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「潔く(いさぎよく)あれ」―#青ブラ文学部#「世の中に片付くなんてものはほとんどありゃしない」企画参加」
山根あきらさんの「青ブラ文学部:世の中に片付くなんてものは
ほとんどありゃしない」の企画に参加させていただきます
山根様 今回も おせわになります
題「潔(いさぎよく)あれ」
青海藩の城内では 新春の宴の会が
穏やかに 催されていた。
鼓 太鼓 琴の音が 波音のように
広がる。 宴はたけなわ
そこに 突然 家老の三太夫が
息を切らせて 宴席に入ってきた
「殿 一大事でございます。敵襲!!
隣国の 鬼山一族の 不意打ち攻めで
ござります」
既に 城下町は 火の手があがる
この 海沿いの小さな城は
混乱の極に 達した。
大軍を率いての 不意打ちに
大半の藩士たちは 甲冑に
身を固める暇もなく 武器を取り
必死で 戦った。
しかし 準備不足は否めず
一日を持たずして、城は
火に包まれ 落城。
すべてが 燃え尽き 灰燼と化し
藩士のほとんどが 討死してしまった
殿様、幼い若君、奥方、家老の三太夫、
数人の供回りだけは 城内の秘密の
抜け穴から ようやく城外へ逃れた。
海岸まで 逃げてのびてきた一行は
古びた 漁師小屋をみつけ
中へ 身をかくした。
全員が 手傷を負っている。
矢の刺さった 体で それでも
主君を 守ろうとするが
立ち上がるのも 容易ではない者たちが 大半だ。
いずれ この小屋も 敵に発見される。
いままで 沈黙をまもっていた
君主が 無表情のまま 口をひらいた
「誠に 無念である。忍びの者から
鬼山藩が 戦の用意をしていると
聞き及んでいたのに、油断していた。
城も落ち すべてを失った。
これで 奥方の口癖{この世の中に片付く
なんてものは、ほとんどありゃしない}が
間違いだと 立証されたのう」
君主は 小屋の戸を開け 砂浜に出た
海は 何事もないように
静かな波が 打ち寄せかえしている
「すべてが 灰や塵となり、無に向かっている
もはや これまでじゃ・・・。
余の 愚かさを 許してくれ。
平和な城生活で 盲目になっておった。
皆の者 余はここで 腹を切る。
生き残った者たちは 落ち延びよ
決して 無駄死には するまいぞ」
藩士たちは 号泣した
波のざわめきさえも その声を消せないほどだ
「三太夫 奥方と若の介錯を
おぬしに 頼みたい。
最後まで 世話になるのぉ。」
藩士たちで 落ち延びた者は 結局
一人もいなかった。 主君の 周りを
取り囲むようにして 切腹して果てた。
三太夫は 涙を枯らしながら
奥方と若君の 介錯をした。
浜辺に くずれ落ちるように座り込む。
そして つぶやく
「拙者一人 落ち延べる訳はなかろうが・・
奥方様には 申し訳ないが、わしが
腹を切れば、青海藩で片付かぬものは
あることとなり申す。 殿 今そちらへ
参りますぞ」
波が 侍たちの上に ひたひたと 押し寄せて
まだ 暖かい体を 抱きしめた
(完)
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