた方がいい.もし滞在し続けるのならば,最悪死ぬこともあるということを関係者全員が覚悟しておく必要がある.ウィズコロナとは単なる楽園ではなく「覚悟の求められる世界」である.
私は緩和賛成派の医療従事者だが,このあたりのことはよく理解しているので,親しい人が死ぬかもしれないという覚悟を持った上でその意見を表明している.一方で多くの非医療従事者は,覚悟のないまま言葉だけのウィズコロナを無責任に唱えているようにも見える.しかしウィズコロナの実態は上記に書いた通りだ.
覚悟のできない人はウィズコロナに賛同すべきではない.逆に言えばウィズコロナを希望するのであれば,いろいろなことに覚悟を持つしかない.
これを機会に伝えておきたいと思う.