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特別展「北斎 グレートウェーブ・インパクト ―神奈川沖浪裏の誕生と軌跡―」
こんにちは。
すみだ北斎美術館で、2024年6月18日(火)から8月25日(日)まで開催される特別展「北斎 グレートウェーブ・インパクト ー神奈川沖浪裏の誕生と軌跡ー」の内覧会に行ってまいりました。
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本展は《冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏》がどのような背景で誕生したか、またその図柄がさまざまに利用されてきた軌跡をたどり、海外で「Great Wave(グレートウェーブ)」の通称で親しまれる影響、広がりを紹介します。
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「冨嶽三十六景」は、北斎が70代で発表した各地から見える富士山をめぐる風景を紹介した錦絵の揃物。「神奈川沖」は、現在の横浜市神奈川区にあった東海道の宿場・神奈川宿の沖合いを意味します。
すみだ北斎美術館所蔵の《冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏》はとても状態が良いため、空の色がはっきりとして雲の形も明確なのが特徴。
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[通期展示 / 半期で同タイトルの作品に展示替え]
巨大な波に翻弄されながらも果敢に立ち向かうのは、鮮魚を江戸に送る高速船の押送船。その光景を前に超然と佇む富士山。
この絵を見るといつも、滑らかな水面が牙をむくその瞬間の低く唸るような音が聞こえてくる。渦巻くエネルギーを宿した静と動の美しさに惹き込まれる。
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プロローグ:新しいお札になったグレートウェーブ
2024年7月、20年ぶりに発行される新紙幣の図柄に採用された《冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏》。
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財務省によれば、日本の象徴ともいえる富士山をモチーフとしていること、葛飾北斎の代表作として世界の芸術家に影響を与えた作品であることが、採用の理由とされています。
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新札(千円券)見本 パネル画像提供:日本銀行金融研究所貨幣博物館 [通期展示]
第1章:江戸の西洋ブーム
鎖国のイメージが強い江戸時代ですが、西洋や中国の文化がゆるやかに流入していました。
ここでは《冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏》誕生の土壌となる海外の影響を北斎と門人らの作品を通じ紐解いていきます。
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享保5年(1720)の「洋書輸入の禁緩和」により、西洋の透視図法(線遠近法)を取り入れた浮世絵が盛んに制作されるようになります。
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18世紀初頭にベルリンで開発さた化学合成顔料プルシアンブルー(紺青)を使用した鮮やかな藍色が特徴の「冨嶽三十六景」シリーズ。
藍の濃淡が美しい《冨嶽三十六景 相州七里浜》は、シリーズ中でも藍一色で摺られた初期のものです。
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第2章:グレートウェーブ誕生
北斎が70代の時、デビューから約50年の研鑽を経て生まれた《神奈川沖浪裏》。第2章では、北斎の描く波がどのような影響をうけ変化してきたのかを検証します。
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琳派の絵師 酒井抱一が尾形光琳の百回忌に合わせて開催した遺墨展の図録『光琳百図』にある「金地二枚折屏風彩色浪」。ある時期琳派の絵師のひとりであった北斎がこの波の影響を受けた可能性が高いといわれています。
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これより30年以上も後に制作される《神奈川沖浪裏》の誕生を彷彿とさせる立ち上がる櫛形の波。
司馬江漢《相州鎌倉七里浜図》の影響を受けて描かれた『柳の糸』江島春望。
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左へ大きく半円を描き屈曲しながら伸び上がる北斎の「伸暢感覚」。
エネルギーを目一杯溜めて解き放つダイナミックな動き、構図の美しさに魅了される。
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龍の爪と波しぶきが相俟って何頭もの龍が蠢いているよう。荒れ狂う波と船は《神奈川沖浪裏》の波と押送船を彷彿とさせます。
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第3 章:グレートウェーブインフルエンス ─その波はどこに行くのか
世界に大きな影響を与えたグレートウェーブ。その波及力は衰えることなく現代美術や様々なプロダクトデザインに落とし込まれています。その軌跡をたどる第3章。
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惹き込まれたのが半纏。前身頃は波頭と千鳥のバランスが美しい。
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背面のダイナミックな碇の配置!素晴らしい構図に惚れ惚れする。着たい!
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2017年に外務省の方から北斎の「富嶽三十六景」が採用されると聞いてから、ずっと心待ちにしていたパスポート。
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「ツーリズムEXPOジャパン 2017」パネル画像提供:外務省
そしてLEGO。
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発売日に速攻で買った「THE GREAT WAVE」。
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波しぶきがちゃんと千鳥で表現されているのに驚嘆。
(記事「レゴの世界②〜LEGO " The Great Wave HOKUSAI ” 《富嶽三十六景 神奈川沖浪裏》」)
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エッシャーみたい。
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今回の展示ではありませんが…「神奈川沖浪裏」で私の中で真っ先に浮かんでくるのはディオール。ガリアーノの麻のドレスコート。
(記事「日出づる国へようこそ②〜「クリスチャン・ディオール、夢のクチュリエ」展」)
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クチュリエになったクリスチャン ディオールは、日本の女性が「着物を捨て去ることなく、伝統と近代を融合させる術を知っている」ことに感嘆していました。
ここでは波しぶきがスパンコールで表現されています。
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AURORA(常設展示室)に、北斎門人の露木為一が描いた「北斎仮宅之図」(国立国会図書館蔵)をもとにつくられた「北斎のアトリエ」再現模型が展示されています。
北斎数え84歳の頃、墨田区内の榛馬場に娘・阿栄とともに住み作品を制作していた様子が再現されているのですが、リアルで「今にも動き出しそう」と思っていたら、
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動くんです。それも錯覚か?と思わせるような微かな動き。凄いからくり人形だわ。
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《神奈川沖浪裏》を様々な視点から深掘りした今回の展示。この機会に、世界が愛するグレートウェーブに会いにぜひ。
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北斎 グレートウェーブ・インパクト ―神奈川沖浪裏の誕生と軌跡
会期:2024年6月18日〜8月25日
会場:すみだ北斎美術館
住所:東京都墨田区亀沢2-7-2
電話番号:03-6658-8936
開館時間:9:30~17:30 ※入館は閉館の30分前まで
休館日:月(7月15日、8月12日は開館)、7月16日、8月13日
料金:一般 1500円 / 大学・高校生 1000円 他