ヤモリ 18
つまり、問題は何も起きないということなんだ。何も変わらないというのが問題なんだ。不審者には襲われないし生理も来ない。いつまで経っても私はこんなやせっぽちのままで、高校生には嗤われて、それでも何一つ変わりはしない。
それで私に何ができる? 誰か大人に相談する? それがまっとうな手だろうな。でも言われることは分かってる。「大丈夫、心配しなくても生理はいつか必ず来るから……」(直子は笑った。)心配したことない人だからこそ言える台詞だ。「必ず」から外れる可能性なんて考えたこともなく、外れるとどうなるかなんて想像したこともなくて、そう言うことが何の解決にもなってないことに気付きさえしない大人の台詞だ。ま、大人って全員が生理来て大人になったんだろうから、言っても分からないのは仕方ないんだろうけど。
仮にもうちょっと踏み込んだことを考えてくれるにしても、それって何だろ。病院行く? でも病院で何する? 薬? 注射? 手術? 想像がつかない。でも仮にそれで身体はどうにかなったとしても、この性格や考え方まで変わる? そこまでの力ある? ないでしょう。その程度のことではやっぱり私自身は変わらない。むしろ身体と中身がちぐはぐになったら、ますます根深い訳の分からなさの中に置き去りにされるだけだろう。
どうしようもない。要するに、誰にも何ともしようがない。目に見えて困ったことがあるわけでもなく、大変なことが起こるわけでもなく、ただずっと変わらないというだけなんだから、説明のしようもない。
皆、起こることにどう備えるかという話ばかりする。修学旅行中に生理が来たらどうするか、男女交際において女子はどんなことに気を付けなければいけないか、痴漢を撃退するにはどうすればいいか、援助交際などで身を持ち崩すとどんな将来が待っているか……。表向きは困った問題の話をしているようでも、内心ではそんなことが起こりうる自分が嬉しくて誇らしくて、むしろそんな機会が実際にやって来るのを待ち望んでるみたいに見える。
そういう人たちにとっては、私が考えているようなことなんて問題以前の問題で、つまんないからはなから考える気にもならないんだろうし、私は何の問題もなく順調な人にしか見えないんだろう。つまり、そういう人たちが息をするように吐く私への称賛の言葉は、実際のところ、本人たちも意識してなどいないだろうけれど、何も変わらない私に対する、哀れみにすら達していない反応だったのかもしれないね。
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