もらいもの(仮)14
山口さんは何も答えない。無言のまま私から視線を逸らさない。だが私だって負けるわけにはいかない。確かにこれまでは声を上げない人生であった。どんな理不尽にも目をつぶり、世の中所詮そういうものだとやり過ごし続けた人生ではあった。今思えばそこはお前の非だと責められても致し方のない点かもしれない。だがさすがにこれは一線を超えている。さすがに私にだって尋ねる権利はあるはずだ。しかし口を開こうとした私より先に山口さんは言った。
「なんでというか……それで何か困ります?」
山口さんは開き直った犯人のように悪びれず姿勢を崩し、これ見よがしにげっぷをした。
「いや、困るとか困らないとか、そういう問題じゃないと思うんですけど」
「何を求めてるんですか?」山口さんは真顔で言った。「あんた、今食ったでしょ。飯付きなんですよ。家賃もいらなくて、別に外に出たい時は出たっていいそうなんですよ」
「いいそうなんですよ、って誰からの伝聞なんですか。誰がいいって言ってるんですか? 奥さんですか? ちょっとそこちゃんと聞かせてください。奥さんっていうのは大家さんなんですか? その人に命じられてやってるんですか?」
山口さんは、理解できない、という風にふっと笑った。「そんなに気になるかな」
「気になりますよ! 気になるでしょう。だって全然何も分からないで。山口さんはなんでこんなことしてるんですか? さっきいろいろ測ったりしてたのもやっぱり奥さんって人に頼まれたからなんですよね?」
矢継ぎ早に私が問い詰めている最中も、山口さんは、大人に注意された悪い中学生のようにへらへらしながら聞き流していた。その様子があまりにもふてぶてしいので、言い終えた私は相手がどんな詭弁でこちらを煙に巻こうとしているのかと身構えた。
だがその反応は私の予想に反するものだった。会話のボールを受け取った山口さんは、そのボールがこちらに来たということ自体に戸惑ったような顔をしてぐっと詰まった。答える言葉を持っていないことは明らかだった。だがなお虚勢を張り続ける姿に、私は、ああ、この人あんまり頭が良くないのだな、と思った。
「俺……布団取ってきます」
そう言うと山口さんは立ち上がり、すごすごと部屋を出て行った。隣の部屋からバリバリと包装紙を破る音が聞こえた。
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