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「脱兎のごとし」―青ブラ文芸部「紅一点の魔物」企画参加記事

慶子は中学三年生。
手足が長く 痩せ気味。
でも 小学校の頃から
いつもリレー選手の補欠として
知る人ぞ知る選手だった

中三の夏 慶子のD中学校が
初めて全中学校陸上競技大会(仮名)
「駅伝」部門で県の代表校として
選ばれた。 校長先生他関係者や
父母会は大興奮。大会は地元開催だ。

早速 「駅伝選手チーム」が組まれ
15人の男子ランナーが 選抜された。
しかし チームにエースと言える選手は
一人しかいない。他は皆 どんぐりの背比べ
という頼りないチームだった。

選手名簿には 補欠として
慶子の名前がひっそりと書かれた。
他の参加校の関係者は「D中は女子を
補欠にいれる程 人選に苦労している」と
陰口を叩く

駅伝チームは前日 豪華な前祝い壮行会に
出席し、豪華な料理の数々を存分に賞味した
しかし 翌朝 選手の半数近くは 朝から何度も
トイレに駆け込んだ。普段食べつけない
ご馳走を 沢山たべすぎた

スタート地点に立ったD校の選手は
ふらつき 蒼い顔をして 出走した

参加校52校のうち D校は
41位前後をウロウロするばかり
レースの終盤にさしかかり14人目に
選ばれたチーム唯一のエースは、 
ひたすら走り なんと 順位を23位までにあげた

いよいよアンカーの出番。
しかし 運命の神は常に非常だ。
当初の予定のアンカーは 出番を待つ間に
体調をくずし始め倒れこんでしまう
 医師が点滴や注射を打つが 回復の兆しがない

D校は やむを得ず補欠の慶子をアンカーとして
出場させた

慶子のアンカー姿に 他校の人たちは
内心おどろいた。
「紅一点のアンカーか!! こりゃあ
楽しみだ」

真っ白な 長い鉢巻をつけた慶子は
紫のタスキを 23番目でうけとって
おもむろに走り出した。

鉢巻の端は 風で後ろに長く
たなびき始める
まるで 江戸時代の北前船の
出航を思わせる のっそり出足だった
たちまち 数人のランナーたちに追い抜かれる

慶子は表情を変えず 能面のような顔で
前の選手の背中を見つめる
ゴールまであと15メートル余の所で
沿道から 大きな慶子コールが起こる。D校の
友人たちだ。

この声は 慶子には魔法のような
呪文を授けた。海風を帆にいっぱい
はらんだ北前船のように 慶子は
走り出した。 まるでツンツンと
イチゴを摘むかのように 多くの選手を 抜いて行く

ラジオ中継していたアナウンサーが
急に 声をからしながら 叫ぶ
「早い 早い 紅一点の選手が
エースたちを 抜いて行きます。
D校頑張る D校強し!!」

慶子は 3位でゴールインした。
ゴールインと同時に 他の学校の
選手たちから 深いため息が 漏れる

次の日の地方新聞のスポーツ覧の見出しは
「わが県のD校 駅伝3位入賞。紅一点の魔物の起こした奇跡」と
大きく踊る

(1130字)

山根あきらさんの青ブラ文学部 題「紅一点の魔物」
企画に参加させていただきました。 山根様どうぞ
宜しくお願いいたします。少し字数がオーバーして
しまいました。お許しください

#青ブラ文学部 #紅一点の魔物 #山根あきらさん #短編

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立山 剣
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