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一人と六姉妹の話 25

少年は示された方に顔を向けた。強い光のコントラストで、庇は勝手口に三角形の濃い影を作っている。そこに若い女が立っているのは分かった。よその人間だということも分かった。だがその姿はべったりとした黒一色に塗りこめられていて、少年から見えるのは退屈そうに柱にもたれているもんぺの足元だけだ。もう少しよく見ようと少年は目を凝らした。だが周囲の眩しさのあまり、その顔や表情はやはり全く分からない。少年は、得体の知れない動物との距離を縮めるかのように用心深く勝手口へ近付いた。その時だった。

「おう、マサ坊」

少年は驚いて振り返った。そこには、まっさらな軍服に身を包んだ従兄が立っていた。少年は息を飲んだ。その姿は絵から出てきたように凛々しい。だが少年が驚いたのはその美しさのためではなかった。これもまた光のせいなのか、そこに立つ従兄は陶器製の人形のようにつるりとしている。顔かたちの要素は一通り揃っているのにどこか焦点が合わない。つまり現実味がない。物心ついた頃から親しんでいる従兄ではなく、知らない間に誰かが置いた物のようだ。

「中におってん息の詰まる」と、白い光を放ちながら偽物じみた従兄は言った。

少年は何か言おうとしたが、声がかすれて言葉にならない。少年は固まったまま相手をよく窺った。これは従兄か? そうだ。それ以外にないではないか。

不自然な従兄は少年の戸惑いに気付かないのか、その抱えている袋に目を留めると「すまんなあ、わざわざ」と言って少年の方へ手を伸ばした。「重かろう。貸してみい」

少年は思わず後ずさった。
「いや、よか……」

少年は救いを求めるように再び戸口の方を振り返った。だがそこにあったもんぺの足は消えていた。

その時だった。縁側の方からどっと男たちの笑い声が流れてきた。そして、それを境に景色も従兄も生気を取り戻し、少年の眼前には馴染んだ普段の視界が開けた。

「男連中なすることないでもう始まっちょうとたい。叔父さんも来るちか」
従兄は人懐っこく面倒見のいい普段の調子で言った。少年は動揺しながらも頷いた。そこへ「勝はどこいったつか!」と伯父の大声が響いた。

「分かっちょう!」

従兄は怒鳴ると、「ありがとうな」と言って少年の肩をポンと叩いた。去っていくその後ろ姿を呆然と見送りながら、少年は、遊んでいた女の子がじっと自分の方を見ていたのに気付いた。動揺の一部始終を見抜かれたようで腹が立ったが、少年はそちらを一瞥もせず、何事もなかったように戸口へ向かった。

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